32、幻覚
ノール達は、白の谷を抜け、丘の上からホウエン国を見下ろした。
結界石は壊れているはずだが、国の外にも機械がはびこり、妖獣達は近づこうとしない。
ククーは深呼吸すると、一歩踏み出した。
「いよいよね。行くわよ」
ノール達が頷くと、ククーは走り出す。皆、それに続こうとした。
すると、突然、黒い靄がククー達を包んだ。
「罠だ!」
トキスの声が、遠くに聞こえる。皆、お互いを認識できなくなった。
ーー獣など、我がホウエン国の下部となれば良いのだ。どうせ、使い捨てにできる。焼くなり煮るなり切り刻むなり、好きにすれば良い。
ククーの目の前に、憎い王が現れた。
「カキン王!」
ククーの赤い瞳が、ギラリと光った。
リカクは目の前が真っ暗になる。
ーートキスはお前を見捨てて逃げたんだ。諦めるんだな。
目の前には、そう無情に告げる研究員。
「嘘だ! 嘘だ!」
リカクはそう叫び、うずくまる。
ーーウロタ、逃げなさい!
ウロタは足が震える。これは、あの時の邪妖獣・ジャーガ。青の森を、両親を襲った凶悪な妖獣が見える。
「父さん! 母さん!」
靄の中、ククー・リカク・ウロタの様子がおかしいことに、ノールは気づいた。
ククーが毛を逆立て、ノールに威嚇してきた。
「ククー?」
ククーは素早く、ノールに切りかかってくる。ノールは驚きかわしきれず、腕をかすった。
「ノール! リカクとウロタさんの様子もおかしいわ!」
ヘルが、うずくまるリカクを起き上がらせようとする。
「僕に触るなっ! 僕は、一人でいいんだっ!」
リカクは、ヘルを振り払って叫んだ。普段の様子違い、ヘルは距離をとり困惑している。
ウロタは目を見開いて怯えきっていた。トキスが側に近寄れば、「ヒッ」と声をあげ震え出した。
ククーは、鋭い目付きで、ジリジリとノールとの距離を詰める。
「人なんか、大嫌い。あたしの家族の恨み……」
「ククー……」
「カキン王、許さない!」
ククーは尾を振り、風が起こった。ノールは風圧で転ばされる。そして、ノールが上体を起こす前に、ククーが飛びかかってきた。ノールは、杖で防御をとる。しかし、体勢が悪い。
「ククー! これは、ノールよ! しっかりして!」
ヘルが横からナイフを投げ、ククーは飛び退く。そして、改めてノールに襲いかかってくるのを、ヘルは短剣で食い止める。
「彼はカキン王じゃないわ! あなたを襲わなかった人よ! あなたを助けていたじゃない!!」
「そんな人知らない!! 人なんか! 現に、あたしに武器を向けているじゃない!!」
「これは、自己防衛でしょ!」
ノールはゆっくりと立ち上がる。
「ヘル、いいよ。ククーから離れて」
「でもっ!」
カランと、ノールが杖を地面に投げた。
「ノール!?」
ヘルは驚き息を飲む。
「どう? ククー……」
ノールは手を広げて、ククーに話しかける。
「何かの罠か!?」
「大丈夫だよ」
ヘルの隙をついて、ククーはノールに切りかかった。
「八つ裂きにしてやる!!」
ノールは、目を閉じた。
「……っ!!」
ククーの爪がノールにあたるかあたらないか、というところで、ククーの動きが止まった。そして、後ろに飛び退く。
「……ノール。あたし……。……っ!」
ククーは頭を振ると、尾を振り回し、竜巻を作り、黒い靄を晴らした。
リカクとウロタも、我に返る。
ククーは目を潤ませながら、ノールの肩に飛び乗った。
「 ノール、あんた何て危ない真似してくれたのよ! あたしが、正気に戻れなければ、どうしてたのよ!」
ククーがそう強気に言い、ノールは優しく笑う。
「一斉一代の賭けだったね。怖かったよ」
「馬鹿。あたし、あんたを傷つけたくなかったのに……」
ノールは、ククーを優しく撫でた。
「我が国家が開発した惑わしの靄を晴らしたのか?」
背後から、人の気配がした。そこには1万くらいの機械武装した軍を連れ、中心には他とは違う雰囲気の人間……カキン王が現れた。
「ファイキャトス……、運命の日、前日に戻ってくるとは……。本気なのだな」




