1、事のはじまり
「ーー遠い昔、世界はカキン王が治める、高度文明国家・ホウエン国に支配されていた。人々は、ホウエン国の残虐さに絶望していた。
その中、人間の天敵である妖獣達は、ホウエン国に抗った。
長い争いの末、一匹の妖獣・ファイキャトスの業火が世界中を赤く染め、ホウエン文明を焼き尽くした。妖獣達が勝利をおさめたのだ。
そして、人々は大人しくなり、妖獣達の世がきたのだーー。
……って、ヘル、聞いてる?」
遺跡の調査をしていた学者の少年・ノールは、欠伸をしながら壁にもたれかかる少女・ヘルを見やった。
「はいはい。どうせ、お伽噺でしょ?」
「だから、それが実際にあった出来事である証明をするために、僕達は遺跡調査にきたんだから」
「でも、壁とか見て半日も経ったじゃない。なのに、なんの発見もなし」
「2000年近く前のものなんだから壊れたり、砂だらけになったり、風化してるんだってば」
「つまんない」
ヘルはまた欠伸をし、ノールは困ったようにため息をつく。
「だから、ついてくるべきじゃなかったんだよ。ヘルは学者じゃないんだから」
「だって、町の外なんて面白そうだったんだもの。それに外では、私は役に立つでしょ?」
「そりゃそうだ!」
近くで作業していた、ノールと同じ調査団の人達はそう言って笑う。
「ヘルちゃんは、本当に強いからな。ノールも、少しは鍛えろ! 自分の身も守れないんじゃ……」
調査団の一員のノールの父親もやってきて、顔をしかめて言った。
「…………」
「おじさん、大丈夫よ。ノールは、私が守ってあげるから!」
「本当、ヘルちゃんはしっかりしてるよな。妖獣を見ても冷静でいられるし、武器の扱いは上手いし……。この団の誰よりも強いんだからな」
知識にはある程度自信あるが、調査団の皆、戦いのセンスはない。
この世は、妖術を使う獣達が闊歩している。妖獣達は、人を嫌い襲いかかってくるのが常だった。
だから、町の外に出るのは、戦いのすべを身に付けていなければならない。
しかし、ノールは武器を持とうとはしなかった。
ノールは居心地悪くなり、別の場所の調査に移動した。
「待ってよ!」
ヘルが追い掛けてきた。
「一人で行って、妖獣に出くわしたらどうするのよ」
「ヘルにはできない、頭を使って逃げるさ」
「言ってくれるわね……」
ノールは少し笑ってから、また壁の調査を始めた。
ヘルは、頼りない普段とは違う、ノールの真剣なその横顔を、見つめ微笑む。
「ねえ、その伝説の妖獣って、どんなのだったの?」
「ファイキャトス。町一つ分くらいの大きさがあり、口から炎を吐き、二本の尾で風を起こす、最強の妖獣だったって伝えられてる。妖獣の中で唯一の綺麗な赤い瞳で、流れるような銀の毛の美しい種族だったとも」
ノールはウットリして言ってから、ハッとして目を伏せた。
「……まあ、もう絶滅しちゃった種類だけどね」
ヘルは顎に手を当ててから、うつむいた。
「……思い出した。その妖獣みたいな、赤い目だからって、昔いじめられてたんだ」
「いじめてたの間違いじゃなくて?」
「失礼ね! これでも、可哀相な過去を背負ってるのよ!」
「はいはい。綺麗な瞳なのにね、皆わかってないね」
「えっ?」
ノールはサラッと言ったが、ヘルは顔を赤らめた。しかし、ノールはヘルのその様子を気に求めない。
「そんな綺麗な妖獣会って見たかったなぁ……」
「……。あんた、何でずっと戦おうとしないのか気になっていたけど、妖獣オタク?」
「なっ!? ただ、好きなだけだよ。そりゃ、ファイキャトスの骨とか見つからないかなとは、思ってるけど」
今度は、ノールが真っ赤になって慌てる。
ヘルはため息をついた。
「思わずドキッとした自分が情けないわ」
「ん?」
ノールが首を傾げたので、ヘルは少しムッとしてから、諦めたように首を振った。
「何でもない! それより伝説のファ……ファイヤ……?」
「ファイキャトス」
「そう! そのファイキャトスが……」
ヘルがそう言いかけた時、大きな揺れが起こった。辺りの物が倒れていく。
「しまった」
「えっ?」
「床から調べるべきだった」
ノールが冷静にそう言っている間に、もう床が崩れ真下に穴ができた。
「落下する危険があったから」
「ちょっとー……」
二人はそのまま、遺跡の床と共に、地下の暗闇に落ちていくのだったーー。




