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悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ 作者:壱弐参

第三章 ~成長編~

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◆085 異変

 ティファと春華の前に、じりじりと詰め寄るアサルトコボルトに、二人は一歩、また一歩と後方へ追いやられた。
 ティファは魔法陣を宙図(ちゅうず)しようと試みるが、手負いのアサルトコボルトが牽制し、次の手に移れないでいる。もし強引に動けば、春華の絶命は必至。
 春華もそれがわかっていたからこそ動けないでいた。
 その時、後方でタラヲが吠えた。可能な限り大きな声で威嚇し、アサルトコボルトの気を引いた。
 このタイミングを逃す手はなかった。
 春華が手負いのアサルトコボルトを優先に仕留めようと、そちらへ駆けた。
 ティファがその後ろから自身が最速で出せる魔法サンダー宙図(ちゅうず)を始めた。
 手負いのアサルトコボルトが視線を戻した時、春華が軽やかに跳び、宙返りをしながらその後方へ着地する。
 ティファの手から放たれるサンダーが地を走りながら手負いのアサルトコボルトへ向かう。
 意識を春華へ向けていた。背後から迫る紫電の光に気付くそぶりをしなかったため、春華はこの勝利を確信した。

 だが、
「ぎゃっぎ!」

 もう一匹のアサルトコボルトが手負いのアサルトコボルトの背後に回り込み助けたのだ。
 ダガーを振り払い地を走っていた紫電が霧散する。
 作戦の失敗に顔を歪めたティファだったが、この時、勝利を確信していた春華の顔には想像以上の驚きが走っていた。

 ――――油断。

 春華は、手負いのアサルトコボルトがサンダーによって痺れ怯んだ隙を狙っていた。
 だからこそ攻撃のタイミングを逃したのだ。そしてそれは、防御のタイミングを逃した事と同義だった。
 手負いのアサルトコボルトにとっては予定通りの行動。春華にとっては予想外の行動。
 振り払われた一撃。
 なんの回避手段も持たなかった春華は、目を瞑り、己の死をただ待つしかなかった。
 しかし、アサルトコボルトが振り切った腕から、持っていたはずのダガーが消えていた。
 それどころか、手負いのアサルトコボルトの腕すらも消えていたのだ。
 この異常事態に、春華は戸惑うも、己の成す事を最優先で認識した。
 下段から上段に振り上げた一閃は正に一刀両断。
 手負いのアサルトコボルトが左右に身体を分けた時、ティファがその後に続いた。

「ほいのほい! サンダービット!」

 魔法陣から放たれたそれは、五つに分かれ、握りこぶし大の大きさとなった。
 顔を歪めたアサルトコボルトの周りを囲んだ雷の球体は、小さく発光し、そして中央に向かって鋭い雷光を放った。

「ぎぎぎぎぎっ!?」

 アサルトコボルトの身体が焦げ、辺りに嫌な臭いを発した。
 二人がそれで怯む事はなく、互いに互いを引き寄せるように真ん中にいるアサルトコボルトの下へ駆けた。
 だが、ティファの動きが早かったため、春華は自身の足にブレーキをかけさせた。

「バーストッ! 任せたわ!」

 猛烈な勢いで横から蹴り払われたアサルトコボルトは、その場から静かに刀を構える春華の下へと吹き飛んだ。
 待ち構えていた春華は腹に力を入れて叫んだ。

「あい! セブンスランジ!」

 目にも止まらぬ無数の突きが、アサルトコボルトの急所を貫いた。
 戦闘が終わった。そう思った春華は先の自分を省みて顔を横に振った。
 その場で跳び、ティファの背中に背中を預けるように着地すると、周りの殺気を読むように周囲を観察した。
 タラヲはティファに近づき、ハチの巣のように穴だらけにされた死体を見て縮み上がって震える。
 春華の行動の意味を理解したティファは、魔法陣を描き始め、事態に備えようとした。

「ほいのほいのほい! ビット&フラッシュアイ!」

 五つの黒い球体が魔法陣から現れ、その上からフラッシュアイの魔法を掛ける。
 球体は魔法を吸い込むように取り込んだ。

「ほいのほい! リモートコントロール!」

 その後も四つのリモートコントロールを発動し、四方と上空に向かって放つ。
 即席の固定索敵魔法を作りあげ、ビットから送られた周囲の情報がティファの目を通して脳に伝わる。
 膨大な情報故、ティファに少々の頭痛が走る。
 頭を押さえ苦悶の表情をするティファを春華が横目でちらりと見たが、「大丈夫」と一言伝えられると、横にやった目を戻した。
 タラヲは未だに縮み上がっている。

「…………ふぅ、大丈夫みたいね」
「ほっ、そうでありんすか」
「んー、六十点……ってとこだな」

 警戒を解いたその一瞬。二人の耳に低い声が届く。
 ただただ声の方向へ振り返る事しか出来なかった三人。だが、その声すらもトラップだった事を知る。
 振り返った先に声の主は存在しなかった。

「そっちじゃねぇ、こっちだ」

 再び振り向く三人。
 二人の正面に立っていたのは、銀の一人、ブルーツだった。

「ブルーツさん!」

 驚きながらも発せられた春華の声色から、敵ではないと判断したティファ。
 だが、顔に安心の色はなかった。ブルーツの体術に驚き、自身の愚かさを悔い、明らかに動揺していたのだ。

「おう、お嬢ちゃん。後悔は街に帰ってからしな。今する事はそうじゃねぇはずだ」

 この指摘にはっと我に返るティファ。
 三人は、ブルーツと対面しながらも、周りに警戒を走らせる。

「よし! で、もう遅い訳だが」

 そう言いながらブルーツはくいと顎を上げ、三人を後ろへ振り返らせた。
 そこに立っていたのはブレイザーとナツ。

「ブレイザーさん! ナツ! どうしてここにいるんでありんすっ?」
「ナツの付き添いでな。すまん、手出しするつもりはなかったんだが、危なくなった時――」
「ブルーツ君が足下にあった石を物凄い勢いで投げてねー! もう凄かったんだよ!」

 その言葉に三人が気付く。
 手負いのアサルトコボルトの右腕が消え去ったのは、ブルーツの仕業だったと。

「ばっ! それは言わねぇ約束だろブレイザー!」
「確かに約束したのは俺だ。だが言ったのはナツだぞ?」
「あー、ちきしょう! ナツにも口止めしとくんだった!」
「あはははははっ! でも格好良かったよ、三人とも!」

 無邪気なナツの笑い声に、春華とティファが見合う。タラヲはふふんと鼻を鳴らしている。
 小さくほほ笑んだ二人。この笑みにブルーツとブレイザーが笑う。
 だがそれは建前上の笑みで、二人の目は少しも笑っていなかった。互いにその事に気付き、死体となったアサルトコボルトを見やる。

(ランクCのアサルトコボルトがあの強さなのはいただけねぇ。ありゃランクA近くの強さだろうに。この前の事といい、一体何が起こってやがる?)
(後程リナを通してアズリーに話を通してみるか。この前聞いた魔術と、何か関係があるかもしれないからな)
(あぁ、そんじゃそっちは任せた)

 ブルーツのアイコンタクトにこくりと頷いたブレイザーは、ナツを持ち上げ、抱きかかえた。
 ナツも慣れたようで、首に手を回すと、三人に手を振った。

「ばいばーい! また後でねー!」

 快活な声を響かせ、ブレイザーの踏み込みによって、それは遠くから聞こえた。
 余りの速さに目を丸くさせていたティファとタラヲに、ブルーツが再び声を掛ける。

「さ、依頼も終わったんだろ? ちゃっちゃと帰ろうぜ。この辺りは夜になると高ランクモンスターも出るし、早めの方がいいだろうよ」

 この進言に頷いた春華は納刀してティファの方を見た。そして、俯くティファの肩をぽんと叩くと、「大丈夫、まだまだこれからでありんす」と呟いた。
 するとティファは、足下でティファを見上げるタラヲと目を合わせ、きゅっと口を結び、顔を上げた。

「うん、わかってる」

 照れ隠しかフードを被ると歩き始めたブルーツの背中を追った。
 その背中を見た春華は、ティファの変化と素直さに呆然としていたタラヲを目を合わせた。
 春華が小声で「良い……良いご主人様でありんすね」と呟いた。

「それはない」

 だが、チワワーヌの使い魔から返ってきたのは、否定の一言のみだった。
 口を軽く塞ぎ「まぁ」と零す春華は、ピコピコと振られる尻尾をみてくすりと笑うのだった。
CMです。
新作の投稿始めました。
「異世界でも半端者はんぱもん!」
宜しくお願いします。
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