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悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ  作者: 壱弐参
第三章 ~成長編~

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062 消えたジュエルアップルパイ

「ぁ……アズリーさんっ? 戻ったんでありんす?」


 眠そうな眼を擦りながら春華(はるはな)が言う。

 気のせいか声も少し大人びたような気がする。


「あぁ、またすぐに出ちゃうけど、まずはここに寄っておきたくてね」

「そうでありんすか……」

「おいおい、出て行っちまうってのは本当かよ?」


 リナの顔がまた少し暗くなる。まさかここでポチの提案が役に立つとは思わなかったな。


「悪いな。あ、でも転移魔法陣を設置しておくから拠点はここにするつもりだよ」

「あんだよ、それなら別にいいけどよ」

「マスターマスター」

「ん、なんだポチ?」

「アイリーンさん、ずっとマスターの返答待ってますよ? 睨みながら」

「……本当だ」

「さ、アズリーさん。是非教えてください。あの魔法の秘密を」


 流石、静かなる魔法士(サイレントウィッチ)と呼ばれるだけはあるな。

 この二年間で相当な知識を詰め込んだんだろうが、まだまだ貪欲に前に進もうとしている姿勢が見える。

 学生自治会長もやってる身だ。実力もかなりのものだろう。


「コホン。……えーっと、分裂発動型の魔法ってのは文字通りの意味で、厳密には同時に同じ魔法を使うというものではないんだ」

「どう違うんでぇ?」

「分裂……カラクリがあるって事ね?」


 アイリーンが六法士アイで俺を見つめる。その眼は嫌いなんだけどな。


「同じ魔法を使うならば先程アイリーンさんが言ったようにリキャストタイムがありますが、発想の転換で、「リカバーを六回使える魔法」を実行したんですよ」

「六回分のリカバー? それこそ無理よ。設置型でもない限り、情報量が多すぎて一つの魔法陣に描く事は出来ないわ。いえ、そもそもそんな魔法式――」

「実はそれが出来るんですよ」


 俺は立ち上がり、皆の席から少し離れた場所まで歩いた。

 そして今回はより簡単なキュアーの魔法で、先程のものと同じ魔法を放ったんだ。


「キュアー・カウント6&リモートコントロール」

「……嘘」


 そう零したアイリーンの眼前に六つの魔法陣が波打つように浮き、リナ、アイリーン、ブルーツ、ブレイザー、ベティー、そして春華(はるはな)の下へ向かった。

 光が皆を包んで消えていくと、リナが少し目を伏せ真剣に考え込んでいた。


「どうだ、わかったかリナ?」

「…………」


 リナは答えずに頭の中で今の流れを映像化して繰り返し見ているんだろう。

 アイリーンも顎先に手を添えて考えている。

 簡単なカラクリだからこのメンバーなら答えに行き着くと思うんだが……はてさて。


「指の動き」

「全てが違う動きをしていたな」

「あぁ、気味が悪い動きだったな」


 答えたのはベティー、ブレイザー、ブルーツ。

 やはり動体視力という面では戦士に分があるのか。俺なんか気付くのに数ヶ月かかったのに……。

 この反応にアイリーンがハッとした様子で俺をギロリと睨んだ。そしてそのまま指の宙図(ちゅうず)を始めた。

 おいおいまさか……!?


「……っく、キュアー&リモートコントロール」


 くそ……これが六法士たる才能か。あぁ忌々しい。


「難しいわねこれ。けど、こういう事かしら?」

「その通りです」

「しかし今のは二つの魔法だろ? 六つの魔法を出した訳じゃねぇだろ?」

「やり方の正解という事よ。魔法式を知らない私にはあの魔法は無理だけど、指二本を使って別々の魔法を発動させた。つまりアズリーは片手でリモートコントロール。もう片方の手で六つのキュアーを発動したのよ。五本の指で全て違う魔法陣を描く。……異常な程の修練が必要なはずよ」

「……す、凄い……」

「凄いのはトゥースさんであってマスターじゃないですよ?」


 リナの感嘆の声を一瞬で消したのは我が元使い魔。


「トゥース、どこかで聞いた名前だけれど……まあ今はいいわ。指の数と魔法の数が合わないって事は、五つの魔法のどれかに魔法の数を制御する魔法があるって事ね」

「流石ですね。五つの魔法のうちの一つは勿論キュアーです。それ以外に、数の制御をする魔法、魔力を安定供給する魔法、その魔法に対する数の制御魔法、最後にそれらの魔法の魔力を俺から強制的に奪う魔力吸引の魔術です」

「その魔術に対する数の制御魔法がないのは何故かしら?」

「この魔術自体に予め範囲の魔法式を埋め込んでいるんです」

「……なるほど。血の滲むような修練だったのはその身体を見ればわかるけど、気がおかしくなるような指の動きの反復練習の方が私には恐ろしいわね」


 この言葉にブルーツが笑う。「何かおかしかったのか?」とアイリーンがブルーツを見るが、はて、本当に何がおかしいんだろう?


「いや申し訳ないアイリーン殿。アズリーにはもってこいの練習だと思ってな」

「どういう事よ?」

「こいつは飯抜きで二日三日は研究やら考え事に没頭出来る変なヤツだ。見返したいヤツ、追い越されちゃいけないヤツが身近にいるなら、そんな事は全く気にならないんだろうと思ってな」

「確かにマスターは『トゥースの馬鹿、阿呆、間抜け、う○こ!』とか叫びながら頑張ってましたね」

「うふふふ、今時の子供でも言わないわよそんな事」


 おのれポチめ。ベティーは基本的にサッパリしてるが、こういうのを知ると、思い出したように言ってくるんだぞ。


「ポチさん、たとえアズリーさんの言葉でも、それは女の子が言っちゃダメなんですよ?」

「あ、そうでした! 気を付けます!」

「んで、他に収穫はあったのかよ?」

「いえ、やはり強くなる事に精一杯だったので、今回の分裂発動型の魔法と少しの魔法や魔術を覚えたくらいですよ」

「しかし、あの動きは相当なものだったな。ブルーツに近い速度が出ていた」

「はははは、まだまだ遠そうですね」


 ぬぅ。あれだけ鍛えてもやっぱりブルーツには届かないか。

 それにブレイザーが言ったのは、おそらく補助魔法無しのブルーツの速度。

 俺も本気じゃなかったにせよ、ランクSの戦士相手に肉弾戦のみで相手するのは、まだまだきついだろうな。


「あぁ、ありゃ驚いた。魔法士であんな速く動く人間は初めて見たぜ。あれならランクSSのモンスターでも相手出来るんじゃねぇか? その分裂発動型の魔法ってやつを使えば結構やりあえると思うんだが?」

「いや、一度やってはみたけど、やっぱりランクSのモンスターが精一杯だよ。でも、ポチと二人ならなんとか……ってとこかな」

「はっはっはっは、なんだよやったのかよっ? そら壮絶な二年だな!」

「もう、あの時は大変でしたよ! ランクSSのカオスリザードを前に、私、マスターの首根っこ(くわ)えて跳んで逃げ回りましたからね!」

「何言ってるんだよ! あの時はお前が瀕死になったのを俺が助けたから逃げられたんだろ!?」

「何言ってるんですか! その前にマスターが転んだのを私が起こした事を忘れてませんか!?」


 大変だ、忘れてた。


「とまぁ、戦いや鍛錬漬けの生活ではありましたね」

「何まとめてくれちゃってるんですか! まだ話は――」

「は~い、ジュエルアップルパイよ~ん♪」

「美味しいですー!」


 まだダンカンがテーブルに載せてないだろお前。


「そ、それで……アイリーン先生が先程仰ってた――」

「オルネル、イデア、ミドルス!? 何て顔してるんだお前たち!?」


 顔がパンパンに膨れ上がった三人がいきなり現れ、アイリーンの言の意図を探ろうとしている。

 これはこの元レッドダンカンの仕業か?

 太いまつ毛が生えた瞼をバチンと閉じたダンカンが去って行く。


「まったく、これに懲りたら無銭飲食なんてするんじゃないわよ?」

「「はい」」


 三人が閉じ切らない口で返事をするが、シュール過ぎて何も言えないなこりゃ。

 ポチも怖いのか、ちゃんと俺の懐から財布を出して支払いに行ったな。


「さ、面子も揃ったんだ。早速アイリーン殿の話を聞こうじゃないか」

「先程のマウスの言葉。そもそも黒のイシュタルとは? 聞き覚えのない名前ですが?」


 ブレイザーの言葉にアイリーンが無言で頷く。

 情報規制のある名前だけに、声を落として話すアイリーン。これに銀の皆は耳を傾けた。


「――というわけ」

「そうでしたか。黒のイシュタルとは白黒(びゃっこく)の連鎖の……」

「それでアイリーンさん。『黒の派閥ならやらないでもない』というのは?」

「最近になって黒の派閥の動きが変なのよ。ガストンがランクSのモンスターを倒したって話はしたわね?」

「はい、伺いました」


 より神妙な面持ちでアイリーンがコクリと頷くと、ゆっくりとその先を続けた。


「あれね、イシュタルからの指示らしいのよ。このクソ忙しい時期に、守護魔法兵団は動かせない時期にガストンにそう指示を出した。これはもはや一人で行けと言ってるようなものよ。もしかしたらイシュタルは、その手に余るガストンが邪魔なのかもしれないわね」

「そんな……っ」


 リナが強く拳を握ってガストンを案じる。

 ん、知らない間にガストンとの距離が縮まったのか?

 空間転移魔法が普及した事で、ベイラネーアにも来やすくなっているからだろうが……まあ人の良い爺さんだし、リナなら誰からも好かれるか。


「ま、それでも生きて帰ったガストンの発言力が、前以上に増した事は結果として良かったけどね」

「それでアイリーン殿、それがマウスとどういった繋がりを?」

「そこまではまだわからないけど、大学関係者とは別口で、黒の派閥に多数の人間が入ったという話を聞いた事があるの。おそらく今回の奴等もそうでしょうね」

「ほぉ、こりゃブレイザーも野盗になっちまうか? ははははっ」

「ブレイザーさん、黒の派閥に入るんですか?」


 俺の問いにブレイザーが首を横に振る。


「派閥……というよりも六勇士への勧誘だ」


 そりゃ凄い。


「えー、でも十二士の人間は大学の卒業者から選ぶものじゃありませんでしたっけ?」


 首を傾げたポチの意見はもっともだ。

 いかに実力が優れていようが伝統や決まり事を無視するような白黒(びゃっこく)の連鎖とは思えないが?


「数日間の大学通いで卒業資格を、その後六勇士の授与を……という事だ」


 なるほど。新たな道を作って事実だけを国民に公表するのか。

 いかにも国がやりそうな事だ。


「無論、断ったがな」

「へぇ……あれ、六勇士の勧誘って事は、席に空きでも出来たのか?」

「六勇士の一人、骨拳(こっけん)のジェニファーが反旗を翻したんだ」


 オルネルが回復を終え、俺に答える。

 骨拳(こっけん)のジェニファー。確か若くして六勇士になったとされる女拳士……はて、白黒(びゃっこく)の連鎖の契約は効力を現さなかったのか?

 そう簡単に裏切れるというのは出来ないと思うんだが……。

 もしくは外部からの協力者? なら一体誰が?

 何にせよ国の動きが慌ただしくなってきたという事には変わらないか。メルキィもこのタイミングで動いたのは正解かもな。


「ま、その話についてはまた今度詳しく話すわ。そろそろアズリー帰還のお祝いをしたいんだけど……料理はまだかしらね?」


 ベティーがダンカンを見やると、そこにはいつの間にかカウンターに座したポチがお腹を膨らましていた。

 平らげた皿や器が重なり、ダンカンがそれを回収している。

 おい……もしかして全部食べたのかよ?

 皆の視線に気付いたポチは気まずそうな表情になった。


「お、お金は払いましたよ! ケプッ」


 いかにもポチがやりそうな事だ。

宣伝ですみません。

2015/10/17(土)19:30~

なろう公式ラジオに壱弐参が出演致します。


下記公式より抜粋


◆小説家になろう公式ラジオ「なろうラジオ」詳細

・放送日時

2015年10月17日(土)19:30~21:00


・パーソナリティー

中恵光城様・さいとうよしえ様


・ゲスト作家様

ユウシャ・アイウエオン 先生『ああ勇者、君の苦しむ顔が見たいんだ』

壱弐参 先生『転生したら孤児になった!魔物に育てられた魔物使い』

青山 有 先生『救わなきゃダメですか? 異世界』


・特設ページ

http://ch.nicovideo.jp/s-narou


お時間ございましたら是非観てやってください。

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