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悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ  作者: 壱弐参
第三章 ~成長編~

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080 お買い物

 さて、今日は杖の新調か。

 昨日ポチのせいで結構な出費となってしまった。

 まったくあいつめ、つくづくご主人泣かせな使い魔だ。

 ポチズリー商店への貢献もしなくちゃならないし、お金はまだまだ必要なんだよな。

 幸いガストン、ビリー、アイリーンへの魔術公式の売却も再開したし、そこまで切羽詰まっていない。

 だが、その分また色食街(しきしょくがい)の人買いも再開してる。最近ではポチズリー商店へ直接人間を売りに来るやつもいる。

 確かに色食街(しきしょくがい)よりは高く買うからそうなって然るべきだが、こんな状況は早く打破したいものだ。


「あ、アズリーさんお出掛けでありんすか?」

「お、春華(はるはな)、前の事件で杖を牢に置いてきたからな、今日は杖の新調に行くんだ。なんなら春華も行くか?」

「い、いいのでありんす?」


 何故か春華は頬を赤く染めたが、どうやら行きたそうな雰囲気だ。


「このうるさいのが付いて来るけどな。それでもよければだけど?」

「マスター! どうして私がうるさいのになるんですか!」


 まったくからかい甲斐のある――、


「ちゃんとポチと呼んでくださいっ!」


 そこかよ。


「ふふふふ。あい、ではすぐに支度するでありんす」


 両膝をかくりと落として小さくお辞儀をすると、春華は自室へと向かった。

 戻ってきた春華は、頭頂部で簡単に髪を纏め、ほんの少しだけ化粧をしていた。気のせいか柑橘系の良い匂いが……。

 するとポチが鼻をすんすんと動かした。まぁ犬だし、流石に気付くよな。


「これは……タイガーフルーツの匂いですね!」

「ふふふふ、当たりでございんす。ベティーさんにもらいんした」


 へぇ、ベティーからは考えられない行動だな。普段が普段なだけで、女同士となると、そういう話をしたり興味を持ったりするのだろうか?

 ポチが匂いを気に入ったのか、春華の後方を歩き、必然的に春華は俺の隣を歩いた。

 考えてみたら春華とこうして出掛けるのは初めての事かもしれない。

 だからか春華も少し緊張しているように見える。

 後方で鼻を動かす我が使い魔はとてもリラックスしているように見える。


「アズリーさん、本日はどちらへ行くのでありんすか?」

「んー、捻りも何もないけど、ガストンの魔道具専門店かなー」

「確かに、あそこは品揃えが豊富でありんすね」

「え、春華も行った事あるの? 魔法士専門の店だと思ったけど?」


 俺が少し驚いて聞くと、春華は小さな肩を震わせて笑った。


「フユとナツにせがまれて行ったんでありんす」

「あー……」


 納得すると春華はまたくすりと笑った。

 何気ない話に春華は笑みを含める。これは昔からやっていた接客が原因だろうが、俺はあえて指摘しなかった。

 相手を喜ばせる事、悦ばせる事を目的としていれば、自然とマイナスの感情を抑え、プラスの感情を大きく出す事を覚えるのだろう。

 そんな事を考えているとポチがジトッとした目で俺を睨んできた。


「まーたマスターは無粋な事を考えてますね?」


 てな事を言われたが、気にしない事にした。

 こんなやり取りでも春華は微笑む。

 不思議だ、この笑顔には人を癒す力があるみたいだ。

 プラスの感情がプラスに働いているんだ、別にとやかく言う必要はないだろう?

 それに、何より俺はこの優しい笑顔が好きだった。


「そう、それでいいんです!」


 ぬぅ、何故わかった……。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ガストンの魔道具専門店に着くと、ドアベルと共に懐かしい声が響いた。

「いらっしゃい」という渋めの低い声。

 そしてあの時同様に、店の最奥には、ふさふさの黒髪黒髭に、太い眉の爺さんが、本を読みながら椅子に腰掛けていた。

 すると、爺さんが眼鏡を鼻に下げて俺たちを見た。


「おや、あんさんは確か……スターロッドを買った坊ちゃんだね?」


 凄いな、三年近く前に一度来た客の事を覚えているのか。


「その節はお世話になりました。また杖を見繕って頂ければと思いまして」

「その節はマスターがお世話になりました! お邪魔します!」

「ほぉ、シベリアンヌ・ハスキーの使い魔……ん? もしやアンタ、アズリーって名前じゃないかね?」


 思い出したように爺さんが言った。


「え、えぇ、そうですけど?」

「やっぱりそうか、ガストンさんから話は聞いてるよ。ちょっと、ちょっとこっちに来なさい」


 爺さんは手を招くようにして俺たちを奥へ進ませた。

 春華は俺の一歩後ろを慎ましく歩いている。本当にリナと一つしか違わないのだろうか?

 こういうところで妙な大人っぽさが出るから、俺も少し緊張してしまう。

 カウンターまで着くと、爺さんは奥の方から埃を被った布に包まれた何か持ってきて、カウンターに置いた。


「……これは?」

「ガストンさんからだよ。『アズリーって人がここを訪ねて来たらこれを渡すように』とね」

「い、いつ頃の事ですっ?」

「はて……確か、二年程前だったかね?」


 春華が「まあ」と驚き、俺も言葉に詰まっていると、ポチがカウンターに身体を預けながら背伸びして立った。

 どうやら布の中身が気になるようだ。


「早くください!」


 なんて気の早い使い魔だ。

 そんな使い魔を「ほっほっほ」と笑って爺さんは布の包みを開けた。

 入っていたのは、二本の杖。

 一つは優しく穏やかな魔力を感じる。エンブレムに水龍の彫刻。

 一つは激しく荒々しい魔力を感じる。エンブレムに炎龍の彫刻。


「ほっ、(あるじ)が来たと杖も喜んでるね」

「これは……」

「水龍の杖と炎龍の杖だよ。あんさん相当ガストンさんに気に入られているね。スウィフトマジック限度数四の業物を贈られるなんて」


 開いた口が塞がらなかった。

 あの強引なポチでさえあんぐりと口を開けている。

 ランクAの巨大な赤い龍、《ロードドラゴン》の貴重な一本角を削り出して作製される《炎龍の杖》。

 同じくランクAの巨大な青い龍、《コバルトドラゴン》の牙から作製される《水龍の杖》。

 コバルトドラゴンは無数にある牙から杖が作られるが、その個体数はロードドラゴンに比べるとかなり少ない。

「対をなす杖」と呼ばれる超高級品だ。炎龍の杖はオルネルが愛用している杖だな。

 二本セットでオークションにでも出せば、五百万ゴルドはするだろう。そんな杖を……プレゼント?


「気に入った方を使うといい」

「しかし、何故二本なんですか?」

「もう一本は……えーっと確かリナって子に渡せと言ってたね」


 リナに……。


「マスター、これは恩返ししなくちゃいけませんねぇ……」

「……あぁ」


 俺は爺さんに礼を言って、新しい布に包んでもらった二本の杖を担いで外へ出た。

 ドアベルと共に響く渋めの低い声。しかし、その声は俺が店に入った時より少し明るい声だった。

 店の前でしばらくボーッと立っていると、春華が気を遣ったのか明るい声で話し掛けてきた。


「アズリーさん、よろしければあちきのお買い物にお付き合いくださいませんか?」


 杖を持ち喜ぶ俺に、春華が言った。

 確かに、付き合わせるだけってのはよろしくない。

 俺が快く了承すると、春華は頬に手を当てて喜んでくれた。

 むぅ……俺にとってはよろしくない微笑みだ。


「でぇ〜……どこに行くんだ? 春華」

「刃こぼれが目立ってきたので、そろそろ剣の新調をしようと思っていたのでありんす」


 そう言うと、春華は腰に携える身の丈程の刀に手を置いた。

 む、困ったぞ? 俺は武器を購入出来るような店を知らないんだが、春華が知ってるのかな?

 俺が顎に指を置いてそう考えていると、春華は俺のその指をとって小走りに駆け始めた。


「ふふふふ、こっちでありんすっ」


 小さな手のひらに包まれる俺の人差し指は、ほんのりとした温かさを感じる。

 小走りする春華の背中を、動揺しながら見守る俺を、ポチはニヤリとした顔で見守った。

 あれ、ちょっとポチのほっぺたをつねりたいぞ?

 よく伸びるほっぺたなんだ。後でつねろう。


 北区の商業地帯を少し抜けたところに、古ぼけた武器屋があった。

 木製のボロボロの剣型看板は、少し傾いているように見える。

 春華の話じゃ、なんでもブレイザーおすすめの店だとか。

 ブレイザーが言うのなら間違いはないと思い、俺たちは店の中に歩を進めた。

 いつの間にか絡みついた春華の腕は、俺の左腕をガッチリとホールドしていた。

 そして、ポチの視線は、俺たち二人の姿をガッチリとホールドしていた。

 くそ、置いてくればよかった……。



この度、「悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ」の第二巻がめでたくオリコンウィークリーランキング15位に載り、重版も決まりました。

また、「悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ」の第三巻の発売が決定致しました。

本当にありがとうございます。


がしかし、原稿が追いついてないのでせっせと書きます。

皆様、応援の程宜しくお願い致しますm(_ _)m

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