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悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ  作者: 壱弐参
第三章 ~成長編~

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◆067 滅びの町、フォールタウン

 フォールタウンの内壁に寄り掛かる男、リードは焦っていた。

 ライアンは大きな傷に倒れ、妹のマナも満身創痍。

 アズリーが去る前に結成されたフォール勇士団(と言っても子供ばかり)も傷付き倒れる者が多い。


(くそ、せめてティファがいれば! ……いや、あいつがいてもきついか……っ)


 突如現れたモンスターの数々。そのランク自体は低いが、数が異常だった。

 アズリーが去ってから二年。ライアン、フォール勇士団と共に西門、そして北門のモンスターを一掃する事に成功した。

 その際、リードはライアンの強さを目の当たりにした。

 勿論、何度も戦闘を見た事はあるが、自分が強くなって感じる強さというものがある。

 皆を率いて戦うライアンの姿は、小さい頃に聞いた聖戦士の物語の聖戦士、正にそれだった。

 それからリードは周りの助けや気遣いもあり、ライアンに剣を習う事にした。

 遠い土地で頑張っている優秀な妹に負けないように、精一杯努力し、強く逞しくなった。

 だが、絶望とも言えるモンスターの数には、その強さは全く通じなかった。

 取り戻した北門が奪われ、西門が燃え上がる。

 リナとアズリーを送り出した東門にはライアンを看病するレイナがいる。

 マナとリードはライアンとはぐれ、奮闘を見せ押し返して場を確保した北門に。そしてライアンたちは東門に分断されてしまったのだ。


「くそ……あ、兄貴……何で、何で……こんな事になっちゃったんだろうっ……」


 弱り切ったマナの声が、リードの背中に届く。


「け、けど、ティファを送り出した後で良かった……この二年で、随分生意気に育ったけど……あの子なら大丈夫よ、ね?」


 弱気なマナの声に、リードが肩を震わせる。

 このまま気力が死んでは、微かにある望みも消えてしまうのだ。


「諦めるなマナ! お前は絶対に俺が守ってやる! お前ら! お前らは子供じゃねぇ、戦士だ! 戦士なら地面見て死ぬんじゃねぇ! モンスターに斬りかかり、噛みつきながら死んでみやがれ!」


 虚空に響く声。

 だが、その声を拾う者は確かにいた。

 正面でリードを牽制するモンスター、ではない。

 後ろで顔を歪めるマナでもなかった。

 リードが声を掛け鼓舞したのは、他でもないフォール勇士団の面々だった。

 力をもらった。リードにそう感じたのか、周りで倒れているフォール勇士団がふらふらと立ち上がる。


「そうだ……僕だって戦士だ!」

「僕だって!」

「俺だって!」


 それぞれの剣を握る腕に力が入る。

 それぞれの顔に微かな光が灯る。

 ゾンビロードにマリンリザード。後方にはゴブリンの姿も見える。周りに倒れる無数のモンスターを見れば、この戦いがどれだけ凄惨だったのかがわかった。

 リードの後ろ、フォール勇士団の後ろには中央広場への門があり、広場には戦えない女子供、老人たちが皆の無事を願っているのだ。


「アドルフ、マナを!」

「はい!」


 リードが呼んだアドルフという男は、フォール勇士団の中でも青年に近い精悍な顔つきの青髪の男だった。

 アドルフはリードの言葉で、マナをひょいと持ち上げ、そして門の前まで駆けて行った。


「おい! アドルフ、何をするつもりだ! おい!?」

「すみません、マナさん」


 左右にいる勇士団員が門のかんぬきを外し門を開ける。アドルフが力のないマナを広場側へ下ろし座らせた。マナは、疲労や傷からか、すぐに倒れてしまったが、アドルフは振り返る事なくまた反対側へ走っていく。

 かんぬきは反対側にある。勇士団がモンスターに負ければその牙はマナに届くだろう。リードは勇士団の鼓舞のため、マナを助けるとともにマナを利用したのだ。

 勇士団の皆に、「自分たちの後ろには自分より弱い者がいる」と再認識させるために。


「くそ、動け! 動け動け動けぇっ! 待て、アドルフ! 兄貴! 兄貴ー!」

「剣をとれ!」

「「おぉおおおお!!」」


 リードの掛け声に皆が応じる。

 マナの声はリードに届いていたが、リードは、皆は反応しなかった。

 そして、静かに門が閉められた。


「くそ……くそぉ……」


 兄を思う気持ちは涙となり地に落ちる。だが、雫がいくら流れても、乾いた地面は、いつまでも乾いた地面のままである。

 門の向こうではリードたちの声が聞こえる。皆、声が枯れ、血を吐いていた。それでも尚、前を向き叫び続けた。

 自らを、皆を鼓舞し奮い立たせるために。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「ほいのほい、キュアー!」


 レイナがライアンの傷に手を当てている。見ればライアンの左脇腹には大きな傷がある。

 レイナは小さなステッキを振るい、回復魔法を放つ。しかし、傷が大きすぎるためレイナはMPだけを消費していた。

 焦燥極まる表情で、ライアンを見るレイナに、周りの者は声を掛ける事すら出来ない。


(ライアン様……)


 ライアンの意識を保つために身体を揺すれば傷が大きくなる。そんな事は出来ないと、悔しい思いの中見守る事しか出来ないのだ。


 数日前、ライアンとレイナは東門の近くを歩いていた。

 復興の様子見のため、状況を確認していたのだ。

 そして、突然現れたモンスターの大軍は一気に東門を制圧した。

 東門上の見張りを倒し、外壁をよじ登り、門を開けたのだ。

 普通の町であればこう簡単にはいかないだろうが、フォールタウンは人材不足という問題があった。モンスターの大軍が押し寄せた頃、ライアンは、正にその事をレイナに指摘していた。

 モンスターが押し寄せ、次々と町民を殺していった。この統率された動きにライアンは訝しむも、現況の対応に追われていた。

 早急に勇士団の人間を招集し、少数ながらも複数のパーティを組織した。

 東門周りの激戦区をライアンやレイナの精鋭が。町の中に侵入したモンスターを別のパーティが対応した。

 奮戦に次ぐ奮戦。ライアンは叫び、導きながら戦った。モンスターの侵攻に一瞬の隙を見抜いたライアンは、鬼神のような働きを見せ、なんとか門の外へモンスターを押し返したものの、大きな傷を追ってしまった。


 東門の見張り台を陣取ったパーティは、既に満身創痍。横たわるライアンに付き添うレイナも、致命傷こそないものの身体中に無数の傷が見える。


「ぐ……っ。レイ、ナッ……状況は?」


 外壁下にいるモンスターの奇声で、朦朧としながらも目を覚ましたライアンは、即座にレイナに状況を求めた。


「は、はい。現在、西門は完全にモンスターに下り、東門のモンスター侵攻は落ち着きましたが、いつ門が破られてもおかしくない状況です。北門はリードやマナたちが奮闘しているようですが、それも既に……限界かもしれません」

「……そうか。町の者は?」

「西門から逃れて来た者は少数ですがおり、その者たちの話では皆広場にいるとの事。ですが、西門の被害は東門よりも甚大だと……。広場への道も時間の問題です」


 自分で状況を報告しているだけで胸が苦しくなる。

 レイナは、そんな思いを顔には出さずにライアンに報告する。


「わかった。レイナ、お前はまだ戦える者を連れて北門へ向かえ」

「しかし――」

「反論は許さぬ。ここは私一人で十分だ。いいから行けっ」


 普段は温厚なライアンが少し語気を強めると、レイナは逡巡するもすぐに行動を移した。

 傷の浅い団員を招集し、北区への門に向かうレイナの背中を見送るライアン。

 見下ろせば傷で倒れる年端もいかぬ団員がいる。

 見渡せば傷ついた町民が傷ついた町民の看護をしている。

 絶望。そんな言葉が似つかわしい状況だった。しかし、どの人間を見ても誰一人諦めた顔はしていなかった。

 それは、ライアンのカリスマ故か、フォール勇士団への絶大な信頼か。

 この時、口の端を上げたライアンはその答えを知っていたのだ。


(アズリー殿、覚えておりますかな。いつぞやお話しした事を……)


 ――――『人間とは大きな柱に寄り添うものです。ですが、それだけでは広い世界を生きてはいけないのです。私は、この町の人間にはそうあって欲しいのです。力強く、それでいて人間性に富んだ、そんな人間になって欲しいのです。勿論、アズリー殿にも……』


(確かに皆は成長してくれました。ですが、彼らの心の柱は……やはりあるようですな)


 遠くでは北門のリードたち、フォール勇士団の咆哮が聞こえる。

 最後の炎。振り絞る魂の叫びにライアンはそう感じた。

 外壁の下では、いよいよモンスターが東門を破ろうとしている。よじ登ろうとしているモンスターがいないと判断したライアンは、覚悟を決め、轟音鳴り響く東門の前に立った。

 損傷の激しい自らの剣を携え、モンスターの襲来に備える。


(皆の者……どうか死んでくれるなっ)


 心に闘志を、死に向かう身体に最後の気力を込めたその時、

『へーっくしょいっ!』


 ライアンの脳内に響いた謎の声は、何故かくしゃみに聞こえた。

この度、【悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ】第二巻の発売が決定致しました。


発売日等に関してはまだ未定ですので、後日情報が出次第ご報告させて頂きます。


いつも読んで頂き、本当にありがとうございます。


沢山更新出来るように努力しますので、応援の程、宜しくお願い致します。

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