11、未来から
ノール達は、リナト大陸・ワコーの港町に着いた。ザザーンの町より、人が多く賑わっている。
周囲に誰もいないことを確認し、ノールは路地裏でククーを鞄から出した。ククーは、外の空気を思いっきり吸い込む。
ククーが息を整えるのを待ってから、ノールは地図を出して方角を確認した。
「青の森は……、リナト大森林の中にあるっぽい」
「大森林の中? どういうことよ?」
「ほら、地図を見て。大森林の一部を青の森って言うみたいだ」
「つまりは、大森林の中を歩き回って、青の森を見つけて、その中も歩き回って、時移動の獣を探さなきゃいけないのね……」
ククーはうんざりしている。
「何とかなるよ」
ノールは笑ってから、振り返り歩き出そうとした時、通りかかった青年とぶつかってしまった。
「すっ、すみません」
「しっかり、前見て歩けよ」
青年は、睨んでくる。ノールは、ククーも外に出ているのでまずいと思った。
しかし、青年はノールの顔を見ると、目を見開いた。
「……ノールさん? あなたは、ひょっとしてノールさんじゃないッスか!?」
見知らぬ青年が、自分の名前を親しげに呼んでくるので、ノールは固まってしまった。
「えっ? 確かに僕はノールだけど……」
「やっぱり! 俺、ノールさんと繋がってたんだなぁ!」
「は?」
嬉しそうに言う青年に、ノールは目を丸くする。
「ちっさいなぁ。まだ、若いなー。いや、今でも若いのか! でも、やっぱり昔から賢そうだな! この時から、がり勉なんッスか!」
「あの、あなたは誰ですか? 何で、僕のことを知っているんですか?」
ククーは、青年の発言に笑いを堪えている。ノールは、不機嫌になりながらも、冷静に聞く。
「ノールさんは、俺の命の恩人ですよ!」
「えっ!?」
「正確には、過去のあなたではなくて、今の……あなたの未来のノールさんに助けてもらいました!」
「未来!?」
ノールとククーは同時に叫んだ。
「俺は、未来から来たウロタ。青の森の住人ッス!」
「本当に未来から来れるの!?」
「未来では青の森に、人が住んでるんですか!?」
ククーとノールは、ウロタと名乗る青年に詰め寄る。
「妖獣さんに協力してもらって、この時代に来たんッスよ。それと、青の森にはこの時代から、人は住んでるはずッスよ?」
「協力!?」
「青の森って、人禁制区域じゃ?」
ノール達の迫力に、ウロタは数歩下がった。
「とりあえず、順番に質問してくれないッスか……」
ノールとククーは顔を見合せ、頷いた。
「妖獣がそう簡単に、人に協力するの?」
「昔は、結構対立が厳しかったらしいッスけどね。今は、好かれてれば、割りと助けてくれるッスよ」
「あなたは、好かれてるんですね?」
「……ノールさん、そんな他人行儀じゃなく、ウロタって気安くして下さいよ」
「えっ、いや……、今の僕はウロタさんより年下ですし……。ウロタさんこそ、僕に『さん』づけや、敬語をやめて下さい」
「やっぱ、ノールさんは道理を通す男ッスねぇ! あなたについていって、間違いなかったッス!」
感激しているウロタに、ノールはまた固まり、ククーはやれやれと呆れている。
「随分、あんたに心酔してるわね」
「他人の空似じゃないのかな?」
「ノールさんに間違いないッス! 幼少のころから、学者の父親についてあちこちの町を渡り歩き、若くして自分も学者の道を目指したとか! そして、シャクガの町に落ち着いて、その地方の遺跡探索で、過去から来たファイキャトスの子に出会ったとか!」
「……随分、未来の僕は君を信用しているみたいだね」
「はい! ノールさんは、過去の自分の手助けをしてほしいと俺に頼んだッス!」
それを聞き、ククーが前のめりになった。
「じゃあ、これからあたし達がどうやって、どうなるのか全部知ってるってこと?」
「あっ、いえ。ノールさん、そういうのは教えてくれなかったッス!」
「この役立たず!」
ククーはノールを睨む。
「今の僕に言われても……。たぶん、過去を変えられないようにするため。未来を変えたくないんだ。僕だったら、好奇心で違う行動をとろうとするだろうから……」
「さすが、ノールさんはいつの時代も賢い!」
「とにかく、過去に行ける手段があるなら、僕はヘルを助けたい!」
ノールは真剣な眼差しで、ウロタを見た。ウロタはキョトンとする。
「……ヘルって誰ですか?」
「えっ? 未来で会ったことないですか? 僕と仲良い女の子なんですが……」
ノールはその言葉に動揺した。
「いやー……。ノールさんの友達に会ったり色々しましたが、そういう人には会ったことなかったッスね!」
ノールはうつむく。
(……そうだよな。いつまでも、友達でいるような気持ちでいた。大人になっても、交流あるとは限らないんだ……。何か、ちょっと恥ずかしい……)
「ノールさん?」
急に黙ったノールを、ウロタは心配そうに見る。
「いえ、何でもないです」
「とにかく、青の森へ案内してもらいましょうか」
ククーが仕切り出す。
「……この時代、どうやって行けばいいのかなぁ」
「知らないの!?」
「俺は、この時代は初めてなんだ」
「本当、いつの時代も人って使えないわね」
「……さっきから、気になってんッスけど、この偉そうな妖獣はなんッスか?」
ウロタは、ククーを胡散臭そうに見る。
「聞いたことないですか? ククー……、ファイキャトスですよ」
「何ぃ!!!? この生意気な獣が、ノールさんが、いつも話してくれる、強くて美しくて優しい神秘的な伝説の妖獣なんッスか!?」
「ちょっと、ノールあんたを見直したわ」
ククーは嬉しそうに尻尾をピンとさせ、ノールを見る。
「いや、だから今の僕に言われても……」
「ファイキャトス、ヒョウフライの森を焼き払う程の炎の妖術使い。
その口から吐く炎は意思を持ち、望む物全てを燃やし尽くし、その尾は自在に風を操り全てを吹き飛ばし、炎の助けをする。ホウエン文明を滅ぼした後、妖獣の頂点に立ち、人と獣の決まりを作る。
ノールさんが、熱く語ってくれた伝説でこう聞いてたのに……」
「えっ!? 伝説が増えてる!?」
ノールは身を乗り出す。
「ノールさん、いつも難しそうな冊子を大切に持ってたから、それに書いてあったのかも」
「冊子?」
「太陽のマークが描かれていて、中は見せてくれなかったんッスけど……」
ノールは太陽のマークに心当たりがあった。
「太陽のマーク……。ホウエン国のマークだ!! 未来に新たな文献が見つかったのか!?」
「すみません。中を見せてもらったことがないので、わからないッス」
「そうですか……」
ノールは少し残念そうにする。
「で、結局、青の森まで案内できそうなの?」
ククーは目を鋭くして、ウロタを見る。
「たぶん、大丈夫ッスよ」
「じゃあ、道案内に任命するわ。あたし達を案内しなさい」
「何で、あんたに命令されるんだ?」
「あたしと、ノールは行動を共にしてるの。あたしの悩みはノールの悩み」
「マジッスか!?」
ノールは苦笑する。
「……まあ、ちゃんと行けるか不安だったんです。お願いできますか?」
「それなら、このウロタ! 命に代えても、青の森までノールさんをご案内します!」
「いや、命に代えないで下さい……」
「やっぱり、ノールさんって優しいッス!」
「……こいつも、馬鹿ね」
ククーは吐き捨てるように言った。




