挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ 作者:壱弐参

第三章 ~成長編~

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

62/271

061 緑髪のララ

「さ、ちゃっちゃと吐いてもらおうか」
「ふん、なんの事かな? いいからさっさと殺したらどうだ? 銀狼ブルーツ……」
「とぼけんな。こんだけの精鋭、いくらお前が強くても揃えるのは骨だ。人材の確保がどれだけ大変かウチのブレイザーが身に染みて知ってんだ。さっきお前が話してたコネってやつを教えてもらうぜ。これ以上あぶねぇ輩にうろつかれないためにな」

 ブルーツがマウスの首に剣を当てながら尋問する。
 マウスは依然と平静を装いながらもブルーツを睨んでいる。

 すると、
「がぁっ!?」

 ベティーがマウスの腕を刺し貫いた。凄く、それはもう凄くビックリした。
 目が怖いよベティーさん。

「今死ぬのと、間も無く死ぬのとどっちがいいか選びなさい」
「いや、そりゃ脅しにならないだろお前……」

 二年前の時はこんなタイミングで変な少女が現れたんだが、今回ばかりはそういった気配も……いや? あの時も確か周囲に人間の気配は無かった。
 ブレイザーとブルーツがマウスを斬ろうとした瞬間、それを止めた動きから察するに、あの子もかなりの使い手だった。警戒しておくのに越したことはないだろう。

「いくら聞いても喋らねぇなら、死んでもらうしかないようだな」
「そういった能書きが身近にある勝利を手放すんだ……」
「何ぃ?」

 マウスの不気味な笑みにブルーツも二年前の事を思い出した様子だった。
 ブレイザーが辺りに気を張るが、やはりそういった気配はない。
 しかし、マウスの笑みは消えない。駆け引きがうまいな。こうなってはブルーツもマウスを斬れないんだ。周りにマウスを助けようとする者がいるとするならば、そいつを炙り出すためにマウスは殺せない。場合によっては相手より圧倒的優位に立てるからだ。
 直後、二年前のあの時と同じような現象が起きた。皆の足下に小さなナイフが無数に飛んできたのだ。
 勿論、これがかわせない銀のメンバーではない。皆二年前よりかなりレベルが上がっているからな。
 ブルーツもマウスの首から剣を離す事なくかわし、俺は飛んでくるナイフをポチの分と一緒に振り払った。
 リナも問題無くかわしてるな。

「くそ、またかよ!」
「遅いぞ、ララ!」
「世話のやける……」

 やはり現れた無機質な顔をしたララと呼ばれた少女。声にも表情が感じられない。
 一体どこから……? まぁいいか。とりあえずは確保。しかし速度が異常だ。このままじゃまた逃げられそうだな。まあメルキィ程じゃないが。

「ほい、ストップ」

 俺は緑髪の少女の腕を掴むと、彼女は一瞬だけ動きを止めた。その硬くエメラルドを思わせる緑色の瞳に少しの驚きを見せながら。
 彼女はすぐにブーツの足先に仕込んである鋭利な刃を使って蹴り上げてきた。

「ほい」
「ふっ」
「ほい」

 やはり相当な手練れだ。異常な速度を利用した戦士タイプ。
 打ち込みは単調ではあるが、目にも止まらないような連打。対人間を考えればある意味最強だろうな。

「ばかな、ララのスピードについてこれるのか……この魔法士はっ!」
「かー、速ぇ速ぇ。アージェントの爺を思い出すな、ブレイザー?」
「祖父はもっと速いさ」

 おっと、白銀のリーダーはもっと速いのか。そういえばメルキィがアージェントと会った事があると言ってたな。しかしブレイザーの祖父だとは驚きだな。

「えっへん、ようやくマウスさんの笑みも消えましたね!」
「くっ……」
「対応不可。マウス救出を断念し、撤退を開始する」

 ララは俺の直線的(、、、)な捕獲行動を掻い潜り、退路の確保をするために後方へ跳んだ。

「おいララ、話が違うだろ!? さっさと俺を助けろ!」
「対応不可」
「なっ――」

 ララの冷たい一言に、マウスの顔が一気に青ざめる。どうやら助かるという確信がひっくり返されてしまったようだ。
 ララはオルネルの炎系魔法を地面に向かって弾き、土煙りによる目くらましを起こすと、光源魔法の範囲外へと一瞬の内に消えて行った。

「くそっ、逃がしたか」
「いや、おそらくこりゃ……」

 ブルーツは俺の方に目をやると、狙いに気付いたのか少し笑ってからマウスに視線を戻した。

「さ、これで吐く気になっただろ?」
「……や、やめろっ」

 光源魔法に反射された剣がぎらりと光ってマウスの前に置かれる。死を前に恐怖に引きつった顔のマウスは震えながら、額から大量の汗を流し始めた。

「コネってのはなんだ?」
「い、言えないっ! 言えないんだ!」
「なんで言えないんだ?」
「言ったら……殺されるっ!」

 生への退路を断ってブルーツの殺気を浴びれば吐くと思ったが、これは厄介だな。
 リナはこういった状況に慣れていないみたいだが、静かにブルーツの事を見守っている。
 ポチはブルーツの後ろで爪を磨いで光らせてるが、ブルーツが死角になったマウスにご自慢の爪を見せられないでいる。
 あ、目があった。……はいはい良い爪だな。

「……じゃあ、今逝きな」
「た、頼む……助けてくれ……」
「あばよ」
「わ、わかった! 話す!」

 本物の殺意。これを当てられてはマウスも話すしかないか。
 ブルーツの剣先はマウスの鼻先で止まり、一瞬で生気を失い老けた男は、小さな悲鳴を一つあげた。そして、辺りを警戒しながら小声で呟くように言ったんだ。

「黒の……イシュタル」

 銀のメンバーである三人の顔は、その名に反応しなかったが、大学生と呼べるリナたちの顔には戦慄が走る。
 と、同じタイミングだった。
 小さな悲鳴を出した男、マウスの顔が丸い果実を割ったみたいに吹き飛んだのは。
 正面にいたブルーツの顔が、マウスの血で真っ赤に染まる。

「「きゃっ」」
「「なっ!?」」

 リナ、イデアの悲鳴。そしてオルネルやエッグがこの異常事態に動揺し、ブレイザー、ベティーも驚きを隠せない様子だった。
 これは、簡易ワードの発言による時限式魔術……呪言発破。これだけの威力だ、相当な魔力の持ち主だろうが、犯人はイシュタルなのか? 公になっている情報では戦魔帝ヴァースとガストンしか魔術は使えないはずだが……。
 しんと静まり返る中、一番冷静だったのは、血しぶきやマウスだったものをダイレクトで受けたブルーツだ。

「あー、くそ……今夜はエールを浴びるほど飲むはずだったんだがな。この世で一番浴びたくねぇもの浴びちまった……」
「ブルーツさん、それは私の胃酸の方がマシって事ですよね!」

 何故自分の胃酸をアピールするんだお前は。

「ペッ……あぁ、そういうこった」
「なかなかきな臭い話になってきたじゃない?」

 突然俺の背後から聞こえた懐かしい声。振り向くと、そこには相変わらずムスっとした様子のアイリーンが、腕を組みながら立っていた。
 俺を睨んでは目を背けて鼻息をフンと吐いている。何故あの人はいつも怒っているのだろう?

「「アイリーン先生っ」」
「遅いから心配になって見に来たら面白そうな事になってるじゃない。笑う狐のマウスの後ろ盾に黒のイシュタル、か……確かに黒の派閥ならやらないでもないかもしれないわね」
「そ、それはどういう……?」

 ミドルスがその場でアイリーンに聞いたが、その答えが返ってくる前にブルーツの言葉が二人を遮った。

「おいおい、とりあえずここじゃなんだから一回ギルドへ戻ろうぜ? 風呂にも浸かりてぇしな……」
「え、私の胃酸浴びないんですか!?」

 どこに浴びる話があったんだ?

 その後俺たちは、笑う狐のメンバーの亡骸を埋葬してからベイラネーアへと向かった。
 俺の顔がベイラネーアの警備に見られると不味いと思ったが、ベティーに「一時的に眼鏡を外したら問題ない」と言われた。確かに少しガッシリした体型になったからな。時間も経ってるしさすがに大丈夫か。
 冒険者ギルドに向かう途中、一度ブルーツが別れ、エッグは門限がどうとか言ってリナにだけ別れを告げて去って行った。
 ギルドに着いてからオルネル、ミドルス、イデアが赤い眼をしたレッドダンカンに連れて行かれた。一体何したんだあいつら?
 ギルドはしんと静まり返っていて、他の冒険者は数える程しかいなかった。中には懐かしい顔や見た事ない人もいる。
 そしてギルド内にぽつりと一人。テーブルに左頬をぺとりと付けた黒髪の美少女が静かな寝息を立てている。

「も、もしかして……春華(はるはな)?」

 俺の小声にリナが小さく頷き、ベティーがにやりと笑う。

「なんだいアズリー? 見惚れちゃったかい?」

 俺は聞きながら春華(はるはな)とは違うテーブルに腰掛けた。

「いや、そういう訳じゃないけど……流石に驚いたよ。ナツやフユはどうしてるんだ?」
「ナツは家だ。しかしフユは既にガストン殿の下へ向かった」
「本当かブレイザーっ?」
「こら、春華(はるはな)が起きちゃうわよ」

 ベティーの指摘にあわてて手を塞ぐと、リナがくすくすと笑って、また目の端に涙を見せていた。
 ポチの視線が痛い。おい、そんな眼で俺を見るなよ。お菓子やらんぞ!
 ……捨て犬みたいな眼で俺を見るなよ。

「ガストン殿があの家に来た事があってな。フユの実務能力に目を付けて引き抜いて行った」
「だが事務方を希望していたとはいえ、実力がまだ――」
「ガストンが育てるのよ」

 食い気味にアイリーンが言う。
 そういう事か。六法士に見込まれるとは大したもんだなフユは。しかも忙しい中、本人から指導を受けられるって事は相当気に入られた証拠だな。

「そりゃ凄い……」
「なんか最近益々若返ってるわよアイツ。この前なんて一人でランクSのモンスターを討伐したって聞いたわ」
「それも凄い」
「で、アズリー。アナタは一体何処で何をしてたのよ? どれだけ連絡しても繋がらないし……」
「そんなに連絡してくれたんですか?」
「…………」

 レッドアイリーンが現れた。眼じゃないが頬が真赤だ。風邪か?
 後でキャットモンキーの肝を煎じてあげよう。あれは風邪によく効くからな。

「あははは、相変わらずですね、アズリーさんはっ」

 ようやく笑ったリナの顔……大人になったがまだ若さの残る顔。
 でも、本当に綺麗になったな。

「アズリィ? 頬が少し赤いわよ?」
「ん、そうか?」

 俺にベティーがそう言うと、リナの顔も少し赤くなって見えた。
 ベイラネーアでは風邪が流行っているようだ。キャットモンキーの肝、足りるだろうか?

「まあアイリーン殿の言う通りだ。この二年間、何をしていたんだ? 身体つきが違って驚いたが、その筋肉の付き方……戦士、いやそれ以上の鍛錬が必要だろう」
「まったくだ」
「ブルーツ、早かったな?」
「あぁ、まだ嫌な臭いが残ってる感じがするが、折角の戦友の帰還だ。急ぎたくもなっちまうだろ」
「ふっ、確かにな」

 ブルーツの発言にブレイザーが頷く。
 むず痒い事を言ってくれる。あとでポチの自慢の爪を削って優しく掻いてもらおう。

「重心にブレがねぇ。帰り道の歩き姿も異常な程静か。それにあの魔法……」
「魔法?」

 現場にいなかったアイリーンが反応する。

「えーっと、なんだったかな? 確かアズリーは分裂発動型の魔法って言ってたっけか?」
「分裂発動型……?」
「アイリーン先生。アズリーさんは、リカバーの魔法を六つ同時に発動させたんです」
「じょ、冗談でしょっ? リキャストタイムのある同じ魔法を同時に放つなんて聞いた事ないわよ!」

 春華(はるはな)が……起きちゃったぞ。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ