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悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ  作者: 壱弐参
第二章 ~色食街編~

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049 謎の人物《メルキィ》

「改めて初めまして。アズリーといいます」

「うんうんアズ君だね、よろしく~」


 アズ君? そんな年上っぽく感じないが……勿論俺の公式年齢から見てだが。

 そういえばこの人……――。


「で、あの子たち出て行っちゃったみたいだけど? 流石に恥ずかしくて今日はやめとくってところかね?」

「そんな人たちだったら楽なんですけどね」

「どこに行くんだい?」

「あまり乗り気じゃないんですけど、マーダータイガー討伐です」

「……面白そうだね。付いて行っても?」

「勿論です」


 俺がそう言うとメルキィはウィザードハットにポンと手を置き、少し深く被り直した。

 ダンカンの下へ行くと、オルネルから取り上げた討伐書を持っていたので、俺はそれを指差しながら言った。


「それ、受けてもいいですか?」

「アズリーちゃんが? んー……今日はポチちゃんいないんでしょ? 銀の誰かが来るまで待った方がいいんじゃない?」

「大丈夫です。メルキィさんも手伝ってくれますし、いざとなったら逃げる術はもってます」

「…………そっ♪ それじゃあお願いしちゃおうかしらね〜。マーダータイガーって群の正確な数がわからないから気を張ってるのよ。アズリーちゃんなら安心だしね♪」


 ダンカンは判子を押して受理された討伐書を俺に渡した。

 外に出るとメルキィが小首を傾げながら話しかけてきた。


「アズ君アズ君、何故メルと呼ばなかったんだい? 気軽に呼んでくれと言っただろう?」

「気軽に呼べないからメルキィさんと呼びました。こういうのは時間が必要だと思いますから」

「ふーん……君が時間(、、)をねぇ?」


 なんだ、瞳が薄く光って一瞬揺れたような……?

 ……気のせいか?


「まぁいいよ、さっさとマーダータイガーを倒しに行こうじゃないか」

「えぇ、勿論です」


 マーダータイガーの発見情報は北東の森の中。

 勿論、道中他のモンスターに遭わない訳ではない。


「前方二百、ダイルファイターが三、その奥ジャミングキラービー十だね」

「はい、ファイア! ほほい、ファイアピラー!」

「アズ君、今のはアースブラストを使った方がいいよー」

「あ……はい」


 銛を片手に持つ鰐のモンスター、ダイルファイターと、羽音に宙図(ちゅうず)の妨害効果がある魔法士の天敵ジャミングキラービー。

 メルキィはキラービーの倒し方について地面発火型魔法ファイアピラーではなく、地盤を砕くアースブラストを指定した。

 確かに回避される確率を考えたらメルキィの言う通りだろう。

 しかしこの人、さっきからずっと戦闘を俺に任せてるけど、どういう考えだ?

 それにモンスターの発見が異常な程早い。

 上手く戦術として機能しているので何も言わないが、普通のパーティだったら問題行動だぞこれは。


「前方百七十、厄介だな。フレッシュゾンビ発見」


 ランクBのゾンビモンスター。死後間も無い死体がゾンビになった珍種。問題なのは素早さだな。

 ゾンビは身体の腐食のダメージから速く動く事が出来ない。しかしフレッシュゾンビに関しては傷や腐食が少ないからな。

 そして、ゾンビ並みの力があればその速度は異常だ。メルキィが厄介だと言うのも仕方がないだろう。

 俺が杖を構えるとメルキィはその前に立ってぶんぶんと腕を回し始めた。手で自身の頭を掴んで首をポキポキと鳴らした。恐ろしいほどその体躯に似合わない行動だな。


「やる気ですか?」

「んー……っと! うん、あいつは僕がやろうじゃないかっ」


 大きく背伸びした後、メルキィはスッと腰を落とした。

 前方二十メートルに(せま)ったフレッシュゾンビは、メルキィを視認するとその場を一足飛びした。が、しかしその宙では、いつの間にか俺の前から消えたメルキィがフレッシュゾンビの頭を掴んでいた。

 メルキィはそのまま頭を大地に落とし、俺の足元を揺るがした。


「す、すげ……」

「なははは、そんな言葉を漏らされるとなんか照れるね~っ」

「メルキィさんは……その、戦士だったんですか? てっきりその格好から魔法士かと……」

「にゅふふふ、おかしな事を言うねアズ君は? そもそも冒険者に戦士と魔法士で分ける必要はあるのかい? それともそれが慣習だから自然と国に飼い慣らされちゃったのかな? でもま、魔戦士だの魔剣士だのと言ってる人間たちには、一生わからないかもしれないけどね」

「む…………あぁ、確かにそうですね」


 考えてみれば昔からあるというだけで魔法士だの戦士だのと言われてきたのか。俺の鑑定魔法でも魔法士は称号の一部だった。そして戦士の称号というのはない。

 俺が下界で育った十数年でも、確かにその慣習はあった。なるほど、慣習による思考の支配か。

 という事は、人は誰でも魔戦士なる人間になれるって事か。いや、メルキィの言う通りそういう言い方自体がそもそも間違っているのか…………けど、メルキィのこの考え方は一体?


「ほぉ、やっぱり白黒(びゃっこく)の連鎖の契約に縛られていないのか。この言を受け入れるとはね。魔法大学生なのに面白いねぇアズ君は」

「…………」


 変だ、白黒(びゃっこく)の連鎖の契約文には今俺とメルキィがやり取りした内容ととれる事は書いていなかったはずだ。

 確かに契約を結んではいないが、その答えに行きつくという事は、契約の最たる部分を知っているという事か?

 この人……一体何者なんだ?

 瞬時に鑑定眼鏡を起動した俺は眼前に浮かぶ情報に驚愕した。


「なっ……」


 ――――――――――――――――――――

 メルキィ

 LV:???

 HP:?????

 MP:?????

 EXP:?????????

 特殊:???

 称号:???

 ――――――――――――――――――――


 情報が読み取れないっ?

 焦りながらも俺は自分のステータス情報を見てみた。


「そう、ちゃんと自分には使えるだろう?」


 思わず息を呑んだ。

 メルキィの言葉通り、確かに自分の情報はいつも通り見る事が出来た。しかし、メルキィは俺の不可視コーティングしてある鑑定眼鏡の特性に気付いたのも勿論の事、発動のタイミングまで読んだ。

 いや、見えたと言うのが正しいだろう。


「あなたは……――」

「おっと、その話は後だよアズ君。今はマーダータイガー討伐が優先だろう? 大丈夫、逃げやしないからねぃ」

「……そうですね」


 丸め込まれた……というわけではないが確かに最優先なのはマーダータイガーの討伐だ。これだけ急ぐのには理由がある。


「リ、リナ! バラードを出せっ!」

「は、はい!」


 そう、彼等の救出をしなくてはいけないんだ。


「ほいのほいのほい! ハウス!」


 遠方で固まりながら戦うのはオルネルとリナ、そして前で粘るのはイデアとミドルスだ。

 灰色の虎、マーダータイガーの数は五。集団戦闘においてはランクAを上回る戦闘力だと考えられる。


「あれは……バラッドドラゴンかっ? なるほど、確かにあいつがいるならあの坊ちゃんの判断で戦闘になったかもね」

「いえ、おそらくバラードは……――」


 駆ける俺たちの瞳の中でリナがバラードに指示を出す。


「うっきゃー! 待つでしゅ待つでしゅー!」

「……お粗末だな、たった一匹を追い回している。戦闘の流れをまだ読めない年の頃だったのかぃ」


 バラードの戦闘力は確かに脅威だが、素早く動くマーダータイガーを追えるのは一匹。動かぬ壁として機能させるならまだしも、まだ慣れない前衛で戦うならば相対出来るのは、やはり一匹なのだ。


 四対四。

 片やランクB一人にランクCが三人。片やランクBのモンスターが四匹。

 そして魔法士が苦手とするタイプとならば、単純計算でこちらの必敗。


「テンションアップ! けん制します。ファイア!」

「一匹は何とかしよう、ふっ!」


 ……凄い女の子だな。射出速度の上がってるファイアの真後ろにピッタリ付いて行ったぞ?

 遠すぎたからか、案の定ファイアはマーダータイガーにかわされて地に着弾した。その衝撃を脇目にオルネルが反応する。


「アズリー!?」


 そう、オルネルが捉えたのは俺だけだ。

 ファイアの消失と共に、天から現れて最も前に出ているマーダータイガーの脳天に強烈な蹴りを入れたメルキィを、誰も捉えられなかったのだ。

 蹴りが頭を砕き、その頭が地を砕いた音で皆が気付く。マーダータイガーの頭蓋の上にふわりと降り立つ女の子に。


「さぁ、僕のノルマは達成したぞ。あとは君次第だよ、アズ君?」

「待つでしゅ待つでしゅー!」


 ……あっちのマーダータイガーはある意味可哀想だ。

 無邪気に追い掛けるバラードはある種の怪物だからな。


「ミドルス、自身に硬化魔法だ!」

「なっ!?」

「イデア、ミドルスに速度上昇魔法!」

「わかった、よ!」

「オルネル、イデアをフォローしろ!」

「くっ!」

「リナ、全てに気を配れ!」

「はい!」


 初動が一番遅いと思ったミドルスに最初に指示を出して正解だったな。

 イデアの反応でミドルスが続いた。オルネルも大人しく従ったのは驚きだけどな。


「これでいいんだろ! ガードアップ!」

「任せたよ、ミドルス! スピードアップ!」

「イデア、下がれ! リジェネーション!」

「――のほい! ミドルスさん、リジェネーション!」

「リナ、いいぞ! オルネル、時間を稼いで攻撃をミドルスに集中させろ! イデア、バラードに速度上昇魔法だ!」

「舐めるな! ファイアウォール!」


 さすがオルネルは判断が早い。瞬時に炎の壁をミドルスの両サイドに放った。これでミドルスに攻撃がいく。


「ミドルス、前だけに集中しろ!」

「くっ、はぁっ! だぁあああっ!」

「イデア、ファイアウォールの上を跨がせるな!」

「スピードアップ! 人使いが荒いね、あいよ!」

「イデアさん、左は私が見ます!」

「オルネル、皆の怪我に気を――」

「わかってる! くそっ……」


 よし、これで形は成った。本来ならミドルスの位置をバラードに任せるのが最適なんだが……


「うきゃー! 捕まえましゅたよリナしゃまー!」


 ……教える事も多そうだな。

 おし、出来た。


「エネミートラップ! グラビティストップ!」

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