069 力
物語の都合上、後半を三人称とします。
「ぉおおおおおおっ、とっ!」
ふぅ、着地成功。
前方にモンスターモンスターモンスター。……何だこれは?
ゴブリンが隊列を作って腐食系モンスターのゾンビロードを使ってる?
マリンリザードも遊撃を担って……モンスターにあるまじき行動だな。
俺の賢者のすゝめにも載ってない生態だ。
奥で戦ってる男が一人、二人……七人か。あれはリード?
ちょっと身体つきが良くなってるな。ライアンに付いて学んだか。
いかん、そんな場合じゃない。戦況把握だ。
「ほいのほい、フラッシュアイ!」
魔法陣が発動し、俺の視野に入る全てのモンスター情報が魔法陣の上に現れたモンスターボードに書かれていく。
ゴブリン八十七、マリンリザード四十五、ゾンビロード六十か。
怖いのは……やはり遠距離攻撃が出来るマリンリザードか。
なら便利な魔法が……、
「ほいのほいのほい、モンスターネームロック! コード、『マリンリザード』!」
トゥース秘蔵のこの魔法、通称「ロック」。
対象者の情報がわかれば、ある程度の制御が出来る優れものだ。
笑う狐を抑えたタイトルロックは称号を元に対象を固定するが、名前だけでは雑魚モンスター……せいぜいランクCまでの相手が精一杯だ。
モンスターはそれ以上に情報がないしな。
もし、称号がわかり、タイトルロックを発動した場合、俺はランクB相当の相手の捕縛が可能だ。だが、オールアップで強化した俺ならランクA相当の相手を抑え込める。
マウスがこれに該当するとは思わなかったがな。
因みにあのトゥースはランクSまでのモンスターを抑え込む事が可能だ。あぁ憎たらしい。
俺は必要な条件が揃い、詠唱さえ可能であればランクAまでの相手を制御出来る。
勿論、これから先戦う相手は皆それ以上だろうけどな。いやー、まいったまいった。
だが今回は別だ。目の前にいるのは、ランクCやDのモンスターばかり。
ならば使わせてもらう。リードの姿は見えるがマナの姿が見えない。早い方がいいだろう。
「ほいのほい、魔法変換! 魔法名ロックをサンダーランスへ!」
魔法の書き換え魔術。ロックで抑えつけたマリンリザードが、大地から生えた雷の槍によって貫かれる。
抑え付けていた魔法が突如攻撃魔法に変わるんだ。このコンボを防げるモンスターは格下の中ではいないだろう。
相手モンスターの激減にリードや周りの勇敢な戦士たちが驚いている。
だが、再会を懐かしんでいる時じゃない。
「な、なんだっ……魔法!?」
「ほいのほいモンスターネームロック! コード、『ゴブリン』!」
「「ギィイイイッ!?」」
抑え込んだ後衛にいるゴブリンの悲鳴。
前衛で戦うゾンビロードよりこちらの方が厄介だ。
「チャンスだ! どこの馬鹿か知らないが、こんな辺鄙なところまで援軍に来てくれた! 今こそ大地に根を生やすように立ち上がれ!」
おう、馬鹿とはさすがリードだな。言ってくれる。
お次は、あいつらの援護と回復!
「ほいのほいのほい! オールアップ・カウント7&リモートコントロール!」
回復よりまずは戦力の補強。今の傷で戦えるという事は傷より疲労の方が大きいという事。ならば身体的能力の向上で身体の負担を誤魔化す!
「ち、力が湧いてくる!?」
「これなら……戦える!」
「この感覚……? ……へっ、なるほど。あいつなら納得だ! ……皆、アズリーだ! あの馬鹿が来てくれた!」
うお? ほぼ死角なのに気付かれたか。
そういえばポチも、昔、俺の魔法は感覚でわかるとか言ってたっけ。
そんなに癖のある魔法なのだろうか?
「アズリー、東だ! 東門に長とレイナがいる!」
「ほいのほい、魔法変換! 魔法名ロックをファイアランスへ!」
抑え付けられていたゴブリンたちが炎の槍で貫かれる。
残るはゾンビロードのみ。
もう大丈夫だろうと、俺は状況把握を務めつつポチに念話連絡をとった。
『ポチ、状況は!?』
『血がマイルドです!』
あいつは一体何をやっているんだ?
『あ、待ってください! ……これは。ライアンさんの傷が思ったより深いです。分かれた場所から東南二百五十メートル、東門付近に強力なやつをお願いします!』
『わかった!』
ポチの状況報告に、俺は最高回復魔法を放った。
「ほほい、ハイキュアー・アジャスト! そして、ほい、地走魔走!」
感覚と記憶を頼りに、東門へ回復魔法を送る。
……よし、これで後はポチが何とかしてくれるだろう。
その後、俺は下で戦う勇士たちの回復を図った。
倒れている者も多い。傷の深い者から順にやっていこう。
北門外はツァル、西門はララか。あの二人なら大丈夫だとは思うが、やはり心配だな。
どうしている事やら……。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ゴブリン発見、害獣度六十。ゾンビロード発見、害獣度四十五。マリンリザード発見、害獣度七十一。畑の………………敵っ!」
フォールタウン西門上部。見張り台の位置からララは親指と人指し指で眼鏡のような円を作り、それを覗いてモンスターを捉えていた。
既に西門は崩壊し、逃げ遅れた町民の死体が無数に倒れていた。
亡骸に乗り悪意に満ち溢れた無邪気さを見せるゴブリン。マリンリザードが雄叫びを上げ味方のモンスターを鼓舞している。
中央広場へ通じる門には瓦礫が積み上がり、それに群がるゾンビロードや、他のモンスターの浸入を阻んでいる。
ララは、まるで自宅の階段を降りるように軽やかに飛び降りると、着地音を察知したモンスター群が一斉にララを捉えた。
マリンリザードが牙を剥き出し、ゴブリンの武器を持つ手に力が入った。
無造作にゾンビロードがララに近付いた時、ララとは反対側、東門の方で青白い光があがり、直後、轟音が鳴り響いた。
モンスターたちの意識が東へと逸れる。この一瞬をララが逃すはずがなかった。
「ほほい、あーすこんとろーる&あーすにーどる!」
瞬間、地面が隆起し、その部分から鋭利な針が飛び出した。
針は多くのゾンビロードを撃ち抜き、奥で武器を構えるゴブリンにも届かせた。
「ギ、ギィイッ!?」
驚いたゴブリンたちは、互いで互いの身体を押し合って針を避けようとした。ゾンビロードが倒れゆく中、武器で針を弾くゴブリンもいたが、大半がアースニードルの餌食となり、地に伏した。
魔法の発動が終わった時がチャンス。そう待ち構えていたゴブリンやマリンリザードだったが、ララの指が止まる事は無かった。
隆起する土が移動を始めたのだ。
ララはアースコントロールで土を操作し動かしている。その操作は土に向かって放ったアースニードルの魔法陣にまで及んだ。
土の中で消えゆくアースニードルの魔法陣を、アースコントロールで書き換え、隆起し移動し続ける移動砲台と成し、残るゴブリン、マリンリザードを倒し始めたのだ。
事態の把握が出来ないモンスターたちが訳も分からぬまま絶命していく、ララの後ろに回りこもうにも、移動砲台は盾にもなり周囲からのモンスターの浸入を阻んだ。
離れたモンスターは死に、近付いたモンスターもまた死んでいった。
深緑の瞳が再び輝きを見せる頃、ララの周りにはモンスターの死骸しか見えなくなっていた。
「……害獣の殲滅を確認。案山子モード終了。…………むん! お掃除完了したどー!」
フォールタウンの西門に、ララの勝鬨が響き渡る。
時を同じくして、北門の上部に巨大な双頭の蛇が姿を現した。
いつもお読み頂き、誠に有難うございます。
「悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ」の第二巻の発売が決定しました。
これも多くの読者様のおかげだと思っております。
尚、発売日等はわかり次第ご報告させて頂きます。




