表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ  作者: 壱弐参
第三章 ~成長編~

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

61/497

060 アレ

 ―― 戦魔暦九十四年 一月某日 ――


 メルキィにトゥースからのくだらない伝言を伝え終えると、俺とポチはベイラネーアに進路をとった。

 王都レガリアより南、道中二日の時間でベイラネーアとレガリアの中間地点である《レジアータ》に着いた。

 レジアータで一晩の休息をとり、十五日の夜にベイラネーアに着くかな……そう思ってた。

 十五日の夜近く、ベイラネーアまで後数時間というところで、ポチの鼻がヒクついたんだ。


「マスター、リナさんです!」

「リナの匂いか?」

「えぇ、それにこれは……血の臭いですね……」

「……リナだけか?」

「ブルーツさんの匂いもしますね。おそらくベティーさんにブレイザーさんもいるでしょう」


 って事は何かしらの討伐で深手を負ったって事か。急がないと!


「ポチ、ゴーッ!」

「アオォオオオンッ!」


 俺はポチの背に跨りながらリナにコンタクトをとろうとしたが何故か念話連絡の魔術が発動しなかった。


「あり? なんで念話出来ないんだ?」

「マスター、忘れたんですかっ? 自分で念話連絡の知覚神経に妨害の魔術を掛けたんでしょう!」


 あ、そうだったそうだった。だからここ最近誰からも連絡来なかったのか。


「……もしかして忘れてたんですか?」

「もしかして忘れてたかもしれん!」

「はぁ、リナさんが可哀想ですよまったく……」

「ん? 何か言ったか?」

「いいからさっさとリナさんに連絡してくださいよ! 馬鹿マスター!」


 まったく、一体何を怒ってるんだコイツは?


「ほいのほい、制限解除!」

『リナ、リナ! 聞こえるかリナ!?』

「マスター! リナさんは!?」

「くそ、ダメだ! リナへ俺の声は届いてるだろうが、向こうからの受信が出来ない! ポチ、ブースターだ!」

「え、私にそんな物取り付けてあったんですか!? 早く稼働させましょう!」

「ない! 気合いだ気合い!」

「嘘付き!」


 ポチが俺を(ののし)ると、走ってた速度ががくんと落ちた。


「ん、効果が切れたみたいだな。ほいのほい、オールアップ! 急げポチ!」

「アオーンッ!」


 俺はトゥースオリジナルの補助魔法をポチに施した。

 再び最速の風となったポチが、大きく遠吠えをあげながらリナの匂いの下へ向かって走り始めた。

 程なくしてポチが捉えたのは我が懐かしの級友の匂いだった。


「オルネルまでいるのかっ?」

「えぇ、イデアさん、ミドルスさんもいます! もう一人も知り合いだとは思うんですけど、あまり記憶にない匂いです! これは……!」

「どうした!?」

「やっぱり皆さんがピンチです!」

「間に合うか!?」

「当然です! 間も無く視界に捉えますよ!」

「……見えた!」

「事は急を要します! ここは力技でいきますよ!」


 その言葉でポチは歯を食いしばりながら呼吸を止めて瞬間的な最高速を発生させた。

 俺の正面に捉えたのは倒れるオルネルたち。周囲にいるのは……野盗か!


「ほいのほいのほい――」


 ポチは魔法で出来たと思われる巨大な土壁に、思い切り体当たりを放つ。

 そして土壁が崩れさると、俺はポチにしがみつきながらも崩壊する土砂を思い切り浴びた。

 土が苦い! っと、そんな事をしている場合じゃない。オルネルたちの周りを片づけなくては。俺は凝縮した魔法力を四人の男に向かって放ち、瞬間的なMPの枯渇に追い込んだ。

 魔法力強制搾取魔法マジックドレイン。戦士タイプの相手に隙があれば大体はこれでなんとかなる優れた魔法だ。

 MPがなくなった男たちは意識を失ってその場に倒れ込む。本来ゆっくりとなくなるMPが一気になくなった際に起こる特有の症状。これでひとまずは安心だな。

 ポチは止まらず先へ駆け続け、正面にいる無数の野党たちを横切って行く。


 ――って、

「おい、通り過ぎちゃったぞ!」

「仕方ないでしょう! マスターだってカッコつけたかったでしょう!?」

「いや、それは否めないが、皆のピンチなんだからもう少しこう……アレだ!」

「どれですか!?」


 あれはマウス? なるほど、これは新生笑う狐って事か。

 横たわっているベティーの顔が蒼白くなっている。ありゃ神経毒……症状から見るに東方に生息するイースターフロッグの毒だな。

 ブレイザーとブルーツは……元気そうだな。いい感じに鼻血提灯(ちょうちん)が膨らみつつ割れてるしな。

 リナの目からは大粒の涙。太腿からの出血と……ベティーと同じく蒼白い表情。

 おのれ、我が愛弟子を……許さん!


「お前ら全員……アレだ!」

「そうです、アレですよ!」

「お、お前ら……あの時の!」

「確かマウスだったか? 性懲りもなく人を襲って人間として恥ずかしくないのか!」

「マスターよりも恥ずかしい人間ですよ! ……え、あの人可哀想ですよマスター!」


 ポチが俺の事をどう思っているのかがよくわかるな。


「うるせえ! 一歩でもそこを動いたら仲間の首と胴がお別れする事になるぜ!」

「チープなセリフ過ぎるだろ! お前そこそこ強いんだからもう少しまともな事言えってーの!」

「ホント可哀想です!」

「……く、どうやら誰かがくたばらないとその減らず口は閉じないらしいな。おい!」


 マウスが顎先でブルーツの始末を命じると、その後ろの男が剣を振りかぶった。


「今ですマスター!」


 ポチがニヤリと笑いながら俺に合図を送る。


「何っ!?」


 笑う狐のメンバーが一斉に驚く。


「え、なんの準備もしてないぞ!?」

「嘘!?」

「あぁ、嘘だよ! ほい! タイトルロック! コード、『笑う狐』!」


 瞬間、マウスがリナを地面に落とし、他のメンバーも次々と武器を落としてその場で固まった。

 この硬直にマウスの顔が歪む。


「がぁっ!? な……なんだ……これは……っ?」

「瞬間結界縛魔法だよ。お前ら全員が笑う狐のメンバーってのは遠目ですぐに確認出来た。その称号(、、)が付いている奴らに、限定の魔法をお見舞いしたって訳だ」

「ば、ばか……な。そんな魔法……っ!」

「そして、そうこう話してるうちにポチが皆を助けるって寸法だ」

「そう私が! ……え、私が助けるんですか!?」


 してやったり顔で拍手しかしてなかったぞ。こんにゃろめ。


「「いや、もう大丈夫だ」」

「おぉ、鼻血提灯(ちょうちん)コンビ!」

「なんだその呼び方は!?」


 俺の言葉に鼻血Aと鼻血Bは鼻を拭ってブレイザーとブルーツになった。

 しかしブルーツは斬られてなかったがブレイザーは斬られていたはずだ。おそらく神経毒を食らっているだろう。ダメージは少ないにしてもどうやって解毒を?


「頬の内側に忍ばせていた解毒薬が役に立ったな」

「おま、そんな準備までしてたのかよ!?」

「備えあれば憂いなしだ」


 ……流石に真面目だな、ブレイザーは。相変わらず勉強になるが、体内に解毒薬を予め忍ばせておくのは危険だ。過度な摂取で毒に転じるものだし、真似したいとも思えないな。

 おっと、リナたちを助けなくては! えーっと、毒に侵されてるのは……リナ、ベティー、オルネル、イデア、ミドルス……あれはエッグか! って事は六人だな。


「ほい、リカバー・カウント6&リモートコントロール」


 俺は右手五本の指と左手一本の指を使い、六つに重なる魔法陣を飛ばす。

 それを操作してリナ、ベティーの上へと通過させ、分裂した魔法陣を落としていった。


「まーた珍妙な魔法だな、おい」

「分裂発動型の魔法ですよ。これによって一度に複数の別の魔法を発動する事が出来ます。ほい!」


 奥で倒れてるオルネルに最後の魔法陣が届くと、俺は発動に必要な魔力を供給した。

 すると、黄色い光が皆の身体を包み込んでそして消えていく。その間、ブルーツとブレイザーはかつての《帰らずの迷宮》の時同様に、息のある笑う狐のメンバーに(とど)めを刺していた。いつ見ても人間が死ぬ姿は後味が悪いな……。

 その時、俺の背中に温かく優しい小さな手が置かれた。

 俺の肩よりも下から聞こえるすすり泣く声は、俺がポチ以外で一番知っている声だった。


「う……うぅ……アズリ、さん……」

「や、やぁリナ。無事で何よりだな」

「うぅぅ……ずっと……ずっと声が聞こえてました……」


 リナは掠れる声で背中のマントを掴み、その中に顔を(うず)めた。大して力が入っていないのに、俺の動きはタイトルロックで封じられるよりも制限されている。

 目配せでポチに救援を求めるも、あいつはウインクだけ俺に送ってベティーの下へ走っていった。ブルーツたちも俺なんてお構い無しという感じだ。

 おのれ、なんてヤツらだ……。

 俺はとりあえず足下に発動した回復魔法によって、リナのダメージを回復させた。


「い、いやぁ見違えたよ。綺麗になったなリナ」

「……はい」

「学生自治会長になったってな、おめでとう」

「……はい」

「流石、静かなる魔法士(サイレントウィッチ)だな。この名前ガストンさんが付けてくれたんだろ?」

「はい」

「そ、そろそろ放して欲しいんだが……リナ?」


 より一層力強くマントを掴むリナ。

 これはしばらくは放してくれないな、と思った矢先に、俺たちを見つけた男が大きな声をあげた。


「あぁあああああっ!? リナさんが……泣いてるぅうううっ!?」


 いや、悲鳴に近かったかもしれない。


「貴様っ! リナさんになんて事しやが――ぐぇっ!」


 ブルーツとブレイザーに御されたが……やはりあれはエッグか。かなり成長したな。実力もベティーと殆ど変わらないんじゃないか?

 遠目に見えるオルネルやミドルスも変わった。暗さもなく明るい印象だ。

 イデアもどことなく優しい顔付きになっている。

 ……皆成長したんだな。

 ところで……いつになったらリナは俺を解放してくれるんだろう?


 その後、俺は解放してくれないリナのせいで、マウスに数回のタイトルロックを使うはめになった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
↓連載中です↓

『天才派遣所の秀才異端児 ~天才の能力を全て取り込む、秀才の成り上がり~』
【天才×秀才】全ての天才を呑み込む、秀才の歩み。

『善良なる隣人 ~魔王よ、勇者よ、これが獣だ~』
獣の本当の強さを、我々はまだ知らない。

『半端でハンパないおっさんの吸血鬼生 ~最強を目指す吸血鬼の第三勢力~』
おっさんは、魔王と同じ能力【血鎖の転換】を得て吸血鬼に転生した!
ねじ曲がって一周しちゃうくらい性格が歪んだおっさんの成り上がり!

『使い魔は使い魔使い(完結済)』
召喚士の主人公が召喚した使い魔は召喚士だった!? 熱い現代ファンタジーならこれ!

↓第1~2巻が発売中です↓
『がけっぷち冒険者の魔王体験』
冴えない冒険者と、マントの姿となってしまった魔王の、地獄のブートキャンプ。
がけっぷち冒険者が半ば強制的に強くなっていくさまを是非見てください。

↓原作小説第1~3巻が発売中です↓
『転生したら孤児になった!魔物に育てられた魔物使い(剣士)』
壱弐参の処女作! 書籍化不可能と言われた問題作が、書籍化しちゃったコメディ冒険譚!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ