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悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ  作者: 壱弐参
第三章 ~成長編~

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◆070 黒魔術

 ララが西門から目撃した巨大な双頭の蛇ツァルは、北門上部でしゃがむアズリーの背で、ゆらゆらと身体を揺らしていた。


「「さて、門へ群がるモンスターを片づけなくてはいかんな」」

「うぉ、でっけぇっ!?」


 背後の聞き覚えのある声に、ツァルの片頭が振り向く。

 驚いた様子のアズリーが大きく呟くも、ツァルはいつもの調子で「下級モンスターには脅しとしても使えるからな」とだけ言って向き直った。

 小さく笑みを見せたアズリーも、再び向き直り、フォール勇士団の仲間たちに回復魔法を放ち始めた。

 相手が格下のモンスターでも、異常な事態が起きている事には変わりない。極力隙を見せないようにしているのだ。

 ツァルが双方の口から大きく息を吸い、火炎ブレスを吹き放つと、群がるゾンビロードを筆頭に、多くのモンスターが焼け死んでいった。

 だが、異変は北門周りがある程度片付いた時に起こった。

 ツァルが見据える大地に一筋の影が走り、それをなぞるようにゴブリン、マリンリザード、ゾンビロードが現れたのだ。まるで地から這い出るように。


「「ぬぅ、この程度のモンスターに侵入を許すはずがないと思っていたが……なるほど、これが続いたとすれば恐ろしい事態だな。アズリー殿」」


 ツァルは背中でアズリーの背中を呼んだ。


『何でしょう?』


 目を離せない状況から、念話連絡の魔術で返答するアズリー。


『ほぉ、古の魔術。流石であるな。何、これはおそらく、遠方からの魔術。悪魔契約の果てに使用出来る黒魔術だ』


 アズリーの身体がピクリと止まる。

 念話連絡を魔術と断定しただけではなく、ツァルはアズリーでさえ情報の少ない黒魔術の話を持ち出したのだ。


『黒魔術……ダークエルフが秘匿とした禁術中の禁術ですね。でも、何故ツァルさんがその事を?』

『ふむ、その事は後程改めて話そうではないか。まずは術者を見つけなさい』


 どこかで聞いた事のある返答。

 二年前のメルキィを思い出すアズリーだったが、やはりどうしてツァルの言う事はもっともだったので、『わかりました』とだけ告げて念話連絡を終えた。


(カガチの子供かと思っていたが……ツァルはどうやらあれが()の大きさみたいだな。ならばあの知識量は納得だが、ララの年齢を考えると…………一体どうなってる?)


 飲み込めぬ情報から、アズリーは一瞬顔を曇らせるが、もう一つの情報を元に即座に別の行動に移行した。

 フォール勇士団の回復を終え、宙図(、、)の発動方向をモンスターが発生している影へと向けた。


「ほい、マジックストーカー!」


 発動中の魔術、つまりモンスターを生み出している影から、赤い光線が走る。

 光は魔術陣を描いた(あるじ)の下へ向かっていくはずだった。しかし、光線が向かった先は、扇型に膨らむ北門から東門にかけての外壁上部だった。

 アズリーが目を凝らすもそこには誰もいない。魔法の発動は正常だった。だが、その対象者がいない事に、アズリーは怪訝な面持ちになる。

 すると後方から、またしてもツァルの声が届いた。


「「視えているぞ、そこの者。私の目が誤魔化せるとでも思ったか?」」


 ツァルの目が赤く光る。

 すると、その視線の先に、マジックストーカーの光の先に、黒く蠢く者が現れた。

 アズリーが再び目を凝らすと、見えたのは黒いボロを纏った人間の変異体の男だった。

 怪しい瞳は獰猛なモンスターのように黄金に光り、口は人間ではあり得ない程までに裂けていた。そこから零れるは、歯とはとれない鋭利な牙。

 耳は潰れ、顔は大きな火傷で崩れていた。熱で姿を感知するツァルだからこそ、発見出来たのだ。


「こりゃ、前にメルが見せてくれた影に潜む魔法か! にしても……な、何なんだあいつは……っ?」

「「…………アズリー殿、ここは私に任せあの者を何とかするといい。主犯がわかった今、あいつを倒す以外に道はない」」

「はい!」


 アズリーは変異体に向かって走り始めた。

 外壁伝いに駆けるアズリーに対し、身を低くして待ち構える相手は、既に宙図(ちゅうず)を始めている。

 アズリーも走りながら宙図(ちゅうず)を行い、左手で描いていた魔術を発動する。


「ほいのほい、術式変更! レデュケイト・ヒットポイント!」

「ぐぅ!?」


 変異体の男の足下にあった黒魔術式への干渉魔術。

 そしてそれを魔法へと変換し、変更する。これによりアズリーは、溢れ出るモンスターの群れを未然に防いだのだ。

 結果としてこの行動は、ララやツァル、ポチを助ける事になるのだから。

 変異体の男は、アズリーに一歩遅れるも、魔法の発動を成功させた。


「ロックブラスト……」


 滑舌が悪く聞き取り難いこもった声だった。

 発動した魔法は外壁上部へと向けられる。瞬間、アズリーが駆け、向かう先の石畳が爆発した。

 一瞬で石畳から下、外壁上部の数メートルをごっそりと吹き飛ばす魔法に、咄嗟にブレーキを掛けたアズリーは、頬から冷たい汗を流した。


「あっぶね……。かなりいじってる魔法だな。相当な手練って事か。おし、ほいのほい、加速魔陣!」


 反対の手が放ったのは魔法、レデュケイト・ヒットポイントの効果を加速させる魔術。

 過去、アズリーがガストンの前でオーガクイーンに放った連鎖魔法である。

 ここでアズリーは鑑定眼鏡を発動した。

 爆ぜた足場から、変異体の男と距離を置かれた現状で、自身の切るカードを選択するために。


 ――――――――――――――――――――

 クリート

 LV:???

 HP:4719

 MP:3381

 EXP:?????????

 特殊:???

 称号:???

 ――――――――――――――――――――


(やはり壁を超えた者(、、、、、)か。俺の鑑定眼鏡で見えないって事はそういう事なんだろう。それでここまでの魔法士、となると……)

「がぁっ!」


 変異体の男が、自身に掛かっている魔法の効果を瞬間的な魔力解放で振り払う。


(あーあ、せっかく掛けた魔法の効果も消されちまった。こりゃいよいよ面倒な相手だな)

「貴様…………何故、邪魔をする」

「客観的に見て、お前の行動を邪魔しない方がおかしいやつだと思うけどな」

「ぐぅう、う、う、う、それもそうだ」


 アズリーの言葉に、変異体の男は、耳まで届きそうな口の裂け目を更に広げて、異様な笑いを見せた。

 男のおぞましい笑みに対し、負けじと口を開くアズリーだったが、その幅にはどうも納得がいかない様子だった。

 アズリーが首を傾げてもう一度口を広げようすると、変異体の男の背後、更に東から大きな遠吠えがあがった。

 反対側から駆けて来るのは、巨大化を解除し、小さくなったポチだった。

 思わぬ援軍に変異体の男も、アズリーも驚いていた。ライアンの救援を頼みはしたが、ここまで早いとは思っていなかったのだ。


「おぉ、ポチ! ライアンさんは無事か!?」

「マスターの魔法で復活して、超元気ですよ! また東門をお願いしてきました!」

「よし、こいつにお前の口を見せてやれ!」

「くーれすか!?」

「もっと開け!」

「くーれひょうかっ!?」

「ふっ、勝ったぞお前! これが俺たちの実力だ!」

「ぐぅう、う、う、う、う、お前ら、面白いな」


 変異体の男を跳び越えてアズリーの下へ降り立ったポチは、この襲撃の犯人を見る。すると、とても残念そうな顔をした。

 ポチの様子にアズリーが再び首を傾げる。


「マスター、あの人は黒幕って顔じゃないですね! 私がよく読む物語だと、大抵黒幕は眉目秀麗と決まっていますから!」

「…………躾がなっていないな」


 男が発した強烈な怒気を前に、アズリーはポチを叱るのだった。

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