挿話 ククーと星空
「ククーさん、何か悩んでいますよね?」
空気がとても澄んだ静かな夜だった。ガクの町の民家の屋根の上で、ククーが星を眺めていると、リカクが下から声をかけてきた。
「別に、そんなんじゃ……」
ククーはそう言って、そっぽを向く。リカクは、軽く笑った。
「トキスも、悩み事があると、星をよく眺めるんですよ」
「あの淡泊なトキスも悩んでるの?」
ククーは、興味深そうな顔で聞き返した。
「はい。でも、トキスの悩みは未来へ繋がること。皆の運命を知っている。その悩みを言うことも聞くこともできないです」
リカクは少し寂しそうだ。ククーは、リカクを見下ろす。
「トキスは、信頼できる友人のあんたがいるだけで、きっと大丈夫よ。いくら、妖術が使える青の森出身だからって、あの時代に人と共存しようと思える妖獣は、なかなかいない。それだけ、あんたのことが好きなのよ」
リカクはハッとし、少し目が潤んだ。
「……そういうククーさんも、ですね」
リカクの優しい表情を見て、ククーは目を細める。
「……あんた、ノールみたいで、なかなかつかめない奴ね」
ククーは立ち上がり、伸びをして屋根から飛び降りた。
「あんたは、何やってたのよ?」
ククーは、分厚い本を持っているのを見て呆れる。
「少し、未来の文字の勉強をしたくて」
「それ読むの?」
ドン引きしてるククーに、リカクは微笑む。
「もう読み終えました」
「あんたも相当な変わり者ね。自分のいない未来の文字覚えてどうするのよ?」
「ノールさんに……、未来に託すためですよ」
リカクの優しい眼差しを見つめ、ククーは首を振った。
「あんたとの会話は難しいわ。もう少し、頭を冷やしてくる」
そう言ってリカクに背を向け、ククーは歩き出した。
「良い夜を……」
リカクはそう言って、ククーの姿が見えなくなるまで見送った。
ククーは、今度はウロタと出くわした。
「おっ、ククー。昼間のヘルとの喧嘩はヤバかったな。ノールさんを、あんなに怒らせて」
ウロタは笑って言う。
「うるさいわね。女同士の譲れない戦いだったのよ」
ククーは顔を歪ませていたが、ウロタに聞いておきたいことを思い出した。
「……ねえ、ウロタ。未来のノールは、一人で大丈夫?」
「ノールさんは一人じゃない! 俺がついてる。ジャムさんもログも皆! それに、いつも側で支えてくれる人がいるから大丈夫って、ノールさん自身が言ってた」
「そう」
ククーはそう言っただけだった。
「……あと、ノールさんは、ファイキャトスとの旅が、今の自分の人生にとってかけがえのない経験だったとも言ってた。ずっと、ククーのことを大切に思ってるんだよ」
ククーは何も言わなかった。にやける顔を隠すように、ウロタに背を向け、さらに歩き出した。
建物の角を曲がろうとして、話し声が聞こえ足を止めた。
「ヘル、ククーから何か聞いた? 何に悩んでいるのか……」
(……!)
ノールとヘルの姿が見え、ククーは咄嗟に隠れる。
「あんな喧嘩するくらい、話し合ったんだろう?」
ノールの質問に、ヘルは首を振る。
「あの喧嘩と、ククーの悩みは関係ないわ」
「じゃあ、何で?」
「それは……」
(ノールには言わないで!)
ククーは目をギュッとつぶった。
「教えない」
「えっ?」
ヘルの答えに、ククーは小さくノールとハモっていた。
「女の子同士のお話よ? これは私達の……、あたしの秘密よ」
ヘルはそう言って、イタズラっぽく笑った。ノールも参ったという感じに頭をかいた。
(馬鹿ね……)
ククーは、そっとその場を離れた。見上げた夜空には、数多くの星があった。




