29、赤の山
ノール達は、赤の山の洞窟に着いた。
洞窟の中は溶岩が流れていて、周りの岩も赤く、かなり暑い。
「ここが、赤の山……」
「暑い……。無理……」
ククーはうんざりしたような声を出す。
奥の方には、妖獣の子ども達が、溶岩を泳いだり火を吹いたりして、快適そうに遊んでいた。
「流石、火の妖獣。熱くないんだ? すごいね」
「いや、ファイキャトスも火の妖獣ッスよ」
妖獣を見て感心しているノールに、ウロタはツッコミを入れる。
妖獣の子ども達は、ノール達人間がいても、特に気にした様子はない。
「ここも人禁制区域の一つだよね? 僕達人間が来ても、嫌がらないの?」
「人禁制区域?」
ウロタは少し考えてから、思い出したように頷いた。
「そういえば、昔は人間は駄目な所ってなってたッス。だけど、妖獣の聖地なのは間違えないッスけど、近年では規制も緩和されたッス」
「そんなに、妖獣との関係は友好的になってるんだ?」
ノールはポツリと呟いた。
(僕達の時代でも、あんなに敵対していたのに……?この時代の王、凄くないか?)
ノール達は、また遊んでいる妖獣達の方を眺める。
「何で、こんなところで遊んでいるんですか?」
リカクが、妖獣の近くに寄り声をかける。
「ここにいると、力が沸いてくるの!」
「いるだけで、元気出るんだ!」
妖獣達は、元気いっぱいに答える。
「じゃあ、ここに紅の岩って見たことありますか?」
「あるよ! 行きたいの?」
「はい。案内してくれますか?」
「いいよ!」
妖獣達は楽しそうに、先頭きって案内してくれる。そんな様子を、ノールは微笑ましく思った。
洞窟の奥。案内してもらった場所は、大きく立派な紅の岩があった。
ノール達は、見上げる。紅だという以外、何も辺鉄のない岩だ。
「これのどこが……わっ!」
ククーが前足で岩に触れると、ククーの体がいきなり炎に包まれた。
「ククー!?」
駆け寄ろうとしたノールに、ククーは首を振ってみせた。
「大丈夫よ、安心しなさい。とくに熱かったり、焼けてたりしないから」
ククーの体は、燃えている感じはしない。温かい何かに包まれているような感覚だった。
ククーはそっと目を閉じ、意識を集中する。
ーー私の声が聞こえますね?
脳裏に、知らない意識が入る。
(あんた、誰よ?)
ーー私は火。
(何かの謎かけ?)
ーーいいえ。私は、火そのもの。この岩を拠点としていますが、私は火として、どこにでもある。
(たかだか火に、意思なんて!)
ーーたかだか、獣。たかだか、人。たかだか……。
(…………悪かったわよ)
ククーは、自分も言われて嫌な気持ちになったことを思い出し、気まずくなった。
ーーいいえ。あなたは、火の使い手ですね?
(ええ、そうよ! 炎を扱う種族、ファイキャトスよ!)
ーー私の力がもっとほしいですか?
(ほしい! カキン王に敵う力を!)
最近の、ホウエン国は炎対策をしているのがネックだった。今のままでは勝てない。
ーーあなたは、何故、力を欲するのです?
(それは……、ホウエン国に復讐するため)
ーー良いでしょう。私の、最上の力は、使い手の意思により、この世のあらゆる物を焼き崩すことができます。
(本当にそんなことが、できるのね?)
ククーの口元が少しにやける。
ーーですが、それは使い手の命の火を使います。この火は、使い手の命を削りながら燃える、禁断の術。
(あたしの命を!?)
ククーは、血の気が引いた。
ーーあなたに、その覚悟はありますか?
(冗談じゃない! あたしは、そんな死に急ぎたくないわ!)
ーー何も、すぐに死するわけではありません。その火の大きさによります。大きな炎を長い間放つなどの、負担をしなければ……。
(でも、ホウエン国を滅ぼすには……)
ククーは巨大な国家や、大勢の人を思い出す。
ーー代償を恐れるのですね。使う使わないはあなた次第。
(……あたしは……)
ーーまあ、良いでしょう。あなたに、力を授けます。
ククーの体が、光に包まれた。
「ククー?」
ククーは目を開ける。目の前には、心配そうなノールの顔があった。
身に纏っていた炎は消えている。声ももう聞こえなかった。
(心臓が温かく感じるわ)
「ククー、大丈夫?」
ボーッとするククーに、もう一度ノールが声をかけた。ククーはハッとして頷く。
「さあ、帰りましょう。もう、ここには用はないわ」
「ということは、力を得たんだね!?」
ククーは黙って目を細めた。皆首を傾げたが、トキスだけは目を伏せていた。




