26、史料館
ウロタの案内で、この時代にあるという史料館に行くことになった。
「このシャボンの湖から、北の方角にガクの町というところがあるんッス。城下町より発展してて、大きな史料館があるんッス。そこの第一人者で、ノールさんが信頼をおく人が働いているんッス」
「その人がジャム?」
「そうッス! それで、これからその人に赤の山のことを聞きに行きましょう!」
ウロタは先頭きって歩く。それを、ログは見送る。ノールは振り返った。
「ログは行かないのかい?」
「俺は、やることがたくさんあるんだよ。これでも、獣代表で会議とかでいっぱいなのさ」
「ログが?」
初めて会った時、ノールに敵意剥き出しだったのを思い出す。
「お前と知り合って、人に対する免疫があるからな」
「あら、あたしのおかげじゃない?」
「お前は黙ってろ!」
しれっと言うククーに、ログは呆れる。
「まあ、お前にも会えて良かったのかもな。全然、トキスの情報教えらんなくて、悪かったな」
「なっ、何よ? 素直だと気持ち悪いじゃない」
ククーは、顔を歪ませる。ログは、やれやれと首を振った。
「相変わらずだな」
ログは翼を広げた。
「……元気でな。カキン王に負けるなよ」
そう言って、ログは飛び去っていった。
ノール達は見えなくなるまで見送って、出発した。
ガクの町は、ウロタが言っていたように、かなり発展していた。
道など舗装され、店の種類も品数も豊富だ。何より、活気がある。
時々、町の中に妖獣まで歩いているので、ククーもトキスも特別目立たなかった。
「こっちが史料館ッス!」
ウロタは、ガクの町で一番大きい建物に連れてきた。
中は壁一面の大きな本棚に、古い本がたくさん並んでいる。ノールは見たい衝動を抑えていたが、ヘルとククーにはバレていて、冷たい目で見られていた。
「ジャムさーん!」
ウロタは、ある小部屋に入り、声をかける。
「あら、ウロタくん。いらっしゃい」
中には、若い女性がいた。
「ジャムさん、ノールさんに妖獣の聖地のことを、教えてあげて下さい!」
「えっ? 別にノールくんと一緒に研究してきたんだし、今更教えることなんて……」
女性はキョトンとした後、ウロタの横にいるノールを見つめて、目を丸くした。
「ノールくん!? 何で小さくなってるの!?」
ククーとヘルが吹き出す。
「このノールさんは、過去から来たんです」
「えっ? じゃあ、おっ……」
女性が何か言いそうになり、ウロタが女性の口を塞ぐ。
「ストーップ! このノールさんは、何も未来の自分のことは知らないんです! ジャムさんにも会う前です! なので、その辺のことは聞かないで……」
ウロタがあまりにも必死に止めているので、ノールは自分の未来が少し気になった。
「そう……。こんにちは。私は、ジャムです。未来のあなたのお友達ってところです」
ジャムが優しく微笑みかけ、ノールは少し赤くなる。それを見て、ククーとヘルが頬を膨らませた。
「あんた、ずいぶんと年上の女性が好みなのね?」
「それに、優しそうな女性だしー」
「えっ? そうだね。僕のよく知ってる女の子って、ヘルとククーだけだったし、こういう風に大人で優しそうな女の人って、憧れるかも!」
嫌みっぽく言ったククーとヘルだったが、ノールの発言で一気に落ち込んだ様子を見せた。
「正直に返され過ぎると、打つ手ないよな……。さすが、ノールさんッス。強いッス。」
「えっ?」
ニヤニヤしたウロタに言われたが、ノールは、よくわかっていないようだった。
「まあ、ククーもヘルも安心しな。未来のノールさんとジャムさんは恋仲じゃないからな」
「でも、すごく親しそう……。それに、私はいないんでしょ……」
ヘルがポツリと言った。
「俺も最初そう思ったんだけど……」
ウロタがチラリと見ると、ジャムはニッコリと笑って前に出た。
「安心して下さい。私、男の人にはそういう面では興味ないので。それと、あなたがヘルちゃんだよね?」
「えっ、あっ、はい」
ジャムが近づいてきて、ヘルは少し後ずさる。
「そっか! うん! やっぱ、可愛い!」
ジャムが、いきなりヘルを抱き締めた。ヘルは混乱して硬直する。
「へっ? えっ?」
「ちょっ、ちょっと、この女、どういうこと?」
ククーがひきつらせながら、ウロタにひそひそと聞く。
「どうって……、言った通り男性には興味ないってことだ」
ジャムが、ヘルを抱き締めたまま、クルッとククーの方を向いた。
「そっちが、ファイキャトスのククーちゃんね! やっぱり、そのキツい性格が素敵だわ! 毛もサラサラしてて、抱き締めたい! 二人とも、篭の中に捕らえて、いつまでも私の手の中に入れておきたい!」
「ヒッ!」
ククーはゾッとしたようで、全身の毛を逆立てた。
「あの! とにかく、赤の山のことを教えてくれませんか!」
ノールがジャムからヘルを庇うように離し、少しムキになるように言った。
「あら、ノールくんに怒られちゃったわ」
ジャムはクスクス笑う。そして、スッと目付きが変わった。
「……赤の山ね」
ジャムは別の部屋へ歩いていく。ノール達は、慌てて追いかけた。
ジャムは、沢山並ぶ棚の一ヶ所から、古い本を一冊取り出す。
「この山は、比較的新しいですね。私が小さい頃……、君の頃の時代に発見されたみたい。この山は、金の泉同様、獣に力を与えます。……火限定だけど。その山で、最高の力を得ると、この世のありとあらゆる物を自在に燃やし尽くせる。その気になれば、石とかも……」
「それは、どうやって得られるの!?」
ククーは目を輝かせて聞いた。
「そこまでは、書かれていないですね。現在は、火の力を操る妖獣の休息所とかになっているくらいしかわかりません。それに、その最高の力を得た者もいないらしいです」
「いないのに、その力のことがわかるのですか?」
リカクが静かに尋ねる。
「あら、あなた男の子なのに女の子みたいに可愛い!」
リカクは黙ってトキスの後ろに隠れた。
「ジャムさーん」
脱線しかけたジャムをウロタが呼ぶ。
「そうね……。でも、今後力を得る者のために書かれているようですよ? まるで、未来を知っているかのように……」
ノール達は、トキスを見る。トキスは首を振った。心当たりはないらしい。
「とにかく、地図は複写してあげます。それに、赤の山は遠いようなので、本日はこの町で休んで下さい。私も、もう少し詳しく調べてみますから」




