表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/13

4、妖獣

「で、あたしの探す妖獣が居そうなところは思い当たるの?」


 ククーは探るような目で、ノールを見た。


「……時間移動する獣か。聞いたことないな」


 ノールは、今まで読んだ文献資料を思い返す。そして、少し気になるところがあったのを思い出した。


「人……禁制の地、辺りはどうかな?」


「人禁制?」


「何ヵ所かあるんだ。僕が知っているのは、金の泉と青の森だな……」


「へえ。どこにあるの?」


「僕の家に、地図がある」


「あんたの家はどこ?」


「さあ?」


 ノールは、今自分がどこの地域にいるのか検討がつかなかった。

 ククーが毛を逆立て、少し苛立った様子を見せる。


「信じられない。結局、役立たずじゃない」


「ごめんって。あの遺跡からどれくらい離れたのかわかれば、帰れるんだけど」


「まだあそこに戻るのは危険だと思うわ。あの小娘を連れて、何人か過去に戻ったとしても、まだ残りがいるはず。奴らの一番の目的はあたしだからね」


 ククーは最後の方は少し小声になり、目を伏せた。


「……やっぱ、ひとりは寂しい?」


「はあぁ!? 何で、そんなこといきなり聞くのよ!? そんな軽口叩く暇があったら、さっさと方法を考えなさい!!」


「とりあえず、僕のいた町は東にあったから、その方角に進んでみよう」


「……いいわ」


 ククーは頷くと、駆け出した。


「ちょっとストップ! ストップ! 速過ぎ! 追い付けないよ」


「うっわぁ……。本当に、人間って面倒ね」


 ククーは嫌そうな顔をしていたが、ノールは笑って頷くだけだった。



 ノールとククーは、森の中に入った。

 周りから獣に見られている気配を感じる。ククーは不思議そうに周囲を見た。


「この時代って、妖獣の皆って隠れるもんなの?」


「普段は、襲ってくるよ。まあ、人間は獣を殺すことは禁じられているから、襲われるまで基本手は出さないね」


「ふうん。ずいぶん、あたし達に優位な世になるのね」


「たぶん、今僕を襲ってこないのは、君と歩いているからじゃないかな? 獣と人が一緒にいることなんて珍しいし、何より君はファイキャトスだし」


「本当に、ファイキャトスが人間を滅ぼすのね!」


「いや……、今も人はいるから」


「どうせなら、滅ぼしちゃえば良かったのに」


「同感だ」


 頭上から低い声が降ってきた。見上げると、翼の生えた黒い獣が降りてきていた。鋭い牙と爪が見え、ノールは固まる。


「お前、伝説のファイキャトスか?」


 黒い獣が、ククーを睨んだ。


「そうらしいわね」


「そんな偉大な妖獣様が、何で人間なんかといるんだ?」


「この小僧に、この時代を案内させてるの。あたしは、過去から来たんでね」


「そんな小僧にか?」


 黒い獣は、今度はノールを睨んだ。


「それなら、俺が案内してやる。だから、こんな小僧引き裂いちまおうぜ」


 黒い獣がノールに近づき、手を振り上げた。と同時に、黒い獣に炎が吹きかかった。


「離れな。それは、あたしが決めた案内人よ。それとも、このあたしが決めたことに不服があるのかしら?」


ククーはゆっくりと、獣に近づく。


「へっ。いくら、伝説の妖獣でも、そんな大した力はねぇじゃないか!」


 黒い獣は少したじろいだが、強気で出る。


「何を!」


 ククーが炎を吐くと、獣は翼を広げると、空へ飛び上がった。そして、急降下すると、ククーの背を切り裂く。


「ククー!!」


ククーの銀の毛が、赤く染まる。


「空を飛ぶなんて、ズルいわね!」


 ククーは、何度も前足や炎で応戦しようとするが、どうしても空へ逃げられてしまう。


「伝説の妖獣なら、それを防いでみせるんだな」


 ククーはなすすべがない。


「ククー! 木の枝の上に!」


 ノールがそう言い、ククーは少し躊躇ったが、枝に飛び乗った。


「木々に隠れるつもりか? だが、俺は目が良いんでな!」


 黒い獣はそう言うと、急降下してくる。


「もっと中にっ!」


 ククーは素直に、小柄な体を生かして、木々の枝の中に入った。黒い獣が追ってくるが、巨木の枝は複雑に絡み合い、翼を広げたままでは入り込めない。それでも、周囲の枝を折り、前足を伸ばして、ククーに襲い掛かろうとしてきた。


「今だ、炎をっ!」


 ククーは息を吸うのを見て、黒い獣は後退しようとする。しかし、ノールはそれを見越していた。


「上の木の葉を燃やして!」


 ククーは上を向き、葉に吹き掛けた。すると、火はあっという間に燃え広がり、頭上を赤くした。火の粉や、燃えた葉や枝が、黒い獣に降り注ぐ。


「あちちっ!」


 火の粉が、黒い獣の翼にかかり火傷をしたようで、地上に降り立った。


 そして隙をつき、ククーは黒い獣の上に乗った。


「今なら、あんたの喉に食い付くことだってできるわ」


 ククーは首元に軽く噛み付き、低い声で言う。黒い獣は固まった。


「……参りました、ファイキャトス様」


 ククーは得意気に、ぴょんと背中から降りる。黒い獣は落ち込んでいた。ククーは、そんな黒い獣の方を振り返る。


「あんた、負けたんだし、ノールの家探してきてよ」


「ノールの家?」


 ククーは、離れたところで見守っていた、ノールの方を示す。ノールが前に出た。


「シャクガの町って所なんだ。町の真ん中に、大きな眼鏡の石像がある。その町がある方向を知りたいんだ」


「いいだろう」


「人間の町なのに、探してくれるの?」


「負けた者は、勝った者へ絶対……だからな」


 黒い獣は空へ飛んでいった。

 ククーは上機嫌で、ノールの方を見た。


「あんたのアドバイス、役にたったわ! あんた、戦いの素質あるんじゃない?」


「ないよ。ただ、空へ飛べない状況を作れば良いと思っただけ」


「ふうん?」


 ククーはそれ以上、追及しなかった。そして、周囲を見回す。


「で、この燃え広がっていく炎はどうするの?」


「ククー、炎はコントロールできないの?」


「無理よ。あたしは、炎吐くだけなんだから。あたしのこと、当てにしてたの?」


 そんな話をしているうちに、炎が広がっていく。


「ヤバイ……」


「とりあえず、この森から逃げるわよ!」


 後にファイキャトスの伝説には、「森一つを焼いた」という記録が付け加えられることになる。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ