挿話 ノールとヘル
「あっ、獣女が来たぞ」
「ちょっと、やめなさいよー」
「別に、何も反応しないから、気にしてないんだろ」
(煩い。そう呼んだところで、何だと言うの? 騒いで楽しい?)
シャクガの町の、任意の学舎があった。親のいないヘルは、人を滅ぼした妖獣と同じ赤い瞳ということで、周りから嫌がられていた。
(本当、忌々しい。あたしだって、好きでこんな目になったんじゃないわ。こんなに、この目が人は気に入らないなら、人に生まれてこなければ良かったのに)
ヘルは日々、怒りを募らせていた。
そんなある日、学舎に新たな子が入ってきた。
「今日から、ここに学びに来させてもらいます、ノールです」
突然、この町にやってきて、学舎に来た少年は、一見大人しそうでいて瞳には強い意思を感じた。
ふと、ノールと視線がぶつかる。ノールは目を見開いた。
「わあ! すっごい、綺麗な瞳!」
ノールがそう声をあげ、一斉に周りから注目を浴びた。ノールは、足早にヘルに近づいてきて、かなり顔を近づけてきた。
「やっぱり、赤い瞳だよね!? ファイキャトスと同じだ!」
「ふぁい……?」
こんな対応されるのは初めてで、ヘルは困惑する。
「知らないの? 伝説の妖獣だよ! たった一匹で孤高に戦い、世界を変えた妖獣!」
町の人々が言う獣と、ノールが語る妖獣はおそらく同じ生き物だが、ノールが例える妖獣はとても立派に聞こえた。
「でも、それって人の敵だったんだろ?」
他の子ども達が、口を尖らせて言うと、ノールは勢いよく振り返った。
「違うよ! ホウエン国の敵ではあるけど、ホウエン国は他国を虐げていた。だから、良くない国だったんだ。ホウエンの記録はほとんど見つかってないけど、他国の記録では散々なことをしているのがわかる」
「すっげぇ、詳しいな」
他の子ども達は、目を丸くする。ノールは嬉しそうに笑い、幼さを感じた。
「本当、良い目を持ったね!」
振り返ったノールにそう言われ、ヘルは初めて自分の瞳を許せた。
それから、ヘルとノールは自然と仲良くなった。
「ノール、ちょっと剣術の練習付き合って!」
「僕は、武器とか好きじゃないの知ってるだろ?」
「木刀だし、良いでしょ!」
ヘルはノールに木刀を投げてよこす。
「どうして、ヘルは武器の扱い方の練習をするの?」
「……あたしは、大切な人やものを守れるくらいの力が欲しいの。……伝説の妖獣みたいに、独りでも孤高に戦えるよう」
ヘルは構える。ノールもしぶしぶ構えた。
「行くわよ!」
ヘルは駆け出した。一瞬だった。
ヘルが木刀を振り下ろすと、ノールは軽く身をかわし、自身の木刀を彼女の木刀にぶつけ振り払った。ヘルの木刀が宙を舞ったのち、地に落ちる。
「嘘……」
ヘルは呆然とする。
「ヘルは人なんだから、一人でじゃなく仲間と一緒に戦おうよ」
ノールは優しく微笑んでいる。
ヘルは、彼には一生敵わないと思った。
(あたしは、ノールに惹かれ続けるんだ。)




