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悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ 作者:壱弐参

第三章 ~成長編~

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◇065 それぞれの時間

ガストン、アイリーン、オルネルの別視点物のお話になります。
 小僧め、中々太々しくなりおって。あの肉体、相当な鍛錬を行ったな?
 しかし、国をも巻き込む事態となるとは思わなんだ。
 内情を調べたい所だが、六法士と言えど国に飼われる身。今は戦魔帝に謁見出来なくば、調べようがない。
 イシュタルの目を掻い潜って調べるよりも戦魔帝直々の命があれば或いは……。

「ガストン様? 何を怖い顔しているんです?」

 ふと気付くと、いつの間にか凛とした様子のフユが儂の前に佇んでいた。
 幼いながらもしっかりとした気立ての良い娘よ。ポチズリー商店から早々に引き抜いたのは正解だったな。
 一年前、ここへ連れて来た時は守護魔法兵団のやつらも「やっていけるのか?」とたかをくくっていたが、身の周りの世話から雑務をそつなくこなすフユを見て途端に目の色を変えおって。
 無論、まだまだ頼りない部分も見受けられるが、守護魔法兵団の中でやっていくだけの才はある。

「いや、何でもない。フユ、そろそろ時間か?」
「はい。団員の鍛錬、宜しくお願いします。あ、でもその後私の訓練もお願いしますね?」
「ふん、気が向いたらな」
「もうっ、結局やってくれるんですから、そんな事言わないでください」

 ふん、いらぬ知恵ばかりつけおって。変な所の扱いに困るのが玉に(きず)だな。
 守護魔法兵団のやつらの鍛錬が終わると、いつも中庭でニコニコと待っているのは知っているが、行かぬといつまでも待っているから敵わん。
 だが、ナツとかという娘同様、フユの素質も悪くない。
 小僧の真似さえなければ儂も教えやすいのだが……――

「ほいのほい! ベノムファイア!」
「だからその掛け声はいらぬと言うのに……」
「この方が魔法が出しやすいし魔法陣も描き易いんですよ」

 こんな気の抜けた魔法発動を、格式高い守護魔法兵団の者が行っているとなるとイシュタルの奴に何を言われるかわからん。
 がしかし、普通の魔法発動より円滑に出せている事実は否めぬ。
 むぅ、確かに尊重してやりたい部分であるが……いやしかし、だが……むぅ。
 怨むぞ小僧。

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 もう、一体何だっていうのよ。
 急に帰って来たと思ったら、今度は魔王が復活するですってっ?
 確かに有益な情報かもしれないけど話すのが遅すぎなのよ! せめて二年前に話してくれれば私の方も私の方で色々な準備が出来たかもしれないのにっ。
 あぁ、忌々しい。
 ちょ、ちょっと良い男になったかと思えば中身は全然変わってないって事ね。

「アイリーン様、何か良い事でもあったのですか?」
「ひぁっ!? トレース!?」
「何て声を出しているんですか。魔法大学を代表する六法士がそんな事ではいけませんよ?」
「わ、わかってるわよ! ちょっとビックリしただけじゃないっ」

 けれど、魔王の復活に備えた十二士が万全じゃないとはね。
 私も私で平和ボケしていたというところかしら。確かに魔王が復活するというなら今の私やガストンでは太刀打ち出来ない。
 六勇士の皆が協力してもその事実は変わらないでしょうね。
 この百年でランクSSの討伐が行われたのは三回。
 二年前のオーガキング。
 七年前に黒のイシュタルと白のロイドが倒したというマザー。
 そして二十年程前にアージェントたち白銀とテンガロン、チャーリーが倒したダマスカスドラゴン。
 初めて戦ってみて戦慄したわ。あの異常な戦闘力に対抗するためには相当な犠牲が必要。
 事実オーガキングの討伐の時だって約五十人の冒険者が命を落とした。
 アズリーが水龍で倒さなかったら被害はもっと甚大……いや、全滅だったでしょうね。
 そう言えば、アズリーはカオスリザードをポチと二人で倒したとか言ってたわね? ランクSSのモンスターを使い魔と一緒といえど一人で倒すなんてどれだけ鍛錬したのかしら。
 極東の賢者トゥース……だったかしら?
 学校の常勤講師ってのがここまで厄介だとは思わなかったわ。次の長期休みの時に……いえ、十二士会の会合があるし……そんな事言ってる場合じゃないのはわかるけれど、もどかしいわね。

「あら珍しい?」
「何よトレース?」
「お休みが欲しい……そんな顔をされてますね?」
「……アナタ、たまに恐ろしいまでに心を読むわね?」
「どれ位のお休みをご所望ですか?」
「半月……いえ、ひと月は欲しいわね」
「かしこまりました。入学試験が多い期間ですが、私と他の講師で試験官は務めます。その代わり二月後半の試験官は全てお任せしますのでご了承ください」
「い、いいの?」

 トレースは無言のまま口の端を上げた。
 ……まったく、有能な後輩を持ったものね。そうと決まれば善は急げよ。すぐに準備をしてレガリアに向かわなくちゃ。
 幸いレガリアへの転移魔法陣があるからそこからホークで飛ばせば……よし!
 待ってなさい、アズリー!

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 くそっ、どれだけ訓練してもいつもあいつは遥か先の高みにいる!
 俺のどこが足りないんだ? 俺の何が悪いんだっ?
 二年前にあった差は、縮まるどころか広がった気がする。
 正直、二年前のあの事件の時は身体に電流が走ったようだった。ランクSSのモンスターの討伐に手を貸したという話を聞いた時。
 当初は倒したなんて噂もあったが流石に信じられなかった。勿論周りも信じていなかったが、アイリーン先生の笑みはその答えを物語っていた。
 その後の親善試合、リナのバラードを中級系魔法のみで捕らえ、そして制した。
 魔法の発動速度が異常な程早かった。アイリーン先生の笑みと、噂が俺の中で真実になった瞬間だった。
 色食街(しきしょくがい)の事もそうだ。春華(はるはな)の話からあいつがどれだけ尽力したかがわかる。
 ブレイザーさんは勿論、ブルーツさんやベティーさんがあいつに協力するのは自然な成り行きだった。
 それが原因となって捕まった時、あいつが空間転移魔法を発明した事がわかった。
 ……正直魔法士として勝てないと思った。だが、そんな事は関係ない。あいつに出来た事だ、俺に出来ないはずがない。
 そう思って我武者羅に訓練し、勉強し、そして冒険者ランクもあいつと同じAになった。
 並んだ――……、そんな訳ないのにそう思う事にした。いちいち葛藤してたら身体がいくつあっても足りん。
 だから俺はミドルスやイデアと一緒にここまできたんだ。
 それなのに……分裂発動型魔法だとっ?

「おい、オルネル。何カッカしてんだ?」
「ったく、アタシたちの出番ないじゃないのっ」

 辺りを見渡せば、俺の前には二年前に手こずったマーダータイガー集団が骸となって倒れていた。
 ……少し、熱くなり過ぎたみたいだな。

「すまない……ちょっとやり過ぎたな」
「べ、別に構わねぇけどよ……」
「懐かしの級友のせいで熱くなるのは構わないけど、戦闘に影響が出ちゃ困るわよ?」

 少し呆れた様子でイデアが忠告する。
 わかっている。勿論わかっているが……いや、私情で自分を乱すなんて冒険者としては失格だな。
 前にブレイザーさんの言われた通り、もう少し精神的な面を鍛えなくちゃいけない。
 それに、イデアの小言を聞くのも……って?

「お、おい、何か聞こえないか?」
「へ?」
「別に何も聞こえないけど?」

 ミドルスとイデアは俺の空耳だと思ったみたいだが、確かに小さい鳴き声のようなものが聞こえた。
 どこだ?

「お、おい、オルネル。マーダータイガーの死体の下なんか探してどうすんだ――って、え?」
「ちょっと、それはっ」
「クルルルル……ッ」

 マーダータイガーの死体の下から出てきたのは……まだ生まれて間もないマーダータイガーの子供だった。
 小さいながらも威嚇はしているが、その圧力は親の比にはならない程弱く、そして怯えている。
 困った俺をよそに、後ろからは二人の「離れろ」という声が聞こえた。

「危ねぇぞ、小さくともランクDはあるからな!」
「オルネル、早くそこをどきなさい!」
「…………」

 その時、俺は何を考えていたのかわからなかった。
 後になって考えてみれば、必死に生きようとするこいつを見て、「まだ互いが並ぶ時期ではない」と思ったのだと思う。
 そう、こいつは思わぬ事故で俺たちと会った。
 確かに後々の脅威というのはわかるが、今のこいつに罪はない。
 そう思った俺は甘いのだろう。……あいつみたいにな。
 しかし放っておいてはやはり危険だ。

「おい、どうすんだよそいつっ」
「……選ばせる」
「何をよ?」

 大学三年に進級した時、三年生はアイリーン先生から一つの魔法を教わった。
 皆、不安がってはいたが、半年も過ぎるとちらほらとその実績が周りに見てとれた。
 だが、俺は忙しくてすぐにそれを実行には移せなかった。
 リナなんて一年生の時から出来ていたのにな。

「その魔法陣は……」
「ちょっとオルネル。本気? モンスターは赤ん坊じゃない限り相当難しいってアイリーン先生が……って、聞いちゃいないわね」
「よし、そこを動くなよ……」

 宙図した魔法陣の前に、マーダータイガーの子供がいる。
 威嚇はいつの間にか止んでいた。俺が殺さない事を本能的に感じとったのか?

「よし……我、(なんじ)と契約せん。(なんじ)、我に尽くし使い魔となる事をここに誓うか?」
「…………」

 暫くの沈黙が続く。
 契約の魔法は既に発動している。この契約内容は直接マーダータイガーの子供の心に語りかけ、その意味を理解させる。
 一歩でも動いたら契約破棄。
 もしそうなったら俺はどうするのだろうか? 殺す? それとも逃がすのか?
 考えている間も時間は流れ、沈黙は続いた。
 見ればこいつ、じっと俺の眼を見ている。品定めでもされている気分だ。
 こいつの将来が決まる選択だ、俺でもそうするだろうな。そう思って自嘲気味に俺が笑みを零すと、正面から空気の震える感覚がした。

「ガァアアッ!」

 子供と思いきや、マーダータイガー特有の分厚い咆哮が聞こえた時は驚いた。
 流石将来ランクBと言われるだけの種族だ。
 それに、咆哮の後、微かに笑ったように見えたのは気のせいだろうか?
 何にせよ、了承の意と受け取れる。

「我、ここに彼の者との鋼の如き主従の契約を結ばん。これいかなる時も綻びぬ契約とし、これいかなる時も強固に守られた固き契約とする……主従契約発動っ!」
「やっちまった……」
「あーあー、厄介な使い魔になってもアタシ知らないからね」

 そんなイデアの声が聞こえたのを覚えている。

「よし、今日からお前はマイガーだ」
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