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悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ  作者: 壱弐参
第三章 ~成長編~

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◇084 アサルトコボルト

 ―― 三月二十一日 夜 冒険者ギルド ――


 我輩はタラヲである。

 (あるじ)はティファだ。

 昨日まで学生寮と呼ばれる建物の部屋にこもっていたティファがようやく出てきた。

 その間我輩は部屋の前で、新悩殺ポーズ、「伏せ」を体現していた。

 ドアをガリガリしてもティファが入れてくれないので、部屋の前を通る女共にナデナデコリコリウリウリされるという辱めを受けたが、中々に気持ちの良いものであった。

 まあ、その女共も、ティファの魔力がこもったデスボイスですぐに逃げ去って行ったがな。

 だが解せぬ。

 何故(なにゆえ)ティファはこの一ヵ月ほぼこもりきりでいたのだ? 本来であれば冒険者ギルドへ行って研鑽やら金というモノを稼ぎに行くのではないか?

 まあ今は出て、ベイラネーアの冒険者ギルドに来たし、問題はないが…………。

 そういえばベイラネーアでは冒険者ギルドに初めて来たな。前の街では行ったが、外での待機という屈辱を受けたものだ。

 お、今日は入っていいのか? ほお、やはりティファも女子(おなご)という事か。よいよい仕方なくこの我輩がお主の盾となっててやろうではないか?


「あら~? 可愛いワンちゃんね~? あなたの使い魔かしら~?」


 ……な、何だこの化け物はっ? 悪魔の類か何かか?

 シャツの上からでも隆々と浮き上がる筋肉。その背後に漂う濃密な魔力。我を選定する眼光はまるで聖剣のようではないか!


「ランクDの冒険者よ。割の良い仕事はあるかしら?」


 ふっ、侮っていたか。我が(あるじ)も化け物の類であったは。

 巨頭並び立つとはこの事かもしれぬな。しかしここの人間はかなり錬度の高い冒険者が多いな。

 街が大きい事が理由だが、それにしても普通の街とはどこか少し違うような気がする。


「これなんかどうかしら? ランクCのモンスター『アサルトコボルト』。討伐だけど、手負いらしくてね、ランクDの依頼にしているのよ。見たところあなたならいけると思うわ♪」

「そう、じゃあそれ――――」

「あの、この『アサルトコボルト』の討伐をお願いしたいのでありんす」


 ティファが振り返ると、そこには黒髪の女子が立っていた。

 ふむ、人間の中では上質な匂いをもつ女子だな。立ち姿や装備から見るに戦士か。


「あら春華ちゃん。ごめんね、その依頼、今この子に紹介しちゃったのよ~」

「そうでありんすか。では、別の依頼を探しんす」


 ふん、そうだ。下がれ女子よ。この依頼は我が(あるじ)が先に頂いたものだ。

 お前なんぞがしゃしゃり出てよいものではないのだ。


「いいわ、なら一緒に行きましょう?」


 なんですと?


「ちょうど他の冒険者の実力を見ておきたかったの。私とあなたでパーティを組んで、報酬は山分け、でどうかしら?」

「へっ?」


 ほれ見ろティファよ。女子の方も驚いてしまっているではないかっ。

 あの悪魔の方をチラチラと見ているが、人間の中でこういった行為は許されているのか?


「まぁ春華ちゃんがいいならいいけどね~。えーっと、ティファちゃんよ、仲良くしてあげてね~」


 依頼が通ってしまったぞ?

 ……春華とかいったか? ふむ、足運びから悪くない女子だとは思うが。


「ティファよ。こいつは……――――まぁいいわ、宜しくね」


 名乗るタイミングが無かった……だと?

 おい、ティファ! 何故我輩の紹介を省くのだ! 解せぬ、解せぬぞ!


「あ、春華でありんす。宜しくお願いしんす」


 くっ、人間ながらも優雅な所作をする女よ。

 見ておれ、いつかその礼を我輩の前でさせてくれるわ。


「ちょっとタラヲ、痛いわよ」


 まるで氷の槍のような鋭い視線。我輩の紹介おねだりアタックが偶然か必然か、ティファの足を引っ掻いてしまったようだ。

 ぬぅ、血が出てしまったようだ。く、恥辱の極みなれどこうなっては仕方ない!


「くぅ~ん、ペロペロ……はっはっ。ぐへっ!」


 痛い! これが私の痛みよと言わんばかりの鋭いデコピンが我輩を襲った。


「い、痛いではないかティファよ……」

「その舌に治癒効果があるのであればやらなかったわよ。舌は汚いの、余計な事しないで」


 なんと! 我輩の舌にはそんな猛毒が!?

 ふっ、これは良い事を聞いた。今度隙を見てティファに嫌がらせをしてやろう。


「えーっと……タラヲさんでありんしたか。どうぞ、宜しくお願いしんす」

「ふん、ようやく我輩の崇高なる存在に気付いたか女子(おなご)よ。足手まといになってくれるなよ? では、行くぞティファよ」


 決まった、決まったぞ! この後雄々しく歩を進めれば、春華は我輩の背中を羨望の眼差しで見るに違いない!


「何仕切ってるの?」

「あ、はい。すみませんでした」


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「ベイラネーアから北、街の看板を目印に東の小さな林、ここら辺であっているはずだけど」

「ティファ、血の臭いだ。それに少し腐臭もする」

「ほいのほい、テンションアップ」

「っ!」

「ん? どうしたの春華?」

「あ、いえ、なんでもありんせん」


 ティファの掛け声に反応したようだったが、春華のやつ、一体どうしたというのだ?

 我輩たちは林の奥へと進み、人間一人が隠れられそうな堀を見つけた。


「なるほど、腐臭はここからだったって事ね」

「複数のモンスターの死体。ゴブリン、それにリトルオーガの死体までありんすね」

「見ろ二人とも、このモンスターども奇怪な死に方をしている」


 何だこの禍々しい死に方は?

 人間の心臓部分、モンスターの心臓もここにあるが、どれもくり抜かれて死んでいる。

 こんな事、モンスターは絶対にしない。


「人為的な動きがあるかもしれないわね」

「ほぉ、気付いたかティファ」

「いんせんね、アサルトコボルト……」


 瞬間、春華の背後に小さな黒い影が現れた。


「ふっ!」


 ダガーを巧みに扱うコボルトが現れ、春華に斬り掛かった。

 しかし春華は反応し、腰の刀を抜刀し、それを防いだ。甲高い金属同士がぶつかり合う音。

 この赤茶色い独特な皮膚、赤く燃えるような瞳、依頼にあった通り、アサルトコボルトはやはりいたか。

 だがおかしい、何だあの身体から噴き出る黒い蒸気は?

 この異様な事態にティファは即座に魔法の宙図(ちゅうず)を始めた。


「っ! アサルトコボルトにここまでの力がありんすかっ?」


 押される春華。馬鹿な……いくらランクC程度のモンスターにこの春華を押し切る力があるというのか!?


「――のほい、パワーダウン&リモートコントロール!」


 薄赤い光がアサルトコボルトを包み込む。が――、一向に春華を押す力は弱まらなかった。


「嘘、効いてないの……?」

「くっ……!」


 いかんな、春華の力も限界か。よし、ここは我輩がっ!


「ぐぇっ!」

「あんたは下がってなさい」


 首根っこを掴まれて放り投げられた我輩は堀の先に投げ飛ばされてしまった。

 ぬぅ、痛い! 痛いぞティファよ!

 そう思い睨め付けようとティファの方へ眼をやった時、我輩の背に嫌な汗が走った。

 我が(あるじ)、ティファの腕から流れるは血。垂れる血と苦しそうな表情のティファの横にいるのは、もう一匹のアサルトコボルト。アサルトコボルトの左腕がない。なるほど、こちらが手負いだったか!

 ティファが助けてくれなければ我輩は危なかった! が、(あるじ)がそんな事では元も子もないぞ!

 くっ、万事休すか!

 にじり寄る手負いのアサルトコボルトに、ティファが懐から小さなナイフを取り出した。

 馬鹿な、魔法士がアサルトコボルトに白兵戦で勝てる訳がない!

 アサルトコボルトの余りの力に春華の膝が折れ掛かっている。後ろへも引けないか!

 ならばどうする!?


「――のほい! 四角結界!」


 ティファが瞬時に放ったのは……これは魔法ではない? 我輩の知らないものだ。

 春華の相手に向かって放ったそれは、光の杭で四角に包み、その動きを制限した。


「ぎゃっ!」


 アサルトコボルトから退避した春華は後方へ跳び、ティファの前に立って、手負いのアサルトコボルトと対峙する。


「ふっ、ふっ……ありがとうございんす!」

「ほいのほい、ミドルキュアー! 別に…………なっ!」


 ティファが見据えたその先では、先程の四角結界をバチバチと鳴らしゆっくりと前進を始めるアサルトコボルトの姿があった。


「そんな……!」


 結界が砕ける黄色い音。その光をかきわけるように歩を進めるアサルトコボルト。

 ぬぅ、我輩の力さえ戻れば……!

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