16、戸惑い
ノールはショウ島に降りると、深いため息をついた。ウロタが心配そうにする。
「ノールさん、どうしたんッスか!? 具合でも、悪いんッスか!?」
「いや……、大丈夫です……」
「何言ってんッスか!? 元気ないし、顔色悪いッスよ! どっか、この島に町とか村とかないか、調べなくちゃ……」
ウロタは真剣に言ってくる。
「ノールは、この島が嫌いなのよ」
「いや、嫌いなのは島自体じゃなくて……」
ククーの発言に、ノールは苦笑する。
「この島の町で、嫌な思い出があるんだ……」
「あっ、……すんません」
ウロタは頭を下げる。
「何で、謝るんですか」
ノールは笑って見せた。
ーー近い……。
ふと、ヘルの声が聞こえた気がした。しかし、それ以降聞こえない。
ククーは大きく伸びをした。
「さあ、寄り道しないでさっさと砂漠に向かいましょう。あたし、暑いのも寒いのも嫌いだから、さっさと見つけるのよ」
「そうだね。小さい頃は、あんまり気にしなかったけど、銀の砂漠って、町からそう離れてないんだ……」
ノールは地図を見ながら呟く。
「砂漠に着く頃には、夜になるから、その手前の林で一晩過ごそう」
林の中、野営の準備をしながら、ノールは何か胸騒ぎを感じていた。無言で焚き火をじっと見つめる。
「やっぱり、島にいるのも辛いんじゃ……」
ウロタがノールの異変に気づいたようだ。しかし、ノールは首を振る。
「違うんだ。何故か嫌なよか……」
ーーいたっ!
「えっ?」
ノールは体をビクリとさせた。
「ノール?」
そう言う声と共に、ガサガサと木の上から舞い降りた者を見て、ノールは目を見開いた。
「ヘル!?」
「無事だったのね?」
急に現れた少女・ヘルは、にぃっと笑いながら、ノールの方を振り向いた。
「それは、こっちの台詞だよ! ……でも、どうしてここに?」
ノールは突然のことで、頭が追いつかない。
「私も、わからない……。気が付いたらここにいて……」
姿形は、間違いなくヘルだ。動けないノールの横を抜け、ウロタがヘルに近付いてくる。
「へえ、この子がノールさんが探していた、ヘルさん?」
「えっ? ええ……」
ウロタはヘルをジロジロ見る。
「……ノールさんと縁切るんッスか?」
「えっ?」
「ウロタさん!」
突然のウロタの発言で、ノールはやっと反応できた。
「いやぁ、すみません。やっぱり、会ったことがない人で……」
ヘルは困惑している。
「どういうこと? それに、この人は?」
「ウロタさんは、未来から来たん人なんだ。未来の僕の知り合いらしくて……」
「知り合いなんてとんでもない! 俺は、あなたを崇拝してるッス! 心の支えッス!!」
「いやぁ、きっと友達だよ! と・も・だ・ち!」
ウロタの言い方に顔をひきつらせたヘルに、慌てて弁解をするように言う。
「それで、未来のノールの近くには、私がいないというわけね?」
「あんたのような小娘には、この弱いノールの魅力なんかわからなかったのでしょうね!」
ククーがノールの頭に乗り、ヘルを見下すように見る。
「二人とも……、僕がヘルに愛想つかされる前提?」
「……ファイキャトスもご健在ね。 あと、ノールは強いわよ?」
ヘルは澄ました顔で、サラリと言う。ノールとククーは驚く。
「もう、疲れたから休んでいい? 後で、詳しく聞かせて。」
ヘルは木の幹に体をあずけ、目を閉じた。ノールは、その様子を黙って見ている。
「あの小娘の未来のことなんだけどさ……」
ククーが声を潜め、珍しく真剣な目をする。
「あの娘とは会ったばかりだけど、ノールと縁を切るとは思えないわね。……だけど、未来のノールの周りにはいない」
「……っ! まさかっ……」
「ウロタと会う以前に命を落としている可能性があるわね」
ノールは声が出なくなる。
「仮説の一つよ。……あんたを強いと言い切ったあの娘との絆が、そんな浅いと思わないから……」
ククーはどことなく、つまらなさそうだ。
「ヘルが……」
「まあ、わからないけどね! よっぽどな大喧嘩をして、顔を合わせてないだけかもしれないし! ……でも、どの時代かわからないけど、……彼女のこと注意してあげるのよ?」
「ククーが、ヘルのことを気にかけるなんて意外だな……」
ノールは首を傾げる。あまりヘルと仲良くなりそうにないククーが、そう忠告するのが意外だった。
「何となく……。他人事に思えなくて……」
ククーはいつもと違い、歯切れの悪い返答をしたのだった。




