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悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ  作者: 壱弐参
第三章 ~成長編~

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063 ララとツァル

 簡単だがリナ、銀の皆、アイリーン、そしてオルネルたちが俺の帰還を祝してギルドでご馳走してくれた。

 オルネルは終始むすっとしていたが聞きとりづらい声で「今度話を聞かせろ」と言っていた気がする。

 最初は暴走したポチだったが、お腹一杯になった後はひたすら果実ジュースをチロチロと舐めていた。

 春華(はるはな)が凄く眠そうだったが、俺のためにと、目を擦りながら起きていてくれた。

 途中から手の空いたダンカンも加わり、ちょっとしたパーティーは明け方まで続いた。そして、それが終わるとポチズリー商店へと歩いて帰ったんだ。リナと途中で別れるかと思いきや、リナはなんとここに住んでいるという話だ。「またあとで」――そんな言葉を皆と交わし、部屋へと入る。

 俺の部屋は手つかずの状態で綺麗なままだった。こういった優しさに感謝しつつ、部屋の隅に設置型の空間転移魔法陣を描く。

 次に、ダイブして幸せそうな表情でベッドに陣取ったポチの膨れるお腹を指で(つつ)きまくる。

 笑いながら苦しそうに息切れしたポチは、ぐったりしながらそのままゆっくりと目を閉じて眠った。


「さてと……よっ!」


 二階にあるこの部屋の窓から外へ跳び下りると、そこには意外というかなんと言うか……。


「よ、待ってたぞアズリー」

「ブルーツ……やっぱり気付いてたか」

「あーんな直線的な動き、俺は教えてねぇからな。ありゃどう見ても逃がす前提の動きだ。狙いのある眼ぇしてたし、あのララって娘を泳がそうって事は読めたさ。あ、ブレイザーから伝言だ」

「ブレイザーも気付いてたか。ま、そりゃそうか」

「はははは、まぁ気を付けろってさ。で、ポチは連れてないみたいだが……どうすんだ?」

「あの戦闘の中でララの髪の毛を抜いておいた。これを……ほいのほい、マスターチェイス&ライトアップ!」


 見にくい髪の毛を光らせて追跡魔法を掛ける。

 これを追えばララの下へ行けるはずだ。


「へぇ、面白い魔法だな」


 一本の緑髪はゆらゆら浮遊しながらゆっくりとベイラネーアの外に飛んで行く。

 俺とブルーツはそれを追い、二時間程走った北の地でララがいるであろうアジトへと着いた。

 岩壁に囲まれた平地だが、緑は多く、沢山の自然に囲まれている変わった土地。そこで俺たちは思わぬ光景を目にした。いや、目にしてしまった。

 おい、なんだあれは……?


「じょろろろー♪ じょろろろー♪ お水さーん♪ じょろろろー♪ じょろろろー♪ お水さーん♪」

「「…………」」

「生姜さん、落花生さん、ぐんぐん育てー♪ 生姜さん、落花生さん、ぐんぐん育てー♪」

「おいアズリー……なんだありゃ?」

「生姜と落花生の苗に囲まれた少女だな」

「見りゃわかるわっ。なんだこの畑はっ? 野盗の臭いが一切ねぇぞっ?」

「静かに……ばれるってば」

「ったく……」

「じょろろろー♪ じょろろろー♪ お水さーん♪ じょろろろー♪ じょろろろー♪ お水さーん♪」

「「…………」」


 緑髪無機質少女は、自然を愛するダンシングジョウロガールだった。

 無機質とはかけ離れた光り輝く笑顔。もはやその姿通りの年齢にしか見えない。

 木陰に隠れながら様子を見守っていると、くるくると回るララの両肩から異質なモノが顔をのぞかせた。


「ありゃ……蛇か? 両肩に乗って……いや、胴は腰に巻き付いてるが顔は二つ。確かどこかで聞いたような?」

「竜の血を持つと言われる双頭の蛇、カガチだ。あれはまだ子供だが、大人になればランクSのモンスター……という事は使い魔か?」


 俺がそう言った時、小さいながらも片方の蛇の顔がこちらを向き、瞳孔が動いた。

 あ、やばい。見つかったかも。


「「そこにいるのは誰だ?」」


 双頭の頭から発せられた重なった声。なるほど、意志は二つではなく一つという事か。

 カガチの声にララの表情が一瞬にして変化する。俺の知る元の無機質な表情のララに。


「くそ、蛇は熱で気配を感知するんだったな。おい、アズリー。ちょっと援護頼むわ」

「ほいのほい、オールアップ・カウント2&リモートコントロール」


 身体向上魔法を自分とブルーツに施す。

 スウィフトマジックでは出来なかった魔法なだけに重宝するな。

 恐るべし、極東の賢者。


「お? ……おっ? ははは、こいつぁいいや! どりゃっ」


 は、速っ!?

 メルキィ並みの速度が出てるぞ!?

 ブルーツのヤツ、相当鍛えこんだみたいだな。


「あーすこんとろーる&ほーるあうと!」


 後退しながら放ったララの魔法が、ブルーツの接近より一瞬だけ早かった。

 なんだあの魔法は? 地面に穴が空いて……ララを飲み込んだ!?


「なるほどな! 道理で二年前もさっきも、周りに気配が無かった訳だ! だが、種さえわかりゃっ! ダラス直伝のガンマストラッシュでっ!」

「「ちょっと待ちたまえ」」

「でぇえっ!?」


 突如眼前に現れたカガチの接近に目を丸くしたブルーツは、気の抜けた声で驚いてみせ、そして転んだ。


「な、お師匠様っ!?」


 ララの胴から離れたカガチはブルーツの足先に長い身体を立たせた。


「「お前も落ち着け、ララ。見たところ君たちは野盗の類ではないようだが、何故私たちを襲うのかね?」」

「何吹いた事言ってんだ! そっちが先に襲ってきたんだろうが!」

「「ほぉ……」」


 カガチがララを睨む。

 ブルーツの真に迫った言い分に得心したようだが……なるほど、カガチはララの動きを把握していないのか。

 しかしなんと言うか……蛇に睨まれたなんとやらか、ララの冷や汗が異常だな。

 二つの頭が左右から覗かれる。ララの顎先からはポタポタと汗が流れ、生姜が()る土に落ちていく。

 見る限りなんだか気が気じゃなさそうだ。


「「ララ、この方たちの言っている事は本当かね?」」

「おいアズリー、こいつぁどういうこった?」

「ま、しばらく待ってみればいいんじゃないか?」

「たく、お前と組むと斬って終わりってのが少ないよ、ホント……」


 俺はブルーツの愚痴を軽くかわして、カガチとララの動向を見守った。

 くどくどねちねちと説教するカガチに、終始涙目のララが段々可哀想に思えてきた。


「「――で、あるからして、ララの軽率な行動は己を危険に晒していると言っていい。これに懲りたらもうそんな危険な依頼は断るんだ」」

「で、でも師匠! ――っ」

「「何かね?」」

「……なんでも、ありません」


 正座しながら縮こまったララは、小さい背中をより小さくさせて俯いた。

 使い魔と主人の位置関係がここまで正反対だというのも珍しい。

 本来こういった主人に抗うような行為は、契約内容で制限されるのだが、昔の俺みたいにあえてそういった制約を外したのか?

 いや、もしかすると使い魔の力が強すぎるケースというのも考えられる。

 カガチはララにようやく説教を終え、二つの頭をぎょろりとこちらへ向けた。

 その初動より早く、ピクリと反応したブルーツの鋭敏な感覚は、やはり二年前とは比べ物にならない。


「「さて、何から説明したものかね……」」


 なにやら複雑そうな声でカガチは俺たちに語り始めた。

 カガチはララの使い魔であり先生であるという事。何の先生かと思ったらララの農耕の師だそうだ。

 彼の名前は「ツァル」。

 ララは普段その身のこなしを利用し、運び屋をしている。二年前や今回の笑う狐の件も単純にマウスから「もしもの時の保険」という事で雇われたそうだ。

 相手の素性を詮索しないをモットーにしているという訳ではなく、いつもはツァルに相談してから受ける依頼を、ララの独断で請け負った。理由もまた単純で金払いが良いから。

 しかし、相手は野盗。ツァルに相談すれば絶対に許してはくれない。

 そう思ったララは、いつの間にか俺たちとの戦闘に関わっていたという事だ。

 なるほどな、だからあの時も二年前も致命傷になる攻撃をしてこなかったのか。

 カガチの説明を呆気になって聞いていたブルーツは、しばらく考えた後、(かぶり)を振った。


「って事は何か? 情報無しかよっ?」

「そういう事だな」

「そういう事だなってお前……こいつらどうすんだよ?」

「危害はなさそうだし放っておいていいんじゃないか?」

「……確かにそうだがよぉ」


 すると、口を尖らせたブルーツを見て、ツァルが一つ提案を出した。


「「では、せめてもの罪滅ぼしだ。我々を連れて行きたまえ。何かと役に立つだろう」」

「お、お師匠様っ? この畑はどうなるですか!?」

「「何、保存樹の樹液を畑に垂らしておけばどうという事はない」」

「しかしっ!」

「「元々は自分で撒いた種だ。自分でなんとかするのが筋であろう?」」


 有無を言わさぬ鋭い眼光……少しガストンを思い出すな。


「おいおいおい、俺は別に困ってねぇって! 得体の知れねぇやつなんか連れ歩けねぇよ!」

「「ふむ……では君。アズリーだったな? 君にララを任せるとしよう」」

「で、でもなぁ……」

「「君はそこの男よりかは教養がありそうだ。ララを手足のように使う代わりに、この広い世界を見せてやってほしい」」

「そこの男ってのは俺の事かよ……二又野郎」

「貴様っ、お師匠様になんて事言うですか!」

「「この限定的な状況下で、アズリー以外の男を指したら君しかいないだろう? むさくるしい男よ?」」

「上等だ。斬り刻んで朝の食卓に並べてやるよ」

「そんな事してみろ! 私が……いや、しちゃダメだぞ!」

「「ふん、ご免蒙(めんこうむ)るな。我が肉体……さぞかし美味だろうが、君の舌には合わない。絶対にな」」

「だろうな、いらねぇからポチの餌にでもしてやんぜ」

「ポチとはあの犬の事か! あの犬はばか可愛かったぞ!」

「…………」


 野次のように聞こえるララの言葉は完全に無視して睨み合うブルーツとツァル。

 あのアイリーンでさえ上手く相手しているブルーツには珍しいが、いかんせん最初の状況が悪いか。

 アイリーンは味方同士、だが今回の相手は敵として認識していたからな。仕方ないだろう。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「で、結局……連れて来ちゃったわけですね?」


 そう、ブルーツとツァルを諌め、二人をベイラネーアの俺の部屋まで連れてきたんだ。

 ツァルは睡眠の時間だと言ってララの魔法陣の中に入り、ブルーツは帰るなり不貞寝してしまった。


「おぉ~、もふもふ(けん)だ~! な、な、触ってもいいかっ?」

「まだダメです!」

「な、何故だっ」

「マスター、(くし)とってください!」


 普段使ってないだろお前。


「もう、折角触るっていうんだから、ちゃんとした私を見せなくてはいけませんからね! さ、どうぞ!」

「おぉ~。これはばか気持ちいいなー!」

「ふふふふ、どうですマスター! これがニューポチの実力ですよ!」

「スゴイナー」


 俺の冷ややかな目をふふんと受け止めるポチをよそに、ポチに抱きついていたララが何かを思い出したように急に立ち上がった。


「そうだアズリー!」

「どうした?」

「この家、お庭があったもんで……あの、畑作っていいか!?」

「確か手つかずの状態だったし……別にいいんじゃないか?」

「あ、ありがとうっ」


 一瞬で目を輝かせたララは、一足飛びで中庭に通じる窓辺に乗って、そして下へと消えて行った。


「あ、ちょっと待ちなさい! まだ尻尾を触ってませんよ!」


 ニューポチ、大安売りだな。

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