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悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ  作者: 壱弐参
第三章 ~成長編~

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◇074 我輩はガルムである

 我輩はガルムである。


「ガルム、そっちのリザードは任せたぞ!」

「あ、はい」


 ちっ、低俗な人間が何故(なにゆえ)我輩を使役するのだ。

 強制的に心から縛り付けるこの契約さえなければ我輩は自由なのに……何故(なにゆえ)こうなった?

 あれは確か数カ月前だ……――。


 ■□■□ 数カ月前 ■□■□


「ほーら霜降り肉だぞ~♪」

「くぅ~ん……はぁっはぁっぺろぺろくちゃくちゃ」

「今だっ! 主従契約発動っ!」


 ■□■□ 現在 ■□■□


 むぅ、何故(なにゆえ)こうなった? 解せぬ。

 我が(あるじ)は眼鏡を掛けた優男である。

 今は、とある迷宮内にいるリザードジェネラルという魔物を討伐する為に、「乾きの砂漠」を進んでいる。

 岩と砂だけの死の砂漠だ。所々に魔物や動物、人間の骨が落ちている。

 ここを狩り場とする数匹のリザードに囲まれているが、こんなトカゲ如き我輩の敵ではない。

 狼王と呼ばれる所以を見せつけてくれる!


「くらえぃっ! がぁあああっ」

「「ギィーギィー!」」

「いた、いた、いた、いたたたたっ!? こ、これやめんかっ。我輩は狼王ガルムだぞっ!」


 な、なんて無礼な奴等だ。我輩に対して次々に噛みついてくる。


「ちっ、サンダーボルトッ!」

「「ギャー!?」」


 (あるじ)の雷の鉄槌がトカゲ共に直撃す――


「る゛る゛る゛る゛る゛る゛っ!?」


 馬鹿なっ、(あるじ)が我輩にも攻撃を加えて来たぞっ?


「……あ、(あるじ)、刺激的な応援だな」

「刺激的な応援じゃねぇよ! お前、いい加減使い物になれよな! 毎回毎回世話焼かせやがって、お前みたいな代わりはいくらでもいるんだぞ!」

「はい、すみません。主従契約の時の強制力がですね? いささか強すぎたようでして、はい」

「くそっ、どうしてこんな事になっちまったんだよ……」


 ふん、頭を抱えながら悩むがいいわ。

 そんな程度の低い頭だから我輩を使いこなせないのだ。


「……仕方ない……か」


 ふっ、そうだ。仕方ないのだ。

 今に見ておれ。そのうち我が狼王としての能力が覚醒し、そしてその力をだな――


「――ん? (あるじ)、この看板はなんだ? 『拾ってやってください』……これはどういう意味だ?」

「お前クビ。ここで新しい(あるじ)を探せ。新天地での活躍を期待する。主従契約解除! ……おし、じゃあな」

「……え?」


 (あるじ)が遠ざかって行く。砂が吹き荒れる渇きの砂漠を、一人歩いて行く。

 そして――あ、見えなくなった。


 我輩はガルムである。


「くぅ~ん……くぅ~ん……」


 (あるじ)はいない。

 人が通る事などほとんどない「乾きの砂漠」で絶賛(あるじ)募集中である。

 なんとかしてここから離れたいが、元(あるじ)の最後の命令が我輩を蝕んでいる。

 ぬぅ…………動けぬ。


『ケケケケケケ。ようガルム、お前使えなくて捨てられたらしいな?』

『下がれトカゲめ。我輩の崇高なる命令の邪魔だ』

『はん、今の状態のお前じゃそのトカゲ一匹も倒せねェよ。おう皆、やっちまえっ!』


 ふん、契約を終えた我輩に勝てると――


「「ギィーギィー!」」

「いて、いてててててててっ! ご、ごめんなさいごめんなさい。もう生意気な口利きませんから!」

「「ギィーギィー!」」

「痛いっ痛いって! あ、これあかんやつや! あかん感じの傷だってコレ!」


 ぐぅううっ! な、何故(なにゆえ)力が戻らないっ?

 解せぬ、解せぬぞっ!


「ファイアウォール……」


 その時であった。我輩とトカゲ共の間を分けるように赤い炎の障壁が現れたのだ。

 トカゲ共は突如現れた炎に怯え、その背後から歩み寄るフードを被った人間に気付いた。

 人間だと分かるや否や、トカゲ共は次々とそやつに襲いかかり、そして紅蓮の炎に焼かれていった。

 ふむ、なんとも香ばしい良い匂いだ。

 全てが燃え尽きた時、我輩の前にあった炎の障壁はどこかへ消えさり、灰色のフード、灰色のマントを羽織った人間が眼の前に立っていた。

 どうやら看板の文字を読んでいるようだ。

 ふっ、そうかそうか。お前が新しい(あるじ)か。ほれ、もっと近くへ寄れ。


「…………」


 ザッザッザッザッザッ――


「な、何故(なにゆえ)去ろうとするっ? ほれ、我輩は狼王ガルムだぞ?」

「……別にいらない」


 女の声であった。芯のある声で我輩を拒絶した。

 身の丈はおよそ我輩の三分の一程。女としては平均的な身長よりかなり低いだろう。

 体格は普通かそれより肉が少ないかというところだ。あれは食うのに難儀するだろうな。

 という場合ではない。何故(なにゆえ)我輩を欲さぬのだ。この狼王ガルムをっ!


「わ、我輩と契約すると……えーっとその……だな、良い事が沢山起こるのだぞ!」

「……どんな?」

「ふっ、美味い人間が一目でわかる」

「いらない」

「で、ではこの尻尾だ。もふもふしていて枕には格別だぞ? 我輩の元(あるじ)も『これだけは』と褒めた程だ」

「……それだけなの?」

「そ、それだけではないっ」

「他には?」

「それは……その……」

「……お手」

「ぬ?」

「お手。お手も出来ないの?」

「ワ、ワンッ」

「……へぇ」


 ぬぅ、こやつめ……我輩に犬っころの真似事をさせるなど――


「ちんちん」

「へ?」

「ちんちん、出来ないの?」

「ア、アウッ!」

「なんだ、出来るじゃないの」


 お……おのれおのれおのれぇえええええええええっ!

 なんという屈辱っ、なんという情けない姿なのだっ!


「お手」

「ワンッ」

「おかわり」

「ワンッ」

「ちんちん」

「アウッ」

「じゃあね」

「いやいやいやいや! 今のはこのまま『可愛い』と言って、主従契約する流れであろう!?」

「だってあなた、リザードにすら負けてたじゃない? 弱いのはいらない」


 ……弱いだと?

 この女、我輩を弱いと言ったぞ?


「我輩は狼王ガルムだぞ?」

「それはもう聞いた」

「ぬぅうううう……」

「……そんなに私の使い魔になりたいの?」

「そ、そんな事ある訳ないであろう!」

「じゃあね」

「わぁー、嘘嘘嘘嘘嘘っ! 我輩、元(あるじ)の最後の命令で今この場を動けぬのだ! せめてこの砂漠から出るまでの間だけでも主従契約を結んで頂けないだろうか!?」

「…………ふーん。おそらくそれは元(あるじ)ってのが背後から君に狙われない為の予防策だろうね。……普通だったら契約破棄の際の命令は時効制を用いるんだけど……そういう事なら仕方ないか」

「そ、そうなのだ! 今思えば酷い(あるじ)であった!」

「…………よいしょ」


 何故(なにゆえ)しゃがみ込んだのだこやつは?

 む、見ればまだあどけなさが残る子供のような顔ではないか。ぬぅううう。子供の分際で我輩を使おうというのかっ!


「ここから出たい?」

「そ、それはもう!」

「なんでも言う事聞く?」

「な、なんでも……とは?」

「聞くの? 聞かないの?」

「き、聞きます聞きます! もうなんでも言う事聞いちゃいます!」

「……仕方ないか。ほら、ちゃんと座って。『お座り』!」

「ワンッ」


 ふっ、どうだ我輩の優雅で気品のあるお座りは?

 素晴らしい毛並み、逞しい四脚、全ての魔物が畏怖する鋭い眼光……どれをとっても一級品だぞ?

 む、懐から杖を出したな。ふふふ、ようやく契約だ……まったく、待ちかねたぞ。


「ほいのほいのほい! ……我、(なんじ)と契約せん。(なんじ)、我に生涯を尽くす事を誓うか?」

「へ?」

「誓うか?」

「あ、はい」


 な、なんて恐ろしい眼をする娘だこやつはっ。思わず返事をしてしまったではないか!

 いや、今何か心の中で是か非かを問われた気がするが、なんだこの強制力はっ?


「悠久の時を生きる大いなる神よ、我ここに彼の者との鋼の如き主従の契約を結ばん。これいかなる時も折れず切れず綻びぬ永劫の契約とし、これいかなる時も強固に縛られた血盟の契約とする。…………主従契約発動っ!」


 ……我輩はガルムである。


「よしっと……。うん、今日から君はタラヲね」


 今日から我輩はタラヲである。

 とてつもなく恐ろしい契約をしてしまった気がするが、砂漠を出るまでの辛抱だ。なんとかなるだろう。


「とりあえず契約前の約束は無しよ、いいわね」

「へ?」

「なんでも言う事聞くんでしょ?」

「…………」


 我輩とこの鬼畜のような悪魔のような(あるじ)との旅は、なんとかならないやもしれぬ。


「私の名前はティファ、宜しくねタラヲ」


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