33、カキン王
「元凶のお出ましね」
ククーは警戒するように、姿勢を低くする。
「まさか、時の妖獣を使って調べさせた未来のファイキャトスが、こんな軟弱な個体のことだったとわな」
カキン王は鼻で笑う。
「そんな軟弱なファイキャトスを、消すことも捕らえることもできなかったくせに」
ククーの挑発に、カキン王の目が鋭くなった。
「やれ」
カキン王が手を上げ指示すると、兵達は一斉にククーに向けて銃を乱射した。
「下がって」
ノールはククーを庇い、杖を掲げ、光の壁が守ってくれる。しかし、防ぎ切れなかったのか、ノールから血が流れていた。
「ノール!!」
「……大丈夫」
ノールはそういうが、今も四方八方から撃たれて続けているいる。そして光の壁の隙間を、突かれてしまった。ククー目掛けてくる弾に気付いたノールは咄嗟に杖を下ろし、ククーを抱き締め庇った。
ククーは、目を見開いた。ノールの背中から、大量の血が流れている。
「ノールっ!!」
ククーとヘルは、同時に叫んだ。
カキン王は、撃つのをやめさせる。
「はっ? 蛮族が、獣なんかを庇ったのか?」
「くっ……、ククー……、ごめ……ん……。かっ……」
ノールは色々言いたかったが声が出ず、何とかそれだけ言い、意識を手放した。
「ノール!?」
皆、ノールに駆け寄る。リカクは、狼狽えるヘルとウロタに、止血の指示を出す。
ククーは、目を見開き固まっていた。ククーの銀色の毛は、ノールの血で染まっている。
「それにしても、蛮族ごときが面白い杖を持っているな」
カキン王がそう言い近づくと、ヘル達はすぐさま戦闘態勢をとった。
「まあ、後で良いだろう」
カキン王は、ゆっくりとした動作で、ククーを見る。
「さて、今日中にお前を始末しなければいけなかったな。お前を操れたなら、もっと我が国の発展に繋がっただろうに……」
カキン王は、今度は剣を取り出す。ククーは、ノールを見つめて動かない。
「ククー?」
ヘルは、ククーの周りの空気が変わったことに気付いた。
ククーは、全身の毛を逆立てた。
「許さない! 許さない!! お前を!」
ククーがそう叫ぶと、体が大きくなる。
「しまったっ!! ファイキャトスをやれ!!」
カキン王は声を張り上げる。
兵達は撃つが、ククーはそれに向かって炎を吐くと、銃が燃え出す。
「馬鹿な!? 対ファイキャトス用に開発したものが!? 奴の炎は効かなかったはずなのに、いつの間に……」
兵は銃を捨て、剣や槍に持ち代え、ククーに向かう。しかし、ククーが尾を一度振ると、兵達はいとも簡単に吹き飛ばされた。
「ちっ! 妖獣ごときに我が最高国家を、滅ぼされてたまるかっ!」
カキン王は、銃を別の持ち直す。しかし、ククーがすかさずそれに向け火を吹くと、銃は燃えて崩れ去った。
「くそっ!! 何故、そんな芸当ができる!? この間までは、我らに敵わなかったくせにっ!!」
ククーは、カキン王を見下ろす。
「弱い……弱い……。人間が、雑魚同然ね……。こんな国に……、こんな奴に……あたしはっ!」
ククーは歯を食い縛り目をつむると、元の大きさに戻った。そして、カキン王に近づく。カキン王は、怪訝そうな顔をした。
ククーは息を吹くと、自分とカキン王を中心に円を描くように炎で囲った。
「カキン王、勝負よ。仲間の手助けも、小細工もなしで、その剣で真剣勝負。もちろん、あたしも炎と風と巨大化の妖術も使わない。あんたも、王以外に剣の使い手として、名が知れていたでしょう? 機械とか銃とかなくても、その腕で、あたしと戦ってみなさいっ!!」
「貴様、馬鹿にしているのか!?」
カキン王は剣を構える。ククーも姿勢を低くした。
「ククー!」
ヘルが叫ぶ。
「邪魔しないでね。これは獣と人の運命を背負った素朴な勝負」
「妖術使ったら、もうお前の方が圧倒的に、ホウエンの軍隊よりも強いだろ!?」
ウロタの声が聞こえる。
「そんなんじゃ、あたしは妖術があったから、勝ったことになる。あたしは、妖獣としてじゃなく……、あたし……ククーとして、人間……カキンに勝ちたいの!」
ククーは、起き上がってきた兵を睨んで、また尻尾で風を起こし吹き飛ばした。
「言っとくけど、その炎はあたし以外は通さない。だから、人も銃も通らないわよ」
「ククーさん……」
心配そうにリカクが声をかける。
「大丈夫よ。あたしは、絶対負けない。だから、ノールを頼んだわよ」
カキン王は舌打ちをした。
「まさか、こんな蛮族的な戦いになるとはな」
カキン王は剣を構える。
「種族の存亡なんて、本当はこんなものでいいのよ。片方が滅びる必要なんてない。ただ、あんたが王でなくなれば済む話なんだから」
ククーは目を細めると、爪で切りかかった。カキン王は、剣で防ぎ振り払う。
(一瞬の隙も許されない)
ククーは態勢を直すと、飛びかかる。
(ヘル、最初は気に入らなかったけど、あたしと同じくらいの戦闘能力を持っていたわね。あたしも、あんたを他人とは思えないわ)
カキン王の腕に噛みつくが、さほどダメージも与えられず、逆にその間に剣で斬りつけられる。銀色の毛が、赤く染まった。
(トキス、あんたはこの戦いの結末を知っているのでしょうね。ずっと、皆の運命を知っていて、淡々としていたの? あたしは、そんなあんたが凄いと思ってる)
ククーは、顔を目掛け引っ掻く。カキン王は、手で顔を覆った。
(リカク、あんたは本当に賢い子ね。でも、あんたの武器は変化の術でも、その賢さでもない。あんな国にずっといても、希望を失わなかった信じる心。あんたなら、この世界を導けるかもね)
すかさずククーは、カキン王の喉に向かって軽く噛みついた。歯形に、血がにじみ出す。
(ウロタ、あんたの彼への崇拝ぶりには正直引いたわ。でも、あんたも辛い過去を持っていて、明るく生きていた。ちゃんと、自分の未来を守るのよ)
ククーは口を離すと、血を吐き捨て、カキン王から離れる。そして、一気に助走を付け飛び掛かった。
(あたし、復讐のために今戦っているんじゃないわ。あんた達の未来のために、今カキン王を倒したのよ)
カキン王の顎に頭突きをする。カキン王の歯は折れ、目を回し、倒れた。
(ノール……)
ククーは周りの炎を消す。皆、安堵の息を吐いた。
しかし、ククーは皆の方を見ず、再びその身を大きくした。
「ククー!!」
そうヘル達に呼ばれるが、ククーは振り返らずホウエン国へ向かった。
(このホウエン文明は、未来には必要ないわね……)
朝日が登り始める。ククーは息を吸い込むと、その口から業火を吹き出した。




