098 ガストンの使い魔
「へぇー、だから服が結構ボロボロだったんだな」
「身体はフユのおかげで治ったけど、装備一式ほとんど台無しよ。明日ちょっと付き合ってちょうだい」
「あぁ、構わないけど?」
「勿論、フユも一緒にね。それくらいよろしいでしょう? ガストン様?」
「……まぁ、一日くらい……ならばな」
「本当ですか、ガストン様っ!?」
「ぐぇっ!」
フユはポチの頭を押さえこんでガストンに肉薄した。
ベティーが笑い、ガストンは鼻息をふんと吐くばかりだ。
なんだなんだ? そんなに休みをもらえないものなのか王都守護魔法兵団ってのは?
しっかし、ガストンに負けはしたが、ベティーがそこまで健闘するとはね。
限られた状況の中での策の応酬。いやぁ、その場で見たかったものだ。
「でもまさか負けて合格がもらえるとは思わなかったわ。やり切って満足出来たから後悔はないと思ってたんだけど……」
「ふん、及第点と言ったであろう」
「アイタタタタ、もうー酷いですよフユさんっ」
ぷっくりと頬を膨らませるポチに、フユがその頬を押しながら謝罪する。
「で、アズリーの方はどうだったのよ? どんな審査内容だったの?」
「あぁ、俺の方は――――」
「私が六勇士のバルンさんをやっつけました! えっへん!」
またもギルド内がざわつく。ガストンも片目を開ける程に驚いたようだ。
「六勇士のバルンって……ブレイザーの代わりに最近六勇士になったって噂の人?」
「えぇ、魔法士ならばその使い魔の実力を見なければって事で、ポチとバルンさんとで戦いましたね」
背後の方で別の冒険者が「やっぱ奴には荷が重かったんだ」とか「使い魔に負けるとか……」と言われている。
実力としては十分だと思うから、まぁこれはひがみとか妬みに分類されるいつものアレだろう。
「小娘が……バルンに勝ったか」
「えぇ、凄いでしょう! ですからガストンさんはもう少し席を離れて私にデザートでも注文してくれるといいですよ!」
「ふふふ、いいだろう」
「なんとっ!?」
ガストンはポチのデザートを注文し、席をポチに近づけた。肉球で視界を塞ぐポチの頭をぐりぐりと撫でるガストンに……周囲が驚き沈黙した。フユでさえも。
あぁ、確かにガストンのこういう面ってあまり見る機会はないんだろうけど、まさかここまで柔らかい人間だと思わないだろうな。
ベティーはあんぐりと口を開けて驚いたが、すぐに頭を振って俺にその内容について質問してきた。
俺がその質問に答え、周囲の冒険者たちで俺たちの席一角が埋まる頃、それは次の審査についての話となっていた。
「へぇ、ギルドの依頼消化ね……ランクSとはまた厄介な仕事だったんでしょうね」
「まぁこれについてはここでは話せない事も多いので、後日って事で」
「だが、手抜きとも言える審査内容だな」
ガストンの言葉に俺は苦笑して同意した。
確かに手抜きとも言えるだろう。しかし、あの解放軍の相手はランクS相当の実力でも攻略出来なかっただろう。
なんせ、もし戦ったのであれば、平均ランクBの魔法士含む解放軍兵士に加え、実力は十分にランクSと言える黒帝ウォレン、そして元六勇士の骨拳のジェニファーが相手だ。普通に考えて五時間じゃ絶対に倒せないだろう。
ガストンはこのギルドの仕事内容にあまり関与していないのか? 解放軍が相手となれば知っていてもおかしくはないが……王都にいる間に探りを入れておくか。
「それで審査は終わり?」
「いや、あと一つ。ジェイコブさんが驚くオリジナル魔法を見せろって内容だったよ」
「あら、それって結構難題ね?」
「あぁ、六勇士の知らない魔法ってのは中々ないだろうからね。俺も考えに考えて――」
「えー、マスター本当に持ってなかったんですか!? オリジナル魔法!」
ぬぅ……全てを語ればウォレンたちの件までバレてしまう。
だからこそ、ここは情報を伏せて拳に力を入れるだけにしておく。後でポチの尻尾を引っ張る力を残しておかないとな。
おっと手が滑った。
「アイテッ!? 何するんですか馬鹿マスター!」
「ポチが黙ってたら今日の昇格審査はもっと簡単だったんだよ! 馬鹿犬!」
「マスターに才能が溢れていたらもっとずっと前にランクSでしたよ!」
「ポチが優秀な使い魔だったらもっとずっとずぅうううっと前にランクSだったよ!」
「んきぃいいいっ! ガストンさん! ちょっと使い魔の募集してませんかっ!? 私便利ですよ!」
くっ、よりによって苦手なガストンに対してアプローチをかけるとは……そこまで落ちたか!
「おぉ、そうだった」
「え、空きがあるんですかっ!? ちょ、ちょっと私、外の繁みに活力と明日への糧を与えに行かなくてはいけないので……では!」
素直にトイレと言えばいいのに。そこは女子なんだろうけど、そういえばガストンの使い魔って……どんな使い魔なんだろう?
六法士っていうからには相当なモンスターなのかもしれないな。
「ここは、皆に紹介しておくべきか……ハウス」
ガストンは使い魔召喚の魔法を発動し、魔法陣の中から小さな影が生まれる。
それは本当に小さく、アイリーンのスズメなんかより小さかった。
「コノハという儂の使い魔だ」
その名の通り、木の葉サイズの小さな鼠が現れた。ガストンの手の平に乗り、立っている。
「あ、コノハさんお久しぶりです」
「ん、フユか。しばらくだな。ご主人、この者らは?」
「アズリーとベティー、そしてポチだ。この度ランクSの昇格審査を通った者どもだ」
「ほぉ?」
主に似るとは聞くが、ここまで似てるのは稀有なケースだな。
この小さな身体でまるでガストンのような佇まいと口調。
ガストンより多少若さは感じるものの、本当にそっくりだ。
「はじめまして、アズリーです。宜しくお願いします」
「ベティーよ、宜しくね」
「ポチです!」
トイレはどうした? 我が使い魔よ。
使い魔の空きがないと安心してすぐに忘れたな、こいつめ。
「ご主人が私を紹介するとは珍しいな。コノハだ。宜しく頼む」
首が一瞬だけかくんと下げる鼠。まぁお辞儀といえばお辞儀か。
「今から小僧がオリジナル魔法について話してくれるそうだ。勉強のためにお主も聞いておけ」
「ほぉ、ご主人がそう言うのであれば」
「え、そういうのって秘匿にしておくべきものでしょうっ」
「安心せい。この冒険者ギルドに小僧程の実力の持ち主はおらん。誰にも真似出来ぬよ」
この言葉に、ベティーが目を丸くさせて驚き、フユが口を押さえた。コノハは目を見張り、ポチは目尻に涙を溜めながら笑った。
言葉はどうあれ、ガストンは俺を褒めたんだ。王都レガリアの冒険者ギルドの中で……俺が……一番……か。
ふ……――
「ふははははっ! どうだポチ! これが俺の実力だ!」
「何を言ってるんですか! 私だって六勇士をやっつけましたよ!」
「確かに、帰ってきてからのアズリーには、兄貴やブレイザーも驚いてたからねぇ」
「私だってブルーツさんに褒めてもらいましたよ!」
「そうそう、ポチも強くなったよ」
「ご主人、この者ら…………」
「……あぁ、頭の方はてんで弱いのが玉に瑕だ」
「あ、あの、皆さん。もう少し落ち着いてください……」
フユの制止も聞かず、俺たちはその夜冒険者ギルドで大騒ぎをした。
後でベティーがコノハに怒っていた。『「この者ら」の中に、もしかして私は入ってないでしょうね?』と。
頭を抱えるガストンを横に、昇格審査の話で盛り上がり、ガストンの昔話で花を咲かせた。
宿に着く頃、食べ過ぎたポチがポチ枕を拒否。
少しでも腹に触れると、なんか噴水がどうとかわけのわからない事を言っていた。
さて、明日はベティーとフユと一緒に買い物か。複数人だし、この前みたいな春華のような状況は起きないだろう。
フユとは今日あまり話せなかったし、ちょうど良い機会だ、王都守護魔法兵団の話とか色々聞けるかもしれないな。
何にせよ、明日が楽しみだ。




