30、想い
ノール達は、ジャムに報告しに、ガクの町へ戻った。ジャムは喜んでくれた。
「そう、良かったですね! これで、あなたは伝説に語り継がれる、ファイキャトスです! その口から吐く炎は意思を持ち、望む物全てを燃やし尽くし、その尾は自在に風を操り全てを吹き飛ばし炎の助けをする」
「…………」
「ククーさん?」
うつむいて静かにしていたククーを、リカクが呼び掛ける。
「何か気になることでも?」
「何でもないわ」
ククーはそう言ってそっぽ向いた。しかし、皆、ククーが何かに悩んでいることに気づいていた。
「そういえば、伝説にファイキャトスは町一つ分の大きさがあるって、あった気がするけど、何か知りませんか? おそらく、今後ククーがそのくらいのサイズまで成長することはないと思うんです」
ノールはジャムに尋ねると、ジャムは困った顔をする。
「巨大化する能力ってことですね。でも、それは白の谷で力を得たって、ノールくんが解読した文献の一つに書いてました。でも、白の谷は遠い昔になくなったって聞きました」
「白の谷はあたしの故郷よ」
ククーが間髪いれずに言い、皆驚く。
「ククーの……、ファイキャトスの故郷」
故郷で惨劇があったククーを思うと、ノールは胸が締め付けられた。
「また過去に戻りましょ。そして……、決着を着けるわ」
ククーそう言うククーは、どこか悲しそうだった。
「……今日は休もう! この安心できる未来で! あの過去は落ち着かないし!」
ノールは明るい声で言う。
「賛成ッス! 英気を養うッス!」
ウロタも元気に言う。リカクも微笑んで頷いた。
「…………」
ーーククー、後で町の外に来て。
ヘルの声が聞こえ、ククーはハッとする。ヘルは険しい顔をしていた。皆には聞こえていなかったようで、外に出ていく。
ククーは、ノールが以前、ヘルもテレパシーを使うと言っていたことを思い出した。
ーーわかった。
ノール達は、また町で別行動になった。
ククーが町の外に出ると、すでに不機嫌そうなヘルが待っていた。
「何、辛気くさい顔してるの? ノールが心配するでしょ? いつもの自信は?」
質問には答えず、ククーの赤い瞳は、ヘルの同じ赤い瞳を見つめた。
「……ずっと気になっていたことなんだけど、あんたはノールのこと好きなの?」
「えっ!? 何聞くのよ!」
突然、ククーの方から質問をされ、ヘルは真っ赤になって動揺する。
「いいから、答えなさい!」
はぐらかそうとしたヘルに、ククーは真剣な目で強く言う。
「あたしは好きよ。大好き。あんたみたいに、自分の気持ちに気づかないような馬鹿じゃないから」
ククーがそう言い切り、ヘルは目を見開く。
「なっ!? 私だって、ノールこと大っ好きよ! 初めて会った時から……。ううん。それよりずっと昔から会いたがってた人だと思った! とても大切な人! この気持ちは負けないわ!」
ヘルはむきになって、大声を出した。ククーは険しい顔つきになる。
「だったら、証明してみせてよ! あたしより、強いことを見せて! ノールの側にいられる強さか見せて!! あたしがいない未来で、ノールを守れる強さを!!」
ククーが飛び掛かり、ヘルは短剣で防ぐ。
「やっぱり、動きが良いわね。じゃあ、これならどうかしら?」
ククーが炎を吹いた。ヘルは飛び退く。
「これじゃあ、近づけない……。それなら……」
ヘルは炎の中にナイフを投げる。ククー避け、炎が収まった。
「お前ら、何やってんだ!?」
たまたまやってきたウロタが驚いた声を出す。
「これは女の戦いよ!」
「口を出さないで!」
二つの赤い瞳に睨まれ、ウロタは竦み上がる。
「行くわよ!」
「本気で来なさい!」
ククーとヘルが同時に駆け出した時だった。
「やめるんだ!!」
二人の間に、ノールが現れた。ノールは一瞬の内に、ヘルの短剣を杖で払い飛ばし、ククーの頭を叩いた。
「いっ、つ……」
「あっ……」
ククーとヘルは、ノールを見て気まずそうに視線を反らす。珍しく、ノールが本気で怒っているのだ。
「お前達、何をやっていたんだ?」
「あたしとヘルの女同士の真剣勝負よ!」
「そんな生死をかけての戦いではないわ!」
ククーとヘルは、慌てて言い訳をする。
「……今の勢いは、命を奪うとまでいかなくても、相手に重症を負わせた。おふざけとかでは済まない。ククー、君が何かにムシャクシャしているのはわかってる。でも僕は、仲間を傷つける仲間を許さない」
ノールにそう低い声で言われ、ククーもヘルも黙る。
ククーもヘルも、ノールが互いを傷つけることを嫌っているのは知っていた。
「もし、また君達が同じことをするなら、僕は軽蔑する」
「待って、ノール!」
背を向けたノールを、ヘルが呼び止める。
「ノールは、あたしとヘル、どっちが好き!?」
「はあ?」
ククーの問い掛けに、さっきの怒りが消え失せたように、目を丸くして振り返る。
「……ククーもヘルも大切だよ。君達は、似てるよね。どっちなんて、甲乙のつけようがないよ」
ククーとヘルは拍子抜けする。
「わかったわ。もう喧嘩しないから、戻っていいわ」
ノールは、首を傾げながら去っていった。
「何だか、あたし達どっちも相手にされてないみたい……」
ヘルがそう呟き、ククーが笑い出した。
「あははは。やっぱり、ノールは抜けてるわ! ……ヘル、急に悪かったわね」
「別に……」
「あたし、この炎の力を使ったら死ぬかもしれないの」
「えっ……」
ククーは明るく言うが、ヘルは顔を強張らせた。
「あらゆる物を燃やすことで、自分の命も燃やすの」
「それじゃあ、ホウエン文明なんかを滅ぼしたら……」
ククーは頷く。
「だから、あたしは迷ってる。でも、あたしがやらなきゃ、未来の今のあんた達もいなくなっちゃうのよね……」
「結論は出そう?」
「まだ」
ヘルが優しく問いかけると、ククーは首を振った。
「……別に、あなたがどうしようと、ノールは責めないわ。トキスもリカクもウロタさんもね。まあ、私は過去を変えるな、って言うかな。ノールと仲良くなれたのも、この赤い……、伝説のファイキャトスの瞳のおかげでだからね」
ククーは、またヘルの赤い瞳を見つめた。
「……そう。話して、少し気が楽になったわ」
「まあ、じっくり考えなさい。他人の意見に耳を貸すあなたじゃないでしょうから」




