10、船出
「一応、町全体を見渡したけど、怪しい奴らはいなかったぞ?」
ザザーン町付近の林に、不機嫌そうなログが舞い降りてきた。
「あら、そう。ご苦労様」
ククーは一応労いの言葉をかけるが、さも当たり前のように澄まし顔で言う。
「まったく。こきつかいやがって。俺様にも、都合ってもんが……」
「だって、あんたは飛べるんですもの。やっぱり、頼るに決まっているわ」
「チッ。あと、朗報だ。お前らが探している、時移動の妖獣は、青の森と何か由縁があるらしい」
「やるじゃない、ログ!」
ククーは今度は嬉しそうに誉め、ログも少し照れていた。
ノールは地図を開く。
「青の森は、リナト大陸か……」
「銀の砂漠に行ってからにする?」
「いや、先に行こう。時移動の妖獣に会うのが、当初の目的だから。リナト大陸行きの船に乗ろう」
「わかったわ」
ククーは頷いた。
ノールはログとまた別れ、ザザーン町に入った。船の切符売り場を探しにいく。
「あんた、お金持ってるの?」
鞄の中に入っているククーが、そっと聞いてきた。
「何とか……。たぶん、足りるはず」
すると、ノールの前に一人の男性が立ちはだかった。ノールは息を飲む。
「……父さん」
「何ですって!?」
ククーは鞄から顔を出し、威嚇する。
「どうしてここが……」
「逃げているのに、いつまでも同じ大陸にいるような、頭の回らない息子とは思わないからな」
父親はノールに小さな袋を投げて寄越した。
「町のため、追い出して悪かった。ファイキャトスが、ケリを着けたら、戻ってこい」
「父さん……」
「ノールを、頼む」
父親は、一度ククーを見つめると、黙って去っていった。
「大丈夫? その中に、発信器とか入ってない?」
「発信器って何?」
「知らないの? 本当、未来ってショボいのね」
ククーは呆れた顔をするが、ノールはわからなかった。
ノールはそっと袋を開ける。
「あっ、船の回数券とお金だ。……父さん、僕が町を出ていくこと……元から予測してたんだ」
ノールは袋をギュッと握り締めた。
無事にリナト大陸行きの船に乗り、出港した。
ノールは、周りに人がいないことを確認すると、甲板でそっと鞄を開けた。
ククーはグッタリしている。
「息苦しいし、気持ち悪い……」
「ごめん。他にもお客さんいるから、我慢してもらうしかない」
「あんたは、スッキリした顔してるわね……」
ククーは恨めしそうに、ノールを見る。
「うん。船は慣れてるし、それに父さんが帰ってきても良いと言ってくれたから」
ククーは何も言わず目を細めた。
「リナト大陸まで、まる一日かかるみたいだから……」
「何で、船がそんなに遅いのよ」
「過去は、船も発展してたんだ?」
「乗り物は充実していたわ。空を飛ぶ物もあって、空飛ぶ獣達は邪魔だからってことで、よく打ち落とされてた」
「…………」
「それだけじゃない。朝も夜も、天気も季節も操る装置を作り、ホウエン国の意思で全てが決められた。カキン王も、不老不死の薬を開発させていたり。……このくらい不便な方が、人間は可愛げあるのかもね」
「そうだね……」
(ファイキャトスが、ホウエン文明を滅ぼした気持ちがわかる気がする……)
ククーの語る不穏な過去を聞いて、ノールはそう思ってしまった。




