34、運命の日
ククーの炎が、国全体を包んだ。
建物は焼け、大きなものや小さな人が身に付けているあらゆる機械が崩れていく。人々の悲鳴があがった。
「……っ」
ノールは目を覚ます。目の前には、ククーと同じ赤い瞳を潤ませたヘルがいた。
「良かった! 気がついたのね!」
強風が吹く。ノールはハッとし、起き上がろうとするのを、ヘルは止めた。
「傷に障るから、動かないで……」
「ククーは!?」
「……運命の日よ」
ヘルの示した先には、ホウエン国に炎を吐く、巨大なククーの姿があった。あれだけ好きだった伝説の光景。いざ、目の前にするとノールは複雑だった。
「ククー……」
ノールは拳を握る。
(僕はどうすれば良かったのだろう? 彼女の何かを変えられただろうか? 迷って、中途半端で……。結局……、こうして人を殺めてしまうことになる。過去を変えないのは、正しいことだとは思う。僕は、人の味方なのか、妖獣の味方なのか……)
ノールは唇を噛み、うつむく。
「ノールさん、見て下さい!」
ウロタがそう声をかけた。ウロタが指差したのは、丁度人が炎に飲まれるところだった。
「……っ!」
次の瞬間、炎に飲まれた人は無傷で炎から出てくる。身に付けていた、機械だけがなくなっていた。
「これは……」
「赤の山で手にいれた能力だ……。炎が意思を持ってるんだ」
「ククーが、人を傷つけたくないと望んだのでしょう……」
ウロタとヘルの言葉に、ノールは頷いた。
瓦礫が人の上に降る。しかし、風が起こり、瓦礫の下敷きは免れている。ククーの起こした風が守ったのだ。
ノール達は、ホウエン国が炎に飲まれ、滅ぶ様子を黙って眺めていた。
その炎はホウエン国以外にも段々広がっていき、だんだんノール達の方にもやってくる。
そして、後ろから来る人の気配に気づいてなかった。
「ファイキャトスめ、よくも……」
背後からやってきた者はそう言うと、いきなり光の紐でリカクを縛った。
「カキン王!?」
息を切らしながら、ボロボロの状態でやってきたカキン王は、ノール達にまだ隠し持っていた銃を向ける。
「我が、ホウエン国は獣ごときに滅ぼされはせぬ! リカク、お前の脳さえあれば、また再興できる!」
カキン王はリカクを引き寄せ、小型な機械を飲ませようとした。
「リカク!」
ノールは起き上がり杖を掴もうとするが、傷の影響か手に力が入らなかった。
「邪魔をするな!!」
カキン王はノール達に向かって引き金を引く。ノールは間に合わない。
その時、ノール達の前に、トキスが飛び出した。ノール達は目を見開く。トキスは、全ての弾を受けた。
「トキスーー!!」
リカクが叫ぶ。トキスは、最後の力を振り絞り、カキン王にその血を振りかける。すると、目に入ったようで、視界を奪った。カキン王は、目を擦りもがいている。
リカクは一度、小さく変化し紐を抜けると、トキスに駆け寄った。
「トキス! トキス!!」
「リ……カク、お……前は、もう、自由……だ……よ……」
トキスはリカクにそう言うと、力尽きた。
それと、同時にノール達の体が光る。どんどん体が透けていく。
「トキスの力がなくなったから、元の時代に戻るのか!?」
ノールは自分達の異変よりも、肩を落としうつむいているリカクの後ろ姿が気になっていた。
「リカク!」
リカクは、ゆっくり立ち上がると落ちていたカキン王の剣を拾う。そして走り出し、その刃でカキン王を貫いた。
「グハッ……。貴様……」
カキン王は、倒れた。リカクは、見下ろす。
「もう、あんたの時代は終わりなんだよ。全て……何もかも残らない! お前なんか、王の器じゃないんだ!!」
「くっ、我が……滅んで……も、い……つか、我……の意思……を持った、生物が……、この世に……復讐を……」
カキン王はそう言っている内に、ククーの炎はすぐそこまで来ていた。
炎はカキン王を飲み込む。
炎が移動すると、カキン王だけは、その姿残らず消えてしまった。
リカクは、消え行くノール達の方をやっと振り向く。その頬に涙が光っていた。
「ノールさん、ありがとうございました。こんな別れ方ですみません……」
リカクはノールに近づき、そっと何かの紙を握らせる。それと同時に、リカクは一度ククーの炎に飲まれた。
「??????」
炎は去ったが、リカクの翻訳機はなくなっていた。
(何を言ってるんだ?)
ノールは声が出ない。
リカクは頭を下げると、悲しそうに手を振った。
「?????」
リカクが別れの言葉を言った気がした。
(こんな状態のリカクを残していけるわけないだろ! それに、ククーにまだお別れをしてない……。駄目だ! まだ戻れない! 待ってくれ!!)
ノール達は、完全に消えてしまった。
ーーノール、あたしはいつかあんたへ繋がるかもしれない人間を殺めることなんかできないわ。あんたは、あたしと関係のない未来の人なのにね。本来なら、出会うことのない人だったのに。だけど、もうあたしがいない未来でも、あんたはいてほしいと思う。その時代にあたしも生まれ変わって、今度は人間としてあんたの側にいるわ……。あんたが綺麗と言ってくれた、この赤い瞳を持って……。




