2、出会い
「いてっ……」
ヘルは上手に着地したが、ノールは失敗して尻餅をついた。
「……何、ここ?」
ヘルは不安そうに辺りを見回す。
落ちた場所は、人工的に造られた空間だった。あちこちに、謎の機器がある。
「うっわぁ!」
ノールは声をあげて感動した。
「この高度な機器は、きっとホウエン国のものだ! 大発見だよ!」
「そっ、そうなの?」
普段見たことないくらい、興奮しているノールに、ヘルは少し引いていた。
「あっ……」
ノールの動きが止まった。
機器の一つが、弱々しい光を放っては消え、放っては消え繰り返している。
二人はおそるおそる近づいた。
大きなカプセル状になっていて、中には両手で抱えられるくらいの、白っぽい毛の小さな獣が横たわっていた。酷い怪我をしている。
「死んでる?」
「いや、生きてる」
ノールは獣を抱き抱えた。
「ちょっ! 危険な妖獣かもしれないのよ!」
ヘルはナイフを取り出すと、獣に突きつける。ノールは首を振った。
「妖獣を殺すことは、禁じられているだろ?」
「別に、直接手をくださなければ……、見殺しにしたって大丈夫よ!」
「そうだったとしても、僕は見殺しにはできないよ。助けられるか、わからないけど……」
ノールはそう言うと、鞄から傷薬を取り出して、そっと獣に塗る。すると、すごい早さで傷が塞がっていった。
「治癒力が早い。ただの妖獣じゃないかもしれない」
「ちょっと、どうするのよ!」
傷が塞がっても、獣はまだグッタリしていた。
「休ませてあげなきゃな……」
「まったく……」
どこまでも真っ直ぐなノールに、ヘルはため息をついた。その時、獣がうっすらと目を開けた。
「えっ……」
二人は同時に息を飲んだ。その獣の瞳は、赤かったのだ。
「この獣は、ひょっとして……伝説の……?」
『ファイキャトスだ』
そう言う声と共に、後ろから金属の擦れる音が聞こえた。
『やっと、追い付いた……』
振り返るとそこには、全身金の鎧兜に身を包んだ兵達がいた。兜で顔は見えない。
ヘルは、反射的に身構える。ノールは鎧兵達を疑わしげに見た。
「ファイキャトスは、絶滅したのでは?」
『答える義理はない。それは我々の獲物だ! 返せ』
ノールは、小さな獣を強く抱き締めた。
「断る。獣を殺すことは、禁じられているはずだが?」
『……なるほど。この時代の決まりか。別に、殺すわけではない』
ノールもヘルも、この鎧兵が危ないと感じ取っていた。何より、獣が弱々しくも唸っている。
『チッ。……カキン王、どういたしましょう?』
鎧兵の一人が、どこにともなく言う。
「カキン王!?」
ノールとヘルは顔を見合わせる。
『カマワン。ワレノ、ジャマスルモノハ、ヤレ』
鎧兵の胸元の黒い装置から、そう言う声が聞こえた気がした。しかし、二人は声の出所を確かめるゆとりはなかった。
「ヘル、こっち!」
ノールが見つけた横穴へ、駆け出す。鎧兵は追いかけてきた。
「行き止まりだったら、どうする?」
「大丈夫。風が抜けてる。外に出れるよ!」
「……上手いこと奴らをまかないと、おじさん達も巻き込んでしまうわ……」
道はどんどん狭くなり、だんだん兵との距離が縮まってくる。
突然、ヘルは立ち止まった。
「ヘル!?」
「立ち止まらないで、行って!」
「はっ!?」
ヘルは短剣を取り出した。
「私が、時間稼ぎするから、逃げて!」
「そんな!? できるはずない!」
「このままじゃ、二人とも捕まるわ!」
「でも!」
ヘルが、鎧兵に斬りかかる。
「どうせ、あなたじゃ戦えないでしょ!?」
『赤い瞳の娘? ……もしかして』
『ソノムスメハ、トラエヨ』
またどこからか、先ほどの声が聞こえ、鎧兵がヘルに手を伸ばす。
「触るな!」
ナイフを飛ばし、鎧兵の手を弾く。しかし、ナイフではダメージは与えられない。
「何してるの!? ノール! その妖獣を放っておけないんでしょ!?」
とうとう、ヘルの腕が鎧兵に捕まれてしまう。ノールは歯を食い縛り走り出した。
「ヘル、助けを呼んでくる!」
「ええ!」
ノールは、穴の出口についた。
しかし、そこは崖になっていて、下は大きな川が流れている。向こう岸に行くことはできない。
ノールは、獣を抱き直す。
「ヘルだって、命をかけてくれたんだ」
そして、思い切って川へ飛び込んだ。
流れは速かったが、何とか岸にたどり着く。獣は、川に飛び込んだ衝撃で、また気を失っていた。
もう夜になっていた。
現在地はわからない。夜に無闇に移動するのも危険と判断し、焦る気持ちを抑えて、朝まで大人しくすることにした。
「ヘル、無事でいてくれ……」
ノールはそう呟いて、小さな獣を抱き締めた。




