23、仲間
ーー頭がぼんやりする。足元がフワフワし、自分がどこにいて、何を見ているのかわからない。遠くで、声が聞こえる気がした。
『ククー、リカク……』
『えっ?』
『んっ!? あんたは……』
『ありがとう』
『えっ? ……今の、僕に?』
『今の君達にしか言えないんだ』
『ちょっと、もう行っちゃうの?』
『他に、やることがあるから……。さようなら、お元気で……』
ノールは目を覚ます。それと同時に、夢だったのか、現実だったのか、何か忘れた気がした。
ノールの目の前には、ククーの赤い瞳があった。
「……やっとお目覚めね?」
「ノールさーんっ!」
ノールが目を擦りながら起き上がると、ウロタが駆け寄ってくる。
「なかなか目を覚まさないから、ククーとヘルと一緒に滅茶苦茶心配したんッスよ!」
「別に、あたしは心配なんて……」
「何だったら、誰よりも心配してたじゃないか! ヘルと争うように、ノールさんから離れず付きっきりで……」
「それだったら、あんたも涙目だったじゃない」
ククーとウロタが言い争いしているのを気にも止めず、ノールは辺りを見回した。
「……ここは?」
「ここは俺の時代……、シャボンの湖の畔ッス」
ウロタがニッと笑った。ノールは驚いて、近くの湖を見やる。そこでは、何匹かの妖獣が無邪気に水浴びをしていた。
別段、ノール達、人間が近くにいても、気にした様子を見せない。
「あっ、ノールさん、気がつかれたんですね?」
焚き火用の枝を抱えたリカクと、その付き添いのトキスがやってきた。トキスは、静かにノールに頭を下げる。
「ノール、礼を言う。お前のおかげで、リカクを助け出すことができた」
「あー、いや。別に……」
(それよりも……)
ノールは、生返事をしながら、辺りをキョロキョロと見回す。
「小娘なら、向こうの岸でウジウジした感じで、しゃがみこんでいたわよ」
ククーは、ノールが聞く前に答えた。
「ありがとう、ククー」
ノールは微笑むと、ククーを軽く撫でる。そして、真剣な顔でトキスを見つめる。
「トキス、君に聞きたいことがたくさんあるんだ。だけど、ちょっと待っててくれないか?」
「……いいだろう」
トキスがリカクと並んで腰をおろしたのを見て安心し、ノールはヘルのところへ走っていった。
「操られてた役立たずな小娘なのに、それでも一番に心配するのね」
ククーは目を細めて言う。ウロタは苦笑する。
「ノールさんは優しいからな。ノールさんを、危険な目に遭わせたヘルが、許せないのか?」
「許せないっていうか、……羨ましいわ」
ククーはそう言って、つまらなさそうにふて寝した。
ククーが言った通り、湖の岸でしゃがみこんでいるヘルを見つけた。
「ヘル!」
ノールは後ろから声をかける。ヘルはビクリとする。
「……ノール。ごめんなさいっ!」
ヘルはノールに向かい直り、勢いよく頭を下げる。
「私、自分の意思があったはずなのに、何故かカキン王のために動いて、テレパシー使って居場所を聞き出したり、あなたに刃を向けたり……」
「別に無事だったから、気にしないよ。仕方ない、しか言えない」
「……また操られたら?」
ヘルは潤んだ目で、ノールを見つめる。ノールは微笑んだ。
「リカクが、解除してくれたから大丈夫だよ。すごい子なんだよ」
「……何か、そこまで自信満々に言われると、こんな不安感じてるのが悪いわね」
ヘルは立ち上がって、真っ直ぐノールを見た。
「……言葉、間違えたわ。ノール、ありがとう!」
「うん」
ノールは笑って頷いた。
「今度は、あなたを守ってみせるわ」
「……そんなに気負わないでさ、皆で皆を守ろうよ。僕は、ヘルを助けるために、ククーと一緒にいたけど、もう少し一緒にいたいと思うんだ」
ノールは何となく湖を眺めた。ヘルも連れて、視線を向ける。
「ククーは、人々を殺すかもしれない。そこまで一緒にいて、僕は後悔するかもしれない。でも、あんな国だったら、リカクもトキスもあの時代に戻れない。だから、ククーがホウエン国を滅ぼす力をつけるまで、支えになりたいと思う。……元の時代に戻ってきたウロタさんは、どうするかわからないけど……」
「もちろん、ノールさんについていくッス!」
いつの間にか、ノールの背後に皆集まっていた。
「あんたが、あたしの支えなるかわからないけど、その想いは受け取ってあげるわ」
ククーはどや顔をしている。
「ノールさん、僕達のことまで気にしていてくれたんですね」
リカクは嬉しそうに微笑む。
トキスは一同を見回してから、そっと前に出た。
「……それなら、我らのこと、杖のこと、キチンと話さなければな」




