35、帰還
「みんな!!」
ウロタは我に返ると、そう叫んでいた。
周りは、色とりどりの草木に囲まれて、穏やかな風が吹いている。今までいた殺伐とした過去ではなく、本来自分がいる時代だとわかった。
しかし、ノールはもちろん、ククー、ヘル、リカク、トキスの姿はなかった。
ウロタが呆然としていると、後ろから足音が聞こえた。振り返ると、そこにはウロタのよく知る、いつもの杖を持ったノールがいた。
「ノールさんっ!」
ノールは、大きなその手をウロタの肩に置く。
「おかえり。そして、やっと君にお礼が言える。ありがとう」
ノールの優しい声を聞き、ウロタの目が潤む。
「ノールさん、俺……」
「人のくせに、ノール王を『さん』と呼ぶなど、生意気だ!」
そう言ったのは、ノールの後ろに付き従っている妖獣だった。
ウロタはハッとして一歩下がり、うやうやしく頭を下げる。
「失礼しました、ノール王……」
ノールは苦笑した、ウロタの顔を上げさせた。
「前にも言ったが、そんな堅苦しくなくていい。お前には、色々と助けてもらったから。友人のように」
「ありがとうございますっ!」
ウロタの笑顔を見て頷くと、後ろの従者達の方を振り向く。
「皆も、別に改まった話し方しなくても良い」
「しかし!」
「ログなんて、呼び捨てだしな」
ノールは微笑む。ウロタは目を細めた。
「俺……、あれからノールさんに何があったのか知りたいッス! どうやって世界を統一して、人にも妖獣にも慕われる王になったのか!」
ノールは苦笑する。
「まさか、あの時言っていた未来の王が、自分だったとは……。ウロタは教えてくれなかったしな……」
「言ったら、ノールさん王になってなかった気がしたんで……」
「確かに。……そうだな、話さなければな」
ノールは杖を見つめ、きつく握り締めた。
「あれから、僕達は自分達の時代に戻り、更に各地を回った。個人だけどホウエン国の遺跡調査に力を入れるためと、人と妖獣の共存方法を探すため。そして、ウロタ達が言った未来の王を見つけるため」
「まあ、それはノールさん自身だったんッスけどね」
ウロタが茶化すように言う。
「本当、参った……。未来の王に会いたいと思ってるのに、行動すればするほど、僕が王にされつつあるんだからな」
ノールはため息をついた。ノールの仕草は、さっきまで会っていた過去の彼とそっくりで、ウロタはまた笑ってしまう。
「それから、ジャムと知り合って、解読とかの協力をしてもらう。僕は彼女のことを知っていたけど、彼女は僕を知らなかったからね。頼むのが大変だったよ。まあ、僕達は色々調べて、多分リカクが残したと思える、文献を見つけたんだ」
「ホウエン文明の文献は、ほぼ燃えたんじゃ?」
「リカクが、あの日以降書いたものだよ。僕宛に残したものとも違った。忠告するように、各地に残っていた」
ノールの顔が少し険しくなった。
「『ホウエン国・カキン王が残した、邪妖獣の卵が何処かに存在す。2000年後には孵化する危険あり』と。丁度、その文献を見つける1年くらい前から、凶悪な妖獣が人も獣も見境なく襲い、町や森を消しているという話があった」
「ジャーガ……」
ウロタは暗い顔をして呟いた。ノールは頷く。
「ああ。ウロタのいた青の森を襲った妖獣。ククーの定めた掟が無効な、カキン王の意思を持つ妖獣……」
「俺、あの時、過去のノールさんにジャーガのこと、話そうかと思ったんッス……。でも、ノールさんとの出会いが消えるのも怖かった……」
ウロタはうつむく。
「未来は変えられるかもしれない。それでも、ウロタがこの未来を選んでくれたんだ。今は間違いではないさ。僕も、いくらホウエン文明の……カキン王の妖獣だからって、葬ったことは少し後悔してる」
ノールは杖を強く握り、見つめる。
「でも、皆ノールさんのおかげで救われたんッス! それで、人も獣も分け隔てなく助けるノールさんが、王の器だと皆が決めたんだから、間違いないッス! 俺、改めて、あなたに会えて良かったと思うッス!」
「ありがとう。僕も、ウロタに会えて良かったと思ってる」
ノールは少し考える素振りを見せ、ウロタは首を傾げた。
「……ウロタ、城に来てみるか? 城は初めてだろう。……妃も、久しぶりに一緒に話したいだろうし」
「ノールさん、結婚してたんッスか!?」
ウロタは、初耳だった。
「ああ、やっぱり話してなかったな……」
ノールは頭をかく。
「ジャーガとの戦いで、彼女は足に重症を負ってしまったから、外出は控えてるんだ。それで城の仕事ばかり任せてるから、ストレスで限界が近そうで……」
ノールは苦笑する。
「いつも僕とは外で会っている、ウロタは知らなかったな。ずっと、なぜ、あの時君が彼女を知らなかったのか、不思議だったんだ」
ウロタは、目を見開く。
「それって!?」




