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悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ  作者: 壱弐参
第三章 ~成長編~

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081 考察

 店の中は外装程古ぼけていなかった。

 軽装の甲冑から重戦士用の甲冑まで幅広く取り扱っている。

 展示は種類別に分かれているみたいだったので、俺たちは春華が使えそうな武器のコーナーへと向かった。

 店は奥行きが広く、特に武器のコーナーは短剣、長剣、重剣、細剣、アーティファクト入りの魔法剣なども置いていた。

 なるほど、銀の連中がここを気に入るのもわかる気がするな。


「さて、春華は……やっぱり刀がいいの?」

「そうでありんすね。しっくりくるのはやはり刀でありんす」

「刀はこっちにあるみたいですよ!」


 ポチが刀が立て掛けてある場の前で俺たちを呼んだ。

 しかし、付き合うと言っても武器の目利きは俺に出来ないし、どうすればいいんだろう?

 下手にこれがいいよとは言えないし。

 ふむ、店の人間に聞くのが一番と言えば一番か。


「…………」


 いや、春華の目は真剣だ。絡み付いていた腕もすっかり離し、ジッと目の前にある商品棚に立て掛けてある刀を見ている。時には持ち、時には抜き、目を細めて波紋を見ている。その姿はどこか妖しくどこか美しかった。

 うーん、壁に掛けられてある方がモノは良さそう……って、ランクDの春華が買える値段じゃないか。

 無銘のコーナーの中でも良質の武器を選んでいるみたいだが、先程からチラチラと右手上段の壁に掛けられた刀を見ている。

 なるほど、あれが目当てのモノか。お値段なんと五万八千ゴルド。

 働かなくても二年は生きていける金額だ。銘は……「小桜」。春華の身長にも合うみたいだし、ここは男を見せ買ってやるべきか?

 しかし、甘やかしてベティーに怒られても怖いしなぁ……。

 と、俺が腕を組んで考えていると、ポチが小桜刀を指差して言った。


「ご主人、あの刀をください!」


 ……はて、変な事を言ってる使い魔がいるが、あいつに財布を持たせた記憶はないぞ?

 はて、変な事を言っていた犬ッコロがバチンとウインクしているが、あれは何のサインだろうか?

 むぅ、何故か喜ぶ春華に再度腕を組まれながら会計カウンターに立っている。

 おかしい、店に入る前より、財布の中身が五万八千ゴルド減っている。

 何故だ、何故俺は美味そうに飯を食っている使い魔を前に、正座しながらベティーに説教を受けているんだ?

 不可解だ、五千年生きてきたが、これ程までに不可解な現象は体験した事がない。

 幸いベティーは淡泊な性格なため、一度怒ったらその後はネチネチと言ってきたりはしないが、俺は春華が刀を抜く度にベティーに怒られた事を思い出してしまうかもしれない。

 脇で笑うブルーツはまぁ許せるが、後ろ足で首元を掻く使い魔だけはやはり許せぬ。

 リナは忙しいのか今日は戻って来なかった。最近は大学に泊まる事もあるのだとか。

 大学の学生自治会会長ともなると、新一年生が入る時期は忙しいのだろう。前の学生自治会長のウォレンはそういった感じではなかったみたいだが、あれはあれで特殊なような気がする。

 そう言えばウォレンは今、どこで何をやっているのだろう? 様々なチーム、貴族のお抱え魔法士、国の主要機関からお誘いがあったらしいが、どこにも属さず卒業と同時にベイラネーアから消えて行ったという話をアイリーンから聞いたんだが…………あそこまでのやり手だ、どこに行っても上手くやるに違いない。国の上層部を目指すと言っていたから、てっきり正攻法でいくかと思っていたが、まぁウォレンなりの考えがあってこそだろう。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「と、いうわけで早速俺の新しい杖、《水龍の杖》の餌食になってくれたまえ、ポチ君っ!」

「餌食ってなんですか餌食って! 冒険者ギルドに寄らずに街の外に出たと思ったら、目的は私でしたか!」


 ベイラネーアの東門から人通りの少ない荒地に出ると、俺とポチは対面となって立っていた。

 ここにはモンスターは出るが左程強くないため、隠れて作業するのにはもってこいの場所なのだ。

 そして杖なのだが、リナと一緒にどちらの杖にするか決めようと思っていたら、銀のヤツらの進言で先に決めてしまったのだ。

 俺がもらったのは、やたら手に馴染んだ《水龍の杖》。吸い込まれるように手に馴染み、俺の身体にも合っていたようだった。

 ポチもノったはいいが、その後の動きがなくて首を傾げて聞いてきた。


「で……何するんです?」

「いやな? クリートの奴、スウィフトマジックで大魔法を出してきたんだよ。ちょっとその考察と実験を兼ねてポチを的にしようかと思――」

「エアクロウッ!」


 ポチの爪から空気の刃が飛んできた。


「ちょ、てめぇ何しやがるっ!」

「それはこっちのセリフですよ! 毎回毎回私を的にして! それでも神に選ばれた人間ですか!?」

「神に選ばれた訳じゃねぇよ! 神にポチ(生贄)を捧げて選ばれるために必要な行為なのだ!」

「その生贄って私の事じゃないでしょうねっ!?」


 ちっ、何故わかったんだあいつめ。


「はぁ、その顔で答えは出ました。本当にしょうもないマスターですね!」

「ホントだよ! こんなしょうもないやつの傍にいてくれるのはポチだけだよ!」

「ふふん、そうでしょうそうでしょう! 優秀な魔法士が無数にいるのにマスターを選んだ私は神のように優しいのです!」


 仰け反って胸を張るポチ。よし、些細な復讐と丸め込み作戦は成功だ。


「ま、アレだ。ちょっと俺の考察を言うから。間違いがあったら指摘してくれ」

「しょうもないマスターのためです。仕方ありませんね!」

「まず大魔法の公式の分割化だ。たとえば『シャープウィンド・アスタリスク』の大魔法を二分割して杖に込める方法だ」

「んー、でもそれだとその杖には二つしか魔法を入れられないって事ですよね? クリートはいくつ大魔法を使ったんです?」


 そう言えば、奴が使った大魔法は、ロックブラストとヘルスタンプとアイシクルヘルファイアの三つだが、ロックブラストとアイシクルヘルファイアは宙図(ちゅうず)によって発動していた。スウィフトマジックで放った大魔法はヘルスタンプのみ。

 そのヘルスタンプと共に使ったリモートコントロールもスウィフトマジックだった。という事は、最低三つのスウィフトマジックが可能な杖でないといけない。

 だが、奴が持っていた杖は…………おそらくスウィフトマジック限度数二のアースロッド。


「……そうだな、分割の線は薄そうだ」

「次はどうな方法なんです?」

「リモートコントロールで操った複数の魔法陣を移動させ、同時に重ねてエンブレムに魔法を描き込む方法だな」

「それも難しいと思いますよ? だってそれって別々の魔法をリモートコントロールで操作するって事ですから、三つ重ねるとしたら三つのリモートコントロールが必要になる訳です。マスターでもない限り無理ですよ。……でも、複数人でやれば可能かもしれません。簡単な魔法でよければ私も使えるので、試しにやってみます?」

「頼むわ」


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「出来なかったな」

「出来ませんでしたね」


 杖に入ったのは一つずつの魔法。同時に重ねたってそれは俺たちの感覚での「同時」だ。杖にとっては同じタイミングではないって事だ。刹那のタイミングでどうしてもズレが生じる。根本的に無理な話だったって事だ。

 むぅ、正直、大魔法の簡易発動はとても魅力なんだ。

 是非ともこれを成し遂げて、今後の憂いを出来るだけ無くしたいものなんだが、困ったもんだな。

 頼れる人物を頭に浮かべてみたが、やはりトゥースが一番最初に出てくる。

 くそ、あいつの存在感は異常だな。だがあいつは通信を遮断してて念話連絡出来ないし、メルキィに聞きたくても同じく遮断している。

 なんなんだあの頼りにならない師弟は。まったく。

 そんな事を考えていると、ある一人の人物が頭に浮かんだ。

 そう、この水龍の杖をくれた焔の大魔法士ガストン様だ。杖の礼もあるし、俺は早速彼にコンタクトをとった。


『もしもし、お久しぶりですガストンさん。アズリーです』

『ぬ、小僧か。この前会ってからそんなに日も空いてなかろう? まぁいい。何の用だ?』

『水龍の杖と炎龍の杖、お店で受け取りました。本当にありがとうございます』

『ふん、ようやく受け取ったか。だが、あんな事があっては仕方がないだろうな。小僧はどちらの杖を使うつもりだ?』

『水龍の杖が手に馴染みました。なのでリナに炎龍の杖を渡そうと思います』

『そうか。ふふふふ、では来年の四月が楽しみだな』

『四月……というと?』

『なんだ聞いていないのか? リナは魔法大学を卒業したら儂のところに来ると、この前ポチズリー商店に集まった時に言っていたぞ』


 そ、そうだったのか……。いや、リナの選択だ、これは俺が口を挟める問題じゃない。

 ガストンが「小僧はどうするのだ?」と聞いてきたので、俺は回答を誤魔化して本題の話をした。

 返答をはぐらかされたガストンだったが、俺の言葉に反応した。


『……やはり存在するのか』

『えぇ、少なくとも俺はそれを目の当たりにしました。正直ノンアクションで放たれる大魔法は脅威です。ガストンさんが何か知っていればと思ったのですが、どうでしょう?』

『儂の言葉に答えがあっただろう?』

『えぇ、しかしガストンさんなら何かしら答えまでの答えを出してくれると思ったので……』

『ふん、持ち上げるな小僧? が、魔術を使える者というのがやはり鍵なのだろうな。小僧も魔術の使い手、ならば答えを出せるのはその人間のみという事だろう』


 そう言ってガストンとの話は終わった。

 確かにクリートは魔術を使えた。それは決して黒魔術じゃないと出来ないという訳ではないはずだ。スウィフトマジックが考案されたのは最近(ここ百年程)だという話だし、黒魔術を組み込むとしたら必ず自分に少なからず影響が出てしまう。そんな魔法をぽんぽんと出す訳がない。

 しかし魔術か。

 大魔法がスウィフトマジックで発動出来ないという事実。その理由は何だ? 答えは簡単。魔法式の容量が大きいから組み込む事は出来ても発動が出来ないんだ。なら大魔法の魔法式の容量を減らす事に重点を置いてみてはどうだ?

 いや、魔法式の効率化は出来ても、容量を減らす事は出来ない。なら魔術を組み込む? いやいや、それこそ容量が大きくなってしまう。


「ふわぁ~…………マスター、もう結構遅い時間ですよー? そろそろ危険なモンスターも動き出す時間ですし、帰りましょうよー。ここなら人目もないですし、空間転移魔法で帰れますよ!」


 っと、もう、そんな時間か。早く帰らないとまたベティーに怒られる。

 ポチの言う通り、確かに空間転移魔法ならすぐに帰れるし、時限消滅式を組み込んで置けば飛んだ後すぐに…………待てよ?


「っ! そうか時限消滅の魔術か!」

「へ? そんな事したら大魔法の情報自体消えてしまいますよ?」

「ちょっと試しにやってみるから見ておけって! ほいのほい……こうしてシャープウィンド・アスタリスクの公式に、ほほいと仕掛けを入れて……」


 エンブレムが光り、魔法陣が静かに消えていく。これで魔法自体は杖の中に組み込まれた訳だ。

 そしてこれがスウィフトマジックである以上、一定の情報量を超えると発動されなくなってしまうのだ。


 だが、

「……シャープウィンド・アスタリスク!」


 杖から放たれたのは紛う方なきシャープウィンド・アスタリスク。大地を走り、荒地に大きな爪跡を残す大魔法。

 目を丸くさせて驚いたポチは、一瞬俺の手を見て宙図(ちゅうず)をしていないか確認していた。


「ほ、本当に出ました! え、今どうやって出したんですか!?」

「だから時限消滅の魔術を組み込んだんだって」

「むぅ、怒りますよ!」


 こういう知識欲に駆られたポチを怒らせると面倒だ。俺は一つ咳払いをして説明を始めた。


「簡単な話だ。大魔法の公式に時限消滅の魔術公式を組み込む。それも大魔法の公式の中で一番情報量が多い部分にだ」

「すると……どうなるんです?」

「杖のエンブレムは組み込まれた段階で魔法の判定をする。ならば杖の中に入ってしまった魔法式は必要ないんだ。だから一番多い情報を含んだ魔法公式に時限消滅の魔術公式を組み込んでおけば、時間と共にその情報量を消滅させてくれるってわけだ」

「おぉ! という事は、圧迫されていた情報量が緩和され、杖から大魔法を出す事が出来るという訳ですね!」

「そういう事だ!」

「凄いですー!」

「ふふふふ、もっと褒めてくれたまえ!」

「流石マスター! 私に選ばれるだけはありますね!」


 そのうちポチ(こいつ)は神にまで上り詰めるかもしれないな。

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