表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/13

3、正体

ーーノール、聞こえる?


 暗闇の中、鎧兵に連れていかれたヘルの声が聞こえた。しかし、ノールは声が出ない。


ーー私は大丈夫よ。とりあえず、目隠しされて、どこかに連れて行かれてるけど、危害は加えられていない。でも、何か変な装置の音がするの……


 だんだんヘルの声が小さくなる。


「ヘル!」


 そう声をあげると共に、ノールは目を覚ました。辺りは、闇夜に包まれている。

 ヘルの声は、もう何も聞こえなくなってしまった。


「……ヘルのテレパシーか」


 ヘルは昔から、弱々しいながらも、テレパシーの妖術を使えた。何故使えるのかは、本人もわからないらしい。

 ノールは息を整えると、木の幹にもたれかかる。


「大丈夫とは言っても、ヘルのテレパシーは弱々しかった。どうすれば良いか……。それに、この子も……」


 獣は、まだ寝息をたてている。

 ノールは、またウトウトと眠りに落ちた。



 ノールは息苦しさで、目を覚ました。すると、赤い瞳が間近から見下ろしていた。


「こんな、外で、しかも妖獣の前で眠れるなんて、無防備な小僧ね」


 獣は、ノールの胸から降りる。ノールは体を起こし、獣を見つめた。


「喋れるんだ?」


「妖獣だから、当たり前でしょ」


 声としゃべり方から、この獣はメスのようだった。


「人語を話す妖獣は、今まで会ったことないけど?」


「はあ? 妖獣は皆、人語を話せるはずよ」


「えっ!? そうなの?」


「何も知らないのね。……まあ皆、人間と喋りたくなかったのかしら。あたし達妖獣は、人間が嫌いだからね」


「そっか!」


 ノールは簡単に納得したので、獣は拍子抜けしたような顔をした。


「そういえば、もう体は大丈夫なのかい?」


 ノールが触ろうとすると、獣は毛を逆立て威嚇する。


「おかげさまでね。それにしても、妖獣のあたしを助けるなんて、何か企んでいるの? もしくは、ただの馬鹿?」


「……そりゃあ、妖獣が好きだからさ」


「はあ?」


「その身のこなし。妖しい業。美し過ぎる!」


「つまり、馬鹿なのね。……いくら誉めたって、妖獣は人の敵」


「本当に、妖獣皆人が嫌いなのかな? ……昔、妖獣に助けられたことがあるんだ」


「信じられない! 夢でも、見てたんじゃないの?」


「誰も信じてくれないんだよな」


「まあ、そんなことどうでもいいわ。一応、助けてくれたことはお礼を言ってあげる」


「待って!」


 去ろうとする獣を、ノールは慌てて呼び止める。


「何で、君は奴らに追われていたの? カキン王とか言っていたけど、奴らは何者? それに、君をファイキャトスと言っていたけど、絶滅したんじゃなかったんだね?」


 獣は赤い瞳で探るように、じっとノールを見つめる。


「……そんなこと、教える義理ないわ」


「お願いだ! できる限り、情報をくれ! ヘルが捕まったんだ!」


「あの小娘のこと?」


「何故か、変な声がヘルを捕まえるよう命令してたんだ! 君が困っているなら、僕もできる限り協力するから!」


 獣はしばらく黙っていたが、ため息をついた。


「いいわ。ただし、あんたも、この時代の知り得る情報をあたしに捧げなさい」


「この時代?」


「あたしは、ファイキャトスの生き残り。そして、奴らはホウエン国のカキン王の部下。そして、あたしは過去から来たの」


「過去から!?」


「まさか、未来がこんな寂れているとは思わなかったけど……。奴らは、未来を見てきたと言っていた。ファイキャトスが、奴らの文明を消すところを」


「事実だったんだ……」


「奴らは未来を変えるべく、滅ぼされる前にファイキャトスを根絶やしにしようとした。それだけでは飽き足らず、その強大な力を手にできないか、と考えた。仲間は、戦いで命を落としたり、利用されるくらいならと自害したり、……あたしだけ残った。だから、奴らはあたしの生け捕りが目的」


「どうやって、未来に?」


「奴らが作った、時移動装置を使った。仕組みは、詳しくはわからない。時間移動には、何か法則がいるみたいだし……。お陰で戻り方すらわからないわ」


「そんな技術まで持っていたなんて……。何でヘルが捕まったの?」


「そんなの知るわけないでしょ。……まあ、あの小娘も赤い瞳だったから、あたしと間違えたとか?」


「そんな馬鹿な」


「奴らは、そんな馬鹿なことをするのよ。まあ、小娘はこの時代にはもういないんじゃないかしら? この時代に何もないのは奴らも同じだから」


「そんなっ!?」


 獣は首を振ってから、ノールをキッと睨むように見た。


「さあ、今度はあたしが聞く番よ! 本当に、過去にファイキャトスが人間を滅ぼすの?」


 ノールは、過去から来たという妖獣に、未来を教えて良いものか少し躊躇う。


「……そう言い伝えられている。何しろ、文献が少ないんだ。遺跡も、僕達がいたところも最近見つけられたところで、調査中だったんだ」


「あの大文明がね……」


 獣は吐き捨てるように呟く。


「その時代の、被害に遭ったと思われる人の骨も見つかっていない」


「じゃあ、あたし達の業火で全てを消し去ったのね」


 獣は得意気に、少し火を吐いて見せた。


「で? 奴らの弱点とかは?」


「わからない。本当に、何も残っていないんだ。まるで、ホウエン国は、幻のような国だったんだよ」


「役に立たないわね。まあ、いいわ。特に期待なんてしてなかったしね」


「待って!」


 また去ろうとする獣を、またノールは慌てて呼び止める。獣は面倒臭そうに振り返った。


「まだ何か?」


「これからどうするんだ?」


「とりあえず、奴らが時代移動に利用した妖獣を探すわ」


「……僕も連れてってくれ」


「はああ?」


 獣は不機嫌さを露にする。


「僕は、ヘルを助けたいんだ」


「連れていったとして、あたしの得になるの?」


「……この時代の地理がわかる」


 ノールは真剣な眼差しで獣を見る。獣はしばらく考えてから、頷いた。


「……いいわ。今のところ、あんたは、あたしに危害を加えることはなさそうだものね。でも、邪魔になったら切り捨てるし、いつかあたしに危害を加えるようだったら、容赦なく切り裂く」


「大丈夫だよ」


 ノールは微笑む。獣は顔を歪ませる。


「あんたと話すと、調子が狂うわ」


 獣は背を向け歩き出そうとして、また振り返った。


「あんたの名前、一応聞いとくわ」


「ノール。ファイキャトス、君にも固有の名前はあるのかい?」


「……ククー」


「よろしく、ククー」


「小僧が・・・、気安くあたしの名前を呼ぶんじゃないよ」


「理不尽な……」


 憎まれ口を叩く獣・ククーを、ノールは微笑ましく感じた。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ