36、未来へ
「リカクっ! ククー!!」
ノールがそう声を出せた時には、もう自分達の時代だった。肩で息をしながら、ノールは周囲を見渡す。隣にいた、ヘルと視線がぶつかる。
「……ウロタさんもいない」
ヘルが悲しそうにノールを見つめた。
「終わっちゃったね……」
ヘルの言葉に、ノールは瞳が潤み、慌てて見られないようにうつむく。
「お別れも何も言えないまま……」
(あっけないお別れだった……)
ノールは、拳を握ると、自分が紙を握りしめてることを思い出す。リカクに渡された紙だ。クシャクシャになった紙を広げて見ると、ホウエン文字が表のように書かれていた。そこに、どこでリカクが覚えたのか、ノール達の使う文字で簡単に説明も書かれていた。
以前、翻訳用にリカクが作ってくれるようなことを言っていたが、いつの間にか用意してくれていたようだ。
(リカク、こんなにありがとう。これで、過去の文献の解読が進められる……)
ノールはハッとして、青の森でマフィンに渡された本を出す。ノールは一文字ずつ照らし合わせ、最初の一文を読んだ。
「『ノールさん、お元気ですか?』……!」
ヘルは、驚く。
「そう書かれてるの!?」
ノールは、ゆっくり間違えないように、夢中で一文字ずつ照らし合わせていった。
『急な別れで、ろくなお礼もできず、すみませんでした。この私の日記が、あの日の続きのあなたに届いていることを祈ります。
ーーあれから、ククーさんの炎は一月かけて、世界全体を回り、他国にあった物も含めて地上にあるホウエン文明が築き上げた物を、ほぼ焼き払いました。
ホウエン国はなくなり、機械も崩れ去り、残っているのは、生き物のみです。皆、困惑しておりましたが、それぞれ生き方を選び始めています。
ククーさんは、あれほどの力を使ったのに、意外と平然な様子で帰ってきました。トキスの亡骸と、ノールさんがいないことを知って、寂しそうに頷きました。
そして、ククーさんは妖獣の王として獣達から崇められ、掟を一つ作りました。
「獣は、人間をからかったり、傷つけても良いが人間を殺めるな。人間は、獣から襲われたら攻撃仕返しても良いが殺めるな。」と。
横暴なような気もしますが、ククーさんの掟のおかげで、私の会ったノールさんのいる未来へ続いた気がします。
トキスがいれば、確かめに行ったのですが……。
それと、ククーさんが先日私を訪ねてきました。そして、妖獣を従わせるためのシンボルになる杖を作るよう言いました。そうです、あなたが持っていた杖です。
「愛しい者へ」……ククーさんからあなたへ贈ったもの。正真正銘、あなたのものです』
ノールはここまで読み、ヘルと顔を見合わせる。
「あんなに、この杖に妖術を託した妖獣のこと、馬鹿にしてたのに」
ヘルがボソリと言い、ノールは笑った。そして、続きを読む。
『ククーさんの力が、あなたの杖に籠っています。他にも、ククーさんを尊敬した妖獣達もこの杖に力をくれました。
皆の想いが込められています。
これを持ち、あなたが妖獣と人の共存を導く者……未来の王になることを祈っております。リカク』
リカクからの手紙風になっていたのはここまでで、後は日記だった。
トキスの亡骸を、青の森に埋葬したこと。
ホウエン国から解放された人々が、それぞれ村や町を作り出したこと。
ホウエン国があった所は、銀色の砂の砂漠になったこと。
一年後、ククーが急に失踪して、それ以降会うことがなったこと。
『僕は、ククーさんがノールさんへ贈った杖を守っていこうと思う。
これからの、僕の生き方はわからないけど、もう大丈夫。僕は、もう本当にカキン王の災いがないかこの目で確認するため、各地を旅に出ます。
もう、森に戻らないでしょう。この僕の日記を、青の森の巫女の家系に託します』
これで最後だった。
「…………」
ノールはヘルから視線を剃らし、黙ってうつむいている。
「……ノール」
ノールは黙っている。ヘルは、どこか寂しそうなノールの背中を見つめた。そして、突然後ろからそっと抱き締めた。
「へっ、ヘル?」
ビクッとしたノールは、上ずった声をあげる。ヘルは気にせず、少し腕に力を込めた。
「……このままでいさせて。何かにすがっていたい気持ちなの……。こうしていたら、顔見えないし……」
「……そうだね」
ノールの目から涙が零れた。ノールが自分に涙を見せたくないと気づいた、ヘルの気遣いだ。
ノールの体が震える。
「わかっていたつもりだったんだ……。ククー達は、過去の人物なんだ……。元々、僕達の時代ではもういないんだ。……ウロタさんには、未来で会える。けれど、ククーとリカクにはもう会えないんだ……。こんな風に、文献で気遣ってもらっても、お礼を言われても……、僕はどうやっても何も伝える手段がないよ……。こんな、別れ方になるなんて、思ってなかった……」
(皆無事で、笑顔でお別れできると思ってた……)
ヘルは一呼吸置く。
「……そんなの、一々伝える必用ある?」
「……?」
ノールは言葉が出なかった。
「友達だったでしょ? 友達に一々、気持ち伝える? そりゃあ、伝えなきゃいけない時もあるけど……。少なくとも、私が見ていた限りでは、ククーともリカクとも、もちろんウロタさんとも、そんな中途半端な友情じゃなかったと思うわ」
ヘルが静かにそう言うと、ノールが少し笑う気配を感じた。
「何だか、ククーみたいな言い方だね?」
「あら、嫌かしら?」
「ううん。僕、ククーのこと好きだよ」
ノールは、ヘルの体が少し熱くなった気がした。
「まっ、間違いなく、ククーには伝わってると思うわ!」
「ヘル……」
ノールは涙を拭うと、ヘルの体を離す。そして、真剣な目で見つめる。
「僕は、シャクガの町に一度戻ったら、人と妖獣の関係改善の取り組みのために各地を改めて回りたい。そうすれば、未来のウロタさんが言った王に繋がる気がするんだ」
「そうね」
「そっ、それでなんだけど……、もし良ければ一緒に来てもらえないか?」
「んっ? 私の力が必要ってこと?」
「まあ、それもあるけど……、君と一緒にいたいんだ」
ノールは恥ずかしそうに言い、ヘルは目を見開くと、改めてノールに抱きついた。
「もちろん……。もちろんよ! 一緒に、ウロタさん達のいる、人と妖獣の平和な未来へ繋げていきましょう!」
「ありがとう、ヘル」
ノールは空を見上げる。
(ありがとう、ククー。君が作ってくれた未来、守るよ)
ふと、ノールは一つ気づいたことがあった。
「……そういえば、ここ、どこだろ?」
ヘルも周りを見回し、やれやれといった仕草を見せる。
「そういえば、また見知らぬ地に飛ばされたようね」
「よし! 旅の再開だ!」
終わり
ノールとククーの旅を最後まで見届けていただき、ありがとうございました。
少しでも楽しんでいただけたなら幸いです。




