28、約束
翌日、ジャムは地図の他に、別の資料を探してくれた。その中で、昔の文献があった。
「たぶん、これも赤の山って書いてるんだと思うんだけど……、私じゃ解読しきれないです……。ノールくんなら、ホウエン文字全て読めるかもしれないのですが……」
ジャムが、気まずそうに中を見せてくれた。ホウエン文字と思われる字が並んでる。ノールは首を振った。
「今の僕も、全然読めないよ……。それにしても、何で僕の時代に発見された山が、ホウエン文字で遺されてるの?」
「そこなんですよね。私が、解読間違えてるのかしら?」
ノールとジャムは唸る。
「僕に読ませて下さい」
リカクが前に出た。ジャムは不思議そうな顔をしながらも、リカクに見せた。
「……2000年後に、妖獣の聖地の一つ、赤の山が生まれるだろう。その山の洞窟で紅の岩を見つけ、ファイキャトスは新たな力を得る。……それくらいしか、書かれていないですね」
リカクが顔を上げると、ノールとジャムは顔を耀かせていた。
「えー!? 何で読めるの!? あなたも優秀な学者なの!?」
「ジャムさん、リカクは過去のホウエン国からきたんッスよ」
リカクにどさくさ紛れ抱きつこうとするジャムを、ウロタはしっかり止めた。
ノールはリカクの方を見る。
「そっか! リカクの時代の文字なんだもんね!」
「はい。それに、この字の書き方……」
リカクは何か引っ掛かることがあったようだが、首を振った。
「僕も、本当に読めるようになるかな。ホウエン文字の解読は、遺跡以上に進められてないんだ」
「簡単に覚えられますよ」
リカクは優しく微笑む。
ノールは、ふと青の森でマフィンに渡された本を思い出した。
「これも、読める?」
ノールは本をリカクに見せる。
「これは……?」
「僕の時代の、青の森で渡されたんだ。僕宛てだって」
「あー! ノールくんが大事にしてた本だ」
ジャムは興奮している。
「ホウエン国のマークに似てるけど、違いますね……」
リカクは表紙を撫で、ページをめくる。すると、リカクの瞳が揺れた。そして、次々ページをめくる。
「これは……」
「何て書いてあるの?」
皆、リカクに注目する。リカクは、最後のページをめくり、笑い出した。
「リカク?」
「すみません、これは間違いなくノールさん宛てですね。僕から、話すことはできません」
「何でよー」
ククーがつまらなさそうに言う。
「これは、ノールさん。いつか、あなた自身で読んで下さい」
リカクは本をノールに返す。
「ノールさんなら、簡単に読めるようになると思います。今度、読み方の一覧表にして書いておきますね」
「わかったよ」
ノールは本をしまいながら頷いた。
「じゃあ、さっさと山へ向かいましょう」
ククーに急かされ、ノール達は出発した。
赤の山付近の町まで、トロッコが走っているらしく、ノール達は乗せてもらった。
「まさか、こんな乗り物まで、あちこちにできてるなんて、便利になってるんだね」
「妖獣と戦いながら、調査団の皆と、長い道のり歩いたよね」
ノールとヘルが感心していると、ククーは鼻で笑う。
「ホウエン国は、もっとすごい物で移動していたわよ? 空を飛んだりもしてたのよ」
「えっ!?」
リカクも少し困ったように頷く。
「大陸と大陸を、数分で移動するの速さもあったんです。……でも、僕はこのくらいゆったりした乗り物の方が好きですね」
「まあ、あたしもそうだけどさ」
ククーはそう言ってから、目を細めた。
「ところで、あんた達……、本当にあたしについて来て良かったの? あたし、あんた達の同種族の国を滅ぼすのよ?」
「俺はノールさんが行くっていうから、ついて行くんッス!」
「僕も、あなたと同じ時代の人。心から、ホウエン国がなくなってほしいと思っています。それが、残酷なことだろうと……」
「ククーが、そんなしおらしいこと言ってると気持ち悪いよ」
ノールが真顔で言い、ククーは眉間に皺を寄せる。
「あんた、素直すぎるわ」
「ねえ。ファイキャトスが滅ぼすのって、本当にホウエン国だけ? 国だけ滅ぼしても、他のところにホウエン国についての文献や機械とか残っていてもおかしくないじゃない? なのに、ノール達学者は、夢物語を探すように少ない資料を必死に探している」
ヘルがそう言い、ノールは考える。
「僕も、気になっていたんだ。何で、ここまでホウエン文明の証拠になるものがないのか……」
「ねえ、ククーは人の世をどうしたいと思ってる?」
ククーは何も答えず黙っている。
「でも、僕はククーの選んだことに反対と思わない限りは、君に協力する」
「僕も、ノールさんに賛成です」
「まあ、私も何だかククーは他人事に思えないし」
ククーはそっぽを向いていたので、誰も彼女が照れていることに気づかなかった。




