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悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ  作者: 壱弐参
第二章 ~色食街編~

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051 容疑

本日2話目の投稿です。ご注意ください。

「ポチ! 聞いてくれ、ついに出たぞ!」

「もぉー、またですかマスター? 食生活と運動さえしっかりしてれば毎朝出るもんなんですよー」


 鼻を押さえるポチにイライラするのは俺が人間だからだろう。


「違うんだって! ついに出たんだよ、涙が!」

「欠伸したってそんなもん出ますよ」


 この感動をわかってくれないポチをくすぐりの刑にしたいと思うのは、俺が精神的欲求を解消する為に起こす人間的衝動からだろう。


「このこのこのこのこのー!」

「ちょー!? いきなり何するんですかっ! あは、あははははははっ! マ、マスタぁああああああっ!」

「――――ふむ、人間は気持ちが伝わらないともどかしく感じる生き物である……と」

「ぜぇ……ぜぇ……ぜぇ……マ、マスター、何かあったんですかー? ぜぇぜぇ」

「ん、なんでもないぞ?」

「のわりにはスッキリした顔をしていますよ?」

「はははは、溜まってたもん出したからかな!」

「へぇー……あ、アイリーンさんからの伝言聞きました?」

「おう、だから急いで帰ってきたんだ。皆も戻ってるみたいだしちょっと食堂に呼んでくれ」

「わかりました!」


 ポチが部屋から出て行き、俺は杖を持って立ち上がった。


「……ほいのほいのほいのほいっ――――」


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ―― ポチズリー商店食堂 ――


 十七時半……もう夜になるという時刻、春華、ナツ、フユはキッチンで食事を作り始めている。

 俺はポチに頼んで銀のメンバーを食堂に集めた。


「お疲れのところ申し訳ありません。アイリーンさんからの伝言はポチから聞いてると思います。皆さん、今の所いかがでしょうか?」

「こっちは異常無しだが、ブレイザーがなんかあったみたいだぜ?」

「本当ですか、ブレイザーさん?」

「ああ。帰りに色食街(しきしょくがい)に寄ってみたが、やたらと警備の数が多かった。それも花鳥風月の店の周りだ。店主や娘たちに異常は見られなかったが、どうやらしばらくは近づけそうにない雰囲気だ」

「雰囲気って?」


 ベティーが聞くと、ブレイザーは重そうな口を開いた。


「店主は私を見つけるなり『逃げろ』とアイコンタクトをとってきた」

「逃げろって……どういう意味よ?」

「その場から逃げろ……なのか、この店から逃げろという意味なのか……」


 心配だな。しかし春華(はるはな)やナツやフユ、他の子たちを置いて逃げられる訳がない。さて、どうしたものか。


「……ベティーさん」

「なに?」

「狙いはわかりませんが、花鳥風月の主人の事もあります。一時撤退しましょう」

「一部のお金を残し、ここから離れてください。残りはベティーさんが預かるという形で」

「わかった。我々は街の宿に身を隠そう」

「でもよぉ、春華(はるはな)たちはどうすんだよ? 警備が動いてるんだったら、さすがに大人数での移動は無理だぜ?」

春華(はるはな)、ちょっと来てくれ!」


 俺がそう呼ぶと、急かした事に気付いたのか、春華(はるはな)は着物をパタパタとはためかせながら急ぎ足で現れた。


「なんでありんしょうか?」

「いいかい、今から言う事をよく聞くようにね?」

「あい、わかりんした」


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「では、ブルーツさんはこれを」


 俺は一枚の羊皮紙をブルーツに渡した。


「おう。んで、アズリーはどうするんだい?」

「俺はポチとここで様子見です。店主ですからね」

「私が!」


 さすがに使い魔の名前では申請出来なかったぞ、ポチ?

 だがポチが色々やってくれている事に変わりはない。だからこそこの屋号を散々口論した末にこう決まったのだ。


「おうアズリー。無理すんじゃねーぞ!」

「気を付けてね」

「うむ、では我々も向かうとしよう」

「「お気を付けて」」


 俺とポチは三人や春華(はるはな)たちを見送ると、一階のカウンターにある椅子へと腰掛けた。

 時刻は間も無く十九時になる。外はもう暗く、雲行きも怪しい。ひと雨きそうだな。

 思えば今日は忙しかった。リナたちの口論を仲裁し、メルキィと一緒にリナたちを手伝い、そして出会ったばかりの賢者の弟子に救いの手を差し伸べてもらった。

 そう思いながらポチの頭をひと撫でし、遠くの雷鳴がごろごろと聞こえた時、閉店しているはずの店の扉がけたたましく鳴った。


「警備主任のストラッグだ! ここを開けなさい!」

「ポチ」

「かしこまりました」


 ポチはすっと立ち上がって扉へ向かった。器用に鍵を開け、ドアノブを捻ると、ポチを吹き飛ばすかのような勢いで扉が開いた。

 瞬時に扉からなだれ込む無数の警備兵。周りのアクセスポイントを塞がれ、俺の前を三人の警備兵が取り囲んだ。

 俺もポチも槍を向けられた。


「な、何をするんですか!」

「使い魔に用はない! アズリーだな!?」

「はい、そうですが?」

「人買いのアズリー! 偽造の硬貨を使って多数の人間を買った疑いで捕縛する! 大人しくしろ!」


 ……そういうカラクリか。

 色々な抑止力でクレームを言えなくなった色食街(しきしょくがい)が、団結して俺を潰しにきた。

 正当なやり方ではないが闇の世界の住人がやりそうな事だ。


「マスターはそんな事しません! やるとしたら涎で迷宮の地図を作る事くらいですよ!」


 その情報は必要ないな。


「抵抗しない方が身のためだぞ?」


 頬から揉み上げまで豊かな髭を生やした厳つい顔の男ストラッグは、くいと顎を上げて部下に合図すると、ポチの首元に槍の刃先が当てられた。

 槍がひんやりとして冷たいのか、「ひゃうん」と漏れるポチの声は色々と台無しだ。

 この男、確か以前に賄賂を渡した事があったはずだ。しかしそれでも捕まえに来たって事は色食街(しきしょくがい)の連中にそれ以上の金を掴まされたって事か。資金力で勝てないとこで差が出たか。

 あー面白くない。


「ポチ、抵抗せず大人しく捕まった方がよさそうだ。……この子はどうなるんです?」

「どうもしないさ。我々が受けた命令はお前を拘束するという事だけだ。おい、連れて行け!」


 俺は杖を奪い取られ、複数の警備兵に囲まれながら雨が降り始めた外へ押し出された。

 外では街の人間が騒ぎを聞きつけたのか集まっていた。中にはアイリーンの姿、遠目にブルーツやブレイザーの姿もあった。

 なんだよアイリーン。そんな不安そうな目で見るなよ? ポチを頼んだぞ。あ、嫌そうな顔された。


「マスター!」


 そんな声を背中で聞いた。

 ガヤガヤという喧噪が俺の周りを覆って、警備の強引な腕の掴み方が嫌で腹立たしい気持ちになった。


 ベイラネーア警備隊。

 各街には必ず警備の者が国から派遣されている。これは独自の指示形態で動いているが、実際のところまともに動いているとは思えない。

 警備は平気な顔して犯罪行為をするわで街の人間からも煙たがられている。勿論中にはまともな人間も見受けられるが、その内情から大きく動けないという話もよく耳にする。

 それもそのはずで、基本的に警備の職に就く者は国という機関からあぶれた者という事だ。実力は並みの戦士以下、しかしその性質(たち)は野盗以上に悪かったりする。困ったものだが、上からの命令は聞くので国も持て余してはいないみたいだ。

 実際このベイラネーアに限っては魔法大学や戦士大学があるし、六法士だって在中している。

 警備方も基本的には大事(おおごと)にしたくないし、目立って犯罪行為をする者も少ない。それに頼りになる冒険者もいるしな。


 俺は両手を鉄の錠で縛られベイラネーア東区にある特殊収容所へと移送された。ここは主に強力な犯罪者を収監する場所となっている。

 壁は分厚く高い。特殊合金の牢もあり、力でなんとか出来るかといったら、魔法士はおろか、ランクSの戦士でも脱走は不可能だろう。

 勿論、魔法士ならば脱走が出来ない訳じゃない。魔法を使えば合金を溶かしたり土を掘ったりも出来るし、俺がやろうと思えば土から牢の鍵を作る事だって出来る。

 だからこそ有効なのはこの鉄の錠だ。

 これは一種のアーティファクトで、腕を押さえる部分に特殊な魔法陣が描かれている。魔力を抑え、発動の制限も出来るという俺にとってかなり不都合な代物だ。


「ここに入ってろ!」


 ゴツゴツした岩に囲まれた冷たく寒い部屋。俺がランクAという情報は知っているはずだが、同時に魔法士だという事も勿論バレているからな。

 俺の腕力じゃここで何も出来ないという判断だろう。

 椅子もなく、寝床も毛布が一枚のみ。窓もなく光は正面廊下の端の方から零れる火の光のみで、その近くには人間の気配。

 看守こそ仕事をさぼればいいと思う。

 第一の問題は――


「すみません」

「なんだ?」

「ご飯は何時ですか?」

「そんなものがあると思ったのか?」


 あれ、もしかして殺す程お金もらってらっしゃる?


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― 新着の感想 ―
少人数を救済して見通しが立つまで面倒を見る程度の善行ならともかく やりすぎて自業自得、身から出た錆としか思えない。
[良い点] アズリーは人が良すぎるな そこがいいんだけども
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