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悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ 作者:壱弐参

第二章 ~色食街編~

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050 メルキィという人間。アズリーという人間。

 俺は炎の壁の前に集中したマーダータイガーを魔法の範囲内に捉え、いつぞや笑う狐のメンバーに放った魔法、グラビティストップを放った。
 瞬時に青と赤の光に包まれる俺たちとモンスター。直後、マーダータイガーの身体に強烈な重力負荷がかかる。

「「「なっ!?」」」
「す、凄いアズリーさん……っ」
「へぇー、面白い魔法を使うね……」

 そういやリナにも初めて見せたかもしれないな。
 メルキィの反応からして流石に知らないみたいだが……っと、今はそんな場合じゃないな。

「今だ、各個撃破!」
「お、おう!」
「あいよ!」
「サンダーボルト!」

 すぐさま雷魔法を放ったオルネルはやはり判断が良い。パーティリーダーとしての資質は高いな。
 その後、周囲の掃討に時間はかからなかった。
 オルネルのサンダーボルトで弱ったマーダータイガーに、ミドルスとイデアが(とど)めを刺し。
 バラードはマーダータイガーの首を雑巾でも絞るようにキュっとして笑顔で戻って来た。これには流石のリナも苦笑いだ。
 なにあれ怖い。

「へっ……や、やったぜ……」
「…………くっ」
「アズリー助かったよ。よくアタシたちがここへ来たってわかったわね?」

 そりゃあダンカンに断られたらこういった行動に出るって判断してたからな。

「勘ですよ勘」
「アズリーさん助かりました!」
「おう、中々いい動きだったぞ、リナ」
「アジュリーしゃま、これいりましゅか?」

 亡骸をお人形のように渡さないで頂きたい。

「いらないです」
「わかりましゅたー!」

 さて、流石に警戒が緩んでしまっているな。
 九死に一生とまではいかないまでも、ここまでの強敵とは中々戦う機会も無かっただろうな。

「黙っておく気かぃ、アズ君?」
「いえ、それは流石に危険ですよ。どうですか、います?」
「南に九十。そこに異変を感じたよ」
「そうですか、ではゆっくりと向かいましょう」

 俺とメルキィのやり取りが気に障ったのか、オルネルが割り込んできた。

「どういう事だ、アズリー? 何が危険だと言うんだ?」

 そういう訳でもなさそうだな。単純な興味というよりちょっとした警戒か。

「ははは、君さー、本当に討伐を受けようとしたんだよね? だったら自分たちが戦ったマーダータイガーの死体を数えてみたらどうだぃ?」
「と、いうことです」
「そうか……討伐数は六体、だったな」
「わ、そうでした! 私すっかり気を抜いてしまいました!」
「そっ、今気を抜いた人はみーんなまだまだ未熟って事さ。そもそも街の外で気を抜くって事自体が異常なんだよ」

 メルキィの指摘に皆が顔を曇らせる。
 ランクBで一流の冒険者とは言ったものだが、こういうのは年齢もあるんだろうな。社会勉強も大事という事か。
 オルネルなんかは順応力が高いみたいだし、すぐに第一線で戦えるんじゃないか?

「アズリー……」
「どうしました、オルネルさん?」
「リナを……その、危ない目に遭わせてしまった。……すまない」

 あれまびっくり。
 これはちょっとした成長だな。リナの保護者のような立ち位置の俺に対する謝罪だが、この言葉には俺個人への感謝の意味も込められている。
 すぐに顔を背けられたが、さすがに俺も顔が綻びてしまった。
 遠目でそれを見るリナの嬉しそうな笑顔。これは卑怯だな。

「では行きましょうか」

 俺がそう言った時、上空から小さな影が接近してきた。
 あれは――ホーク? アイリーンが使いに出したのか。

「お、いたな、タコ助ども! (あね)さんから伝言だぞ! 心して聞きやがれ!」

 俺の頭で野太いがなり声をあげる雀は、背後にいる四人に対して手厳しい言葉を送った。

「一週間の外出禁止じゃボケェッ! おっと、ボケは言っとらんぞ。俺なりのスパイスだと思ってくんな! 確かに伝えたぜ! で、タコ助、次はお前ぇだ!」
「なんでしょう?」
色食街(しきしょくがい)に異変ありだ! もし次に娘を買うような事があったら気を付けやがれ! ボケがっ!」
「異変……はい、『わかりました』と伝えて下さい」
「おうよ! じゃあなタコ助ども!」

 相変わらず五月蠅い雀だ。
 しかし色食街(しきしょくがい)に異変……どういう事だ? アイリーンが何か掴んだんだろうか? とりあえず後で行ってみるか。
 俺はオルネルたちを先に街へ帰し、メルキィと共に最後の一匹であるマーダータイガーを仕留めた。ダンカンの言葉からしばらく周辺を探索したが、それ以上のマーダータイガーを見つける事は出来なかった。
 帰り道、俺はメルキィに先程の質問をぶつけてみた。

「メルキィさん……あなたは一体何者なんですか?」
「そうだね、せっかく二人っきりになったんだ。答えてあげようじゃないか。でも、その代わり私の質問にも答えてもらうよ? いいかなアズ君?」
「答えられる範囲であれば……」
「にゅふふふふ、いいよいいよー。じゃあまずは私の正体からだ。私は国とは違う機関の間者、そうスパイさ」
「随分オープンなスパイもいたもんですね」
「いやー、別に敵対してる訳じゃないしねー。私のここでの主な任務はベイラネーアで完成したという『空間転移魔法』の調査。私もさっきの坊ちゃんたちと同様で修行中の身だったけども、師匠の言い付けでここまで来たのさ」

 この強さで師匠がいるとかとんでもないな。
 下手すりゃ六法士レベルの強さだったぞ、メルキィは……。

「そして、王都に近いこのベイラネーアのギルドで実力のありそうな人間を張ってみたら、アズ君が引っ掛かったって訳さ。本当は製作者のアイリーンがよく来るって聞いてたからなんだが、どうやら僕はアタリを引いたみたいだからね~」
「アタリ……ですか?」
「アズ君、どうやら僕の調査対象は君みたいだね。悠久を生きる仙人候補ってね?」

 背筋がぞくりとした。メルキィの碧眼がボォっと光り、揺れ蠢きながら俺の心臓を掴むように視てくる。
 俺の称号にメルキィが何かを含んだ無邪気な笑みを見せる。
 重さや鋭さはないが、全てを見透かし俺の正体を見破ったこの瞳は……もしかして、

「ま、魔眼……?」
「そ、正解っ♪ 正確には人工の魔眼だけどねー。自分で目をくり抜いて移植したんだ。いやー、あの時は師匠にこっぴどく怒られたな~」

 想像を絶する神経だな。

「その鑑定眼鏡、良いセンはいってるけど、情報開示の魔術を施した魔眼には敵わないさ。あ、因みに君が視た私のステータスは一時的に発した情報封鎖の魔術だよ」
「魔術が使える……それも超古代の高等魔術……では、あなたはダークエルフの?」
「そ、僕は人間だけど師匠はダークエルフさ。訳あって身を隠してるけど、師匠は超が付く程凄いよ〜。なんたって《極東の賢者》と呼ばれる人物だからね」
「賢者……つまりメルキィさんは……」
「にゅふふ、そう、つまり僕は賢者の弟子なのだ、えっへん!」

 鼻高々に胸を張ったメルキィは年相応に見えたが、その女の子は俺に対してとんでもない情報をもたらした。
 極東の賢者……聞いた事がある。しかし聞いたのはこの時代(、、)じゃない。
 四千年程前、ポチと出会うもっと昔に風の噂で聞いた。確か、全てを超越する人物だと。

「さて、整理は終わったかな? 僕が話せるのはここまでっ。次はアズ君の番だよ〜?」
「…………」
「設置型空間転移魔法を発明したのは君だね? アイリーン如きに辿り着けるはずはないからね。でも、仙人候補なら可能でしょ? ふふふ」
「隠しても無駄みたいですね……」
「にゅふふふ、これは僕の答え合わせみたいなものだからね。あ、間違ってたら言ってよ? それじゃあそんな長い期間生きてきたアズ君が調査したいのはこの世界の事……つまり国の事だろ? うんいいね、いい表情だよ。顔はちゃんと答えを出してくれる。そんなアズ君は最近の話題の的らしいね。さっきの色食街(しきしょくがい)の話を聞いてピンときたよ。これも狙いは良いけど少し惜しい。間も無く綻びが見つかり始めるよ?」
「……どういう事ですか?」
「人間を舐めちゃいけないって事さ」

 ……胸騒ぎがする。早いとこ帰った方が良さそうだな。

「そう、帰りを急ぐアズ君に、僕は気を遣って最後の質問としよう」
「…………」
「これは興味本意。答え合わせでもないよ。アズ君、なんで魔法大学なんかに入ったんだい? 君なら王都へ行ってもっと違った方法で情報を集められたはずさ? 何故だい?」
「……わかりません」
「そう答えた方が楽だろうね。リナちゃんの為と言っても楽だろう。リナちゃんを入学させて消える事も出来た。けどそれをしなかった。つまり君は魔法大学に入りたかったのさ」
「魔法大学に……入りたかった?」
「自分の力を試したかった。周りと見比べてその立ち位置を確保したかった。リナちゃんという存在に甘えてそれに寄りかかっていたかったのさ」
「ち、違う!」
「違くないさ。客観的に判断して、君の性格から分析して、否定出来る部分があるかい? ないでしょう?」
「あなたに俺の何がわかるんですかっ」
「はははは、アズ君の事はわからなくていいんだよ。答えを出してくれるのはいつも結果さ。結果として君の周りで起きた事はなんだい? あの坊ちゃん、オルネルといったね。坊ちゃんがあれだけ君を妬んでいるのは何故だと思う? 君に見比べられていると感じているからさ。勿論、あの坊ちゃんの独りよがりかもね? しかし過程は問題じゃない。さっき言ったよね、周囲の結果が君という個を形成するんだ。僕はそこから答えを導き出したに過ぎないんだよ」
「お、俺に、何が言いたいんですか……」
「別に? アズ君が少し苦しんでるみたいだったから僕が代弁してやっただけさ?」
「代弁……?」
「アズ君、君は自分を人間じゃないと思ってる節がある。短い時間だけどそれは本当によく感じたよ」

 確かに……以前フォールタウンで自分の感情の欠落を感じた。そうか、俺は――

「でも安心してよ。そんな人間(、、)なんて山ほどいるよ。さっき言った事も全て人間(、、)しか形成出来ない結果さ」

 俺は――

「そう、たとえ長く生きようと……君は人間だ。それは間違えようもない事実であり、生まれた時から決まってた結果さ」

 ――誰かに人間(、、)だと言われたかったんだ。

「………………ぁ」
「ほら、出るじゃないか……涙」
「……本当だ……」
しゅんとしたので連続でもう1話いっちゃいます
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