表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/10

第九話 世界のリセットと、イネプツの誕生。今度はカリスマに仕立て上げようと思ったけど、最初から記憶があって性格も治ってないし詰んだ件

「……よし。今度こそ、完璧よ」


私は、神界の真っ白な中心核コアで、満足げに腕を組んでいた。

あんな脂ぎった世界、リセットして正解だったわ。

カルニの持ってきた「究極のチョコバナナ・ハムクレープ」は確かに美味しかったけど、一口食べた瞬間に「あ、これ中毒性バグの塊だわ」と神の直感が警鐘を鳴らしたのよね。だから、味わい尽くした瞬間にボタンを押したわ。悔いはない。


今回のリセットの目玉は、なんと言っても「イネプツの再教育」よ。


「初期化の際、彼女の『無能データ』を抽出して、代わりに『カリスマ・聖女』のパッチを当てておいたわ。これで次世代のイネプツは、私の右腕として、凛とした美しさで世界を導くはず……!」


私は期待に胸を膨らませ、新生・神界の「天使生成カプセル」の前に立った。

シュゴォォ……という音と共に、カプセルが開く。

中からは、光り輝く羽を広げ、神々しいオーラを纏った「新生イネプツ」が、ゆっくりと目を開けて降り立ってきた。


「……あ。神様、お疲れ様ですぅ。リセット作業、長かったですねぇ☆」


「…………。……は?」


私は、持っていた管理杖を落としそうになった。

今、この「カリスマ聖女」仕様の天使は、なんと言った?

『お疲れ様ですぅ』? その、耳に馴染みすぎた、脱力感あふれる語尾は……。


「……イネプツ。あんた、なんで記憶があるのよ。リセット(初期化)したでしょ!?」


「えー? だって、神様が私を『ゴミ箱(隔離サーバー)』に放り込んだままリセットしちゃったから、私の意識データだけあっちに退避バックアップされてたんですよぉ。おまけに、なんか変なパッチを無理やり当てられたせいで、今、私の後光から『マヨネーズの芳香』が自動出力されてるんですけど、これ仕様ですかぁ?」


[ 警告:イネプツのバックアップデータがカリスマ・パッチを侵食 ]

[ 現象:『カリスマ的な無能』という、最も質の悪いジョブが生成されました ]


「……詰んだ。私の苦労が、コンマ一秒で瓦礫の山になったわ」


私は、膝から崩れ落ちた。

性格が治っていないどころか、外見だけカリスマ聖女になったせいで、彼女の放つ一挙手一投足が、信じられないほどの説得力を持って世界に影響を与え始めている。


「神様ぁ、見てください! 下界に降りて『マヨネーズは飲み物です』って一言放ったら、三日で宗教が三つ立ち上がりましたぁ! あ、あっちにいるカルニさんの生まれ変わりも、なんか私の後光に当てられて『ハムの聖遺物(新)』を掘り当てちゃってますよぉ☆」


窓の外を見ると、リセットしたはずの清らかな大地で、早くも筋肉隆々のカルニが「聖女様のしるしだぁぁぁ!」と叫びながら、巨大なハムを掲げて爆走していた。


「……もう、嫌。この世界、初期状態からバグってるじゃないのよ」


私は、新しく生成されたばかりのチョコバナナクレープ(今度は純粋なやつ)を手に取った。

だが、一口食べようとしたその瞬間、カリスマ聖女の皮を被ったイネプツが、これ以上ないほど神々しい笑みを浮かべて、懐から「全次元対応型・金色のマヨネーズ」を取り出した。


「神様、この新しい世界の完成を祝して……『追いマヨ』、失礼しますねぇ☆」


「やめろぉぉぉぉぉ!! リセットしても、結局ここに行き着くのねぇぇぇ!!!」


新生・神界に、以前と全く変わらない、創造神の絶望の叫びが響き渡った。


「神様、どうしてそんなに遠い目をしてるんですかぁ? リセット大成功じゃないですかぁ☆」


「……」


私は答えなかった。答える気力もなかった。

目の前では、カリスマ聖女の姿をしたイネプツが、清らかな泉の水をマヨネーズに変えながら優雅に微笑んでいる。

その背後では、生まれ変わったはずのカルニが、神界の庭園に「燻製用チップ」として世界樹の枝を勝手に伐採し、積み上げていた。


[ 状況報告:新世界の住民の9割が『聖女イネプツのマヨ教』に入信しました ]

[ 警告:神界の資産価値が『食用油』として換算され始めています ]


「リセット……。私は、あんなに苦労して、宇宙の全データを0と1に分解して、再構築したのに……」


結局、私の手元に残ったのは、前より少しだけ見た目が豪華になっただけの「脂っこい地獄」だった。

私は、震える手で管理パネルを操作した。まだ、最後の手段があるはずだ。


「……そうだ。イネプツ、あんたをカリスマにしたのが間違いだったのよ。今すぐそのパッチを剥がして……」


「あ、無駄ですよぉ神様。今の私、信者たちの『信仰心』をマヨネーズに変換してサーバーのバッファに使ってるんで。パッチを剥がそうとすると、信者たちの脂質データが逆流して、神様の管理パネルがマヨまみれになりますぅ☆」


「……何その鉄壁の防御セキュリティ。無能のくせに、そこだけは神を上回る最適化をしないでよ!!」


私は絶叫し、窓から身を投げ出した。

もちろん、神だから死なないけれど、この現実から逃げ出したかったのだ。


だが、空中で私を受け止めたのは、柔らかな雲ではなく――巨大な、弾力のある「ハムのクッション」だった。


「……何、これ」


「アルブス様! お怪我はございませんか! 新世界の物理法則は、アルブス様の御慈悲によって『安全性(脂)』が向上しておりますゆえ!!」


下で見上げていたのは、満面の笑みのカルニだった。

彼は誇らしげに、自分が作り上げた「ハム製救助マット」を指差している。


「……。……。……もう、いいわ。わかったわよ」


私は、ハムのクッションの上で、大の字になって寝転んだ。

空を見上げると、リセットしたはずの青空に、イネプツが放つ後光(マヨネーズ粒子)が反射して、虹色のギトギトしたオーロラが輝いている。


「私、神様やめる。……ううん、有給休暇を取るわ。今から五万年くらい」


「えぇー! 神様、行かないでくださいよぉ! これからみんなで、世界初の『マヨネーズ・オリンピック』を開催するんですからぁ☆」


「……うるさいわね。ついてくるんじゃないわよ」


私は管理杖を一振りし、自分だけの「プライベート・サーバー(隔離空間)」を生成した。

そこは、ハムも、マヨネーズも、無能な天使も、変態な勇者も、そして並行世界の泣き虫な同僚も、誰一人としてアクセスできない絶対領域。


私はその中心に、一つだけテーブルを用意した。

そして、今度こそ、誰の邪魔も入らない、完璧な、純粋な、チョコバナナクレープを生成する。


「……いただき、ます」


一口、かじる。

パリッとした生地。甘いチョコ。とろけるバナナ。

鼻に抜けるのは、燻製の匂いではなく、甘いバニラの香り。


「……ああ。……これよ。これなのよ……」


リセットして、詰んで、すべてを失ったけれど。

この一口の平穏だけは、ようやく私のものになった。


背後の空間の壁を、イネプツが「神様ぁ、マヨネーズ入れ忘れてますよー!」と叩く音が聞こえるけれど、私はもう、聞こえないふりをすることにした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ