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悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ  作者: 壱弐参
第三章 ~成長編~

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064 予言の碑

 ―― 戦魔暦九十四年 一月十七日 昼前 ――


 ララがこの家に来て丸一日。降っては止んでいた雪がようやく治まった。

 中庭の雪をかき分けているのか、ララの陽気な声がポチズリー商店に響く。

 俺はまだ眠いながらも目を擦って、中庭の様子を二階の窓から覗いてみた。


「できたどー!」


 見れば庭の端ではリナと春華(はるはな)、そしてララと一緒に元気よく万歳する少し成長したナツが立っていた。明るいのは元々だが、より活発になっている印象だ。 

 ララとナツは同い年という事もあり、すぐに仲良くなったみたいだが、ララの年齢を考えるとあの戦闘力は異常だな。早熟の天才性というところか。

 未だにブルーツは納得がいっていないようだ。勿論ララにはそういった感情はないが、時折ララが外に出すツァルが原因だという事は間違いないだろう。ブレイザーやベティーはすんなり受け入れたものの、あの二人は根本的に気が合わない感じがする。

 そんな四人を見下ろしていると、俺の姿に気付いたのかリナが小さく手を振った。控えめな笑顔の中に嬉しそうな感情が見えるのは気のせいだろうか。

 これからはもっと構ってやりたいところだが、そうもいかない現実がある。


 神の使いが言っていた魔王の復活まではまだ時間がある。

 魔王の胎動期が始まっていないという事は、復活までにまだ数年の猶予があるという事だ。

 この数年の間になんとか戦力を整えなくてはいけない。

 相手は魔王。二年前に手こずった、ランクSSのモンスター、オーガキング。そんなレベルのモンスターが群れを成して魔王を守るんだ。

 その一匹に手こずっていては太刀打ち出来るはずもない。

 この差を埋めるべく日夜鍛錬に励まなくてはいけない。だが、それだけでは絶対に超えられない壁がある。

 なんたって、レベル100の才能豊かなガストンやアイリーンがランクSSのモンスターに勝てないんだ。

 戦略や機転で勝てるのはせいぜい一匹。この壁をどうやって超えるかが問題だ。

 トゥースが言うには、この国のどこかに古の秘法があるという話だ。数千年前、ダークエルフが残した秘法。

 ヤツの口ぶりから大型の設置型魔法陣である事はわかったんだが、「場所を覚えていない」とか無慈悲な事を言うもんだから、それを探しに行かなくちゃならん。

 それに預言の碑(、、、、)の事もある……まぁ、そっちはメルキィが調べてくれてるだろうから報告待ちというところか。

 そして今日は、この四年で俺が知り合った信用出来る皆に集まってもらったんだ。

 場所はポチズリー商店の食堂。

 並べられた席は俺、ポチ、リナ、ブルーツ、ブレイザー、ベティー、ガストン、ビリー、アイリーン、そして春華(はるはな)の十席。

 ナツにはまだ早いし、ララはまだ信用出来るという段階ではない。

 このメンバーになら話しても問題ないと思ったんだ。

 ……魔王の復活を。


「ふん、久しいな小僧」


 相変わらず小僧と呼ぶんだなガストン(この人)は。

 二年前に会った時より眼光が鋭くなっているのは気のせいだろうか?


「無事で何よりだよアズリー君」


 ビリーは相変わらずで、こちらに声を掛けているがポチの様子を目で追っている。


「お久しぶりですガストンさん。ビリーさん、その節はありがとうございました」

「ははは、あの偽装魔法陣には驚かされたよ」

「そうです! 裸姿のマスターには驚きましたよ!」


 ポチが余計な事を言うもんだから、リナの頬がほんのり赤くなる。

 ベティーはくすりと笑い、アイリーンは終始むすっとしているが、あれはいつもの事だと思う。

 春華(はるはな)は夜の仕事をしていただけに、こういった話には動じないな。お、大人というやつか。


「で、大事な話ってなんなの? 新学期の準備があるから、そこまで悠長にしていられないんだけど?」

「申し訳ありません。ですが、まず最初に……リナ、春華(はるはな)……二人に話しておかなきゃいけない事があるんです」


 この言葉にアイリーンや銀の皆がピクリと反応する。

 どうやら俺が最初に話す事に気付いたみたいだ。


「私たちに……?」

「何でありんす?」


 緊張のあまり少し時間を置いてしまったが、俺は二人にゆっくり話し始めた。

 俺の……五千年余りの年齢の事を。

 二人は黙って聞いてくれた。春華(はるはな)は驚いた様子だったが、リナはそこまで動じていなかった。

 どうやら薄々気付いていたみたいだ。

 さすが学生自治会長になるだけの慧眼の持ち主という事か。はたまた俺たちの距離の問題なのか……。

 どちらにしろ、二人は俺を疑う事なく、この事実を受け取ってくれた。

 リナは少し寂しそうな様子だったが、やはり今まで言わなかった事が原因だろうか?


「悠久の雫……そうでありんしたか。それにポチさんも……」


 リナからの言葉はない。俯いているだけで何かを考えているみたいだ。

 隣に座るベティーがぽんと肩を叩き、何かを耳打ちする。

 するとリナはぶんぶんと(かぶり)を振って再び正面を見据えた。


 そして目を俺に向けると、

「それでアズリーさん、私たちだけに……という事は、他の人は知っていたという事でしょう? 今回のお話。その話が前提という事なんですね?」

「あ、あぁ……どうしても話しておかなきゃいけない事だと思ってな」

「水臭ぇぞアズリー、俺たちゃ戦友だ。何言われたって信じっからよ!」

「ありがとうブルーツ」


 正面に座るブルーツの言葉に背中を押され、俺は、皆に魔王の復活が近い事を話した。

 反応は、驚く者、余りにも大きな話で口を開く者と様々だが、皆真剣に俺の話を聞いてくれた。

 特に、ガストン、ビリー、アイリーンの三人はより険しい様子で互いに互いを見やっている。


「ふむ、些か信じられぬ話ではあるが……どう思う、ビリー?」

「過去二千年、魔王が復活した事例はない。アズリー君の話では五千年と少し前に一度あったのが最後……となると、あながち嘘には聞こえないな」

「聖戦士が生まれてない理由もこの時代なら頷けるわね。神への信仰……確かに今の国民に欠けているものね」


 ん……? 今、何か引っ掛かったような?


「マスターマスター、意外にも信じてくれてますね!」


 それは俺も思った。

 こうも簡単に飲み込んでくれるとは予想外だ。


「当然でしょう? 私たちはその為にいるのだから」

「私たち……というのはどういう事でしょう、ガストン様?」


 リナが首を傾げて聞く。


「十二士の事だ。無論、ビリーも知っているが、十二士とはそもそも魔王復活に備えて構成された精鋭なのだ」

「ヒュ~♪ そいつぁ初耳だ」

「国には予言の碑っていうのがあるのよ」

「予言の碑……なんだか胡散臭い話ですねー」


 ポチの軽口に、俺は拳骨を詰め込んでやると、ガストンが重苦しい雰囲気で語り始めた。


 ~~~~~~~~~~~~


 明日を進む者たちよ、(きた)る魔王に備えよ……


 十二の士、其の者ら世界を照らす光とならん


 十二の士よ、宵闇照らす光となりて民を導け


 ~~~~~~~~~~~~


「――とまぁ、ここまでだな」

「あれ、なんだか短くないです?」

「そうだ、よく気が付いたな小娘? これは予言の書の三分の二というところだ。この碑は王都レガリアの城にあるが、途中からが欠けてしまっている」


 そう、そこまでの予言は俺も少し知っている。

 正確にはトゥースに聞いたんだが、あの野郎、十二の士のとこを「選ばれし者」とか言ってたぞ? そうか、だから十二士が存在するのか。

 この欠けた予言の先に重要な何かが記されている可能性があるという話だが、現在それはわかっていない。

 どこの誰の予言かはわからないが、これには国が十二士を結成するだけの信憑性があるという事だ。そうでない限り王都の城内に碑を作らないだろう。そして途中から内容が失われた。

 残っている情報はなく、原文がどうなっていたのかは不明。

 しかし、情報というのは消せないもの……そうトゥースは言っていた。メルキィが王都に行ったのにはこういった理由もある。勿論、本命は違うけどな。


「しっかし、そうなるとアズリーの言ってる通り、二年前みたいにランクSSのモンスター相手にチマチマ戦ってたら命がいくつあっても足りねぇな」

「その通りだな」


 ブレイザーの拳に力が入る。


「あんなバケモノ、楽々と倒したっていう聖戦士の強さは異常って事ね」


 何だ? ベティーのこの言葉に、俺は一瞬何かが引っ掛かった。何だ?

 さっきアイリーンが話してた時も少し気になったが…………。


「聖戦士さえ現れてくれれば私も大変な思いをしなくて済むんですけどね!」


 聖戦士……そうだ、聖戦士か!


「一つ伺いたいんですが……」

「何だ小僧?」

「魔王の復活に伴い聖戦士が復活するという伝説は今の時代も残っているんですよね?」

「そうだ」

「では何故、十二士なるものを作って、魔王復活に備えたんでしょう?」

「「…………」」


 俺の質問に皆が口を塞いで考え込んだ。だってそうだろ?

 予言で十二の士の存在を促したのであれば、その預言者は魔王が復活する時に聖戦士の存在がない事を知っていた事になる。

 勿論、預言者なんだったら知っていて当然なのかもしれないが、そうだとしたら何故「魔王復活の際は十二士がいる」という認識にならないんだ?

 未だに聖戦士が生まれると信じられているのは何故だ?


「予言は正しいが……正確ではない?」


 おもむろに開いたリナの言葉に俺……じゃない誰かのハッとした声が聞こえた。

 声の主は……アイリーンだった。


「もしかして……既に魔王の尖兵がいるんじゃないかしら? それも気の遠くなるような昔から」

「婆、どういう事だ?」

「預言者……おそらく聖戦士、もしくはその所縁(ゆかり)の者だろうけど、予言の碑を建てるまでは良かった。けれど、その尖兵によって間違った情報を後世に残した……」

「それが十二士って事か。聖戦士の情報が残っているのはその尖兵って奴が流布した偽情報って訳ですな?」


 ブルーツの言葉にアイリーンが頷く。


「そういう事よ。間違った情報で十二士を作ったとしたら魔王に対抗する術はないし、少しでも聖戦士の力に意識を向ける事が出来たなら、情報の分散によって力を注ぐバランスが崩れてしまう。魔王に都合の良い事だらけだわ」


 となると……っ! いや、まて……まさか?


「どうした小僧?」

「……魔王に都合の良い事……もう一つあります」

「そうか、白黒(びゃっこく)の連鎖ですね、マスターッ?」


 なるほど……国の闇は深そうだな。


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