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悠久の愚者アズリーの、賢者のすゝめ  作者: 壱弐参
第二章 ~色食街編~

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048 相性と特性

「だーかーらー、ちょっとした討伐だって言ってるじゃないか!」

「ちょっとした討伐でもなんで私を連れて行かないんですか! マスターの身の安全こそ、私には最優先事項なんですよ! あ、なんでもありません! 今のは聞かなかった事にしましょう!」

「聞かなかった事にしてやるから今日は大人しくここで待っててくれよ! ベティー(、、、、)ブレイザー(、、、、)ブルーツ(、、、、)も出払っちゃってるから店のセキュリティが心配なんだよ!」

「だったらマスターも残ればいいでしょう! あ、さては私を捨てる気ですね!?」

「捨てねぇよ! お前がいないと生きていけないからな!」

「まぁ嬉しい! 私もマスターしかいませんよ!」

「じゃあ行ってくる!」

「行ってらっしゃいませ!」


 過酷な暮らし……かと思いきや、結構充実する毎日を送っている今日この頃。ブレイザーとベティーの加入もあって、初期の計画通りに事は進んでいる。

 既に十数人の娘を買い、今やポチと春華が皆の面倒を見ている。

 勿論これはプライベートにおける部分であって、一般教養に関する授業に関しては、アイリーンの伝手で有能な教職を手配してもらった。教材については、原本と紙さえ用意すればレターエディットの魔法でなんとかなるし、簡単な計算などは俺も教える事が出来る。そしてその才能はポチの方が上だったりする事もしばしばある。

 当初問題視されていた色食街(しきしょくがい)からのクレームだったが、これについては冒険者ギルドのダンカンが広めた噂が効いているとの事だ。内容は至極単純で、ランクAの冒険者が新たに起業して人買いの仕事に着手したという噂だ。

 大市場の協会に正式な手続きは済ませているし、街の警備などにくれてやる賄賂も大事だ。

 商売とはいえあくまで人買い。こういった世渡りも必要となる。ここまで筋を通されてしまうと色食街(しきしょくがい)からは中々手を出すことが出来ないのだ。勿論ここまでは最初からやるつもりだった。しかし、それに加えてダンカンの噂が凄まじい抑止力となっている。

 ここ数ヶ月、ベイラネーアの冒険者ギルドで《銀》の名前は非常に大きいものになった。三人は元々活動拠点を置かない為、そこまで有名なチームではなかったが、この街を拠点に置き、活動を始めるとその実力は魔法大学でも耳にする程になった。そんな銀が商売を始めた。

 最初は市民が難色を示したが、俺たちの活動の実態を知ると、人知れず応援の声を聞く事もある。

 ありがたい限りだが、応援では腹は膨れない。だから皆一生懸命に頑張っているし、精一杯生きているんだ。


 俺はポチといつものようなやり取りを終えると、ランクBの適当な仕事を探しにギルドへ来た。

 ランクAになった俺だが、流石にAの仕事をし続けるのは身体にも精神的にもよろしくない。こういった内情から、仕事のランクを落としコンスタントに稼ぐ事も必要になってくる。

 さて、今日はなにか割の良い仕事は……――ん?


 掲示板を見ているとギルドの奥から騒がしい声が聞こえた。


「なんだとチビッ! もっぺん言ってみろや!」

「アタシ達のどこが腑抜けだってんだい!」

「聞き捨てならないぞ、私たちは魔法大学の――」

「その魔法大学って名前に頼ってるから腑抜けだって言ってるんだぃっ。死にたくなければその依頼を僕に譲りな」

「あ、あの……皆さん、落ち着いて下さいっ」


 見た顔が四人、そして、初めて見る顔が一人いた。


「リナ、何かあったのか?」

「アズリーさん!」

「「なにっ!?」」


 オルネルとミドルスが睨んでくる。なるほど、冬休みを利用した討伐でパーティを組んだのか。

 ………………え、この四人が?


「アズリー、お前何しに来た!」

「討伐の仕事を受けに来たんですよミドルスさん。それより何の騒ぎですか?」

「えっと……この子が……」


 リナは控えめに視線を誘導して、やたら自己主張の激しそうな女の子の方を見た。

 特徴的なダークブラウンのウィザードハットを深く被った金髪碧眼の女の子。

 体格はリナとアイリーンの中間という感じで、どこか中性的な印象だ。ぽこりと出ている胸がなければ女だと分からなかったかもしれない。髪もそこまで長くないしな。

 ハットと同色のワンピースタイプのローブを着ている。


「この子がアタシたちにこの討伐は無理だと言ってきてね。ちょっとアタシたちも熱くなっちまったんだよ」

「そういう事でしたか、イデアさん」


 ここ最近イデアはあまり俺に突っかかって来ない。むしろ友好的だと言ってもいい。おそらくアンナやクラリス、そしてリナの協力の賜物だろう。


「無理な輩に無理と言って何が悪い。いいからその仕事を僕に回すんだよ」


 なんだろう……この変な感じは。この子、他の魔法士と少し違う印象というか圧力がある。

 声の重みと厚み。そして滲み出るこの魔力……?


「失礼を承知で聞きますが、一体どういう討伐なんです?」

「君には関係のない事だアズリー」

「オルネルさん、魔法大学の名前を出すのは確かに感心しません。その名前を出して何か失敗が起きた時、責任を問われるのは大学側ですよ?」


 俺の言葉にオルネルがたじろぐ。ぐうの音くらいしか出ないんだろう。

 すると、俺を見て女の子が小さく口笛を吹いた。


「へぇー、少しは話のわかりそうな奴がいるじゃないのさ」

「アズリーといいます。あなたもあなたですよ。本来掲示板から剥がされた討伐の優先権は覆る事はありません。それに彼等も可能だと判断したからその討伐を請け負っているんです」

「ご学友が死ぬよ? それでもいいのかい?」


 またこの圧力。

 まるでガストンやアイリーンを前にしているみたいだ。いや、それ以上か?


「因みにそのお嬢ちゃんだけはちゃんと自分の分をわかってたみたいだけどね? 強引な仲間だ、断れなかったんだろうね」

「リナ、悪いけど教えてくれないか?」

「えぇと……ランクBのモンスター、マーダータイガーです……」

「何体?」

「六体です」


 なるほど、この中でランクBの仕事を請け負えるとしたら……オルネルだろうな。つい最近ランクBに上がったという話を聞いた事がある。

 だとするならば周りを他のランクCで固めて、主軸をオルネル。最悪の場合はリナのバラードを戦闘に出せばなんとかなると思ったんだろう。

 マーダータイガー……。伝説の霊獣灰虎(はいこ)の化身と言われる肉食型のモンスターだ。

 魔法士との相性が非常に悪く、逆に戦士向き(、、、、)のモンスター……だからこの女の子はリナ達を止めたのか。

 だったら――


「問題ないでしょう」

「な、正気かっ?」

「邪魔してすみませんでしたオルネルさん。どうぞ気を付けて」

「…………ふんっ。行くぞ皆!」


 オルネルはミドルスを連れ、討伐の依頼書を手に持ち、俺を一瞥してダンカンの所へ向かった。

 リナも困った様子だったが、俺の言葉で決心がついたのか、小さく鼻息を吐いてイデアの後ろを追った。


「……後ろからこっそり付いて行って助けでもするつもりかい? どう考えてもあの子たちにマーダータイガーは無理だ。ランクAの魔法士でも極力近付かないんだぞ。おい、聞いてるのかぃ?」

「大丈夫ですよ。あの四人は、目的地まで辿りつけませんから」

「どういう意味だ?」

「ベイラネーアにはですね? それより怖い門番がいるんです」


 俺が女の子に振り向きながらそう言った瞬間、さっきまで追っていたリナの背中の先から大きな声があがった。


「どういう事ですかっ!? 何故受理されないんです! 僕は先日ランクBに――」

「もぉやだ~! どういう思考でランクBになりたてのボンボンがマーダータイガーを狩ろうってのかしら~♪ ここではアタシの言う事が絶対なの♪ この依頼を受けたかったらランクSにでもなるのね。マーダータイガーは群れを成せばランクAすらも捕食するからね~♪」


 ギルド中に怖い門番ことダンカンの声が響く。野太く、それでいて女性らしからない強烈な声だ。

 その時、ギルド内の冒険者たちの笑い声で沸いた。


「はははははっ! そいつぁ戦士向きのモンスターだからな! リナちゃんがいるなら俺が付き合っちゃうよ~っ?」

「うふふふ、僕たちー、お姉さんが一緒に行ってあげようかー?」

「魔法大学ってのはモンスターとの相性も教えてくれねーのか! ぎゃはははは!」


 瞬間的に湯が沸騰するようにオルネルの顔が紅くなり、釣られてミドルスも縮こまる。

 リナはパッと明るい表情でこちらを振り向いた。「これも勉強なんですね!」と、まるでそんな表情だ。

 そんなリナを見てイデアが俺を見る。「性格が悪いね」と、まるでそんな表情だ。

 以前俺がウォレンに言った言葉を思い出すが、アレと一緒にされるのはなかなかに苦しいものがあるな。


「ほ~、腕の良いギルド員もいたもんだね。こりゃ僕の出る幕じゃなかったねぃ」

「いえ、本当ならダンカンさんもあそこまでは言わないですよ。だけど、あれは『モンスターの特性を予め勉強しておけ』と学ばせる意図が込められた説教ですからあんな風に言ったんでしょう。俺の学友と生徒を助けて頂き感謝します」

「ん、生徒? 学友ではないのかい?」

「あのリナって子は昔俺が指導したんですよ」

「へぇー、道理で…………ん、おっと挨拶が遅れたね。僕は《メルキィ》。気軽にメルって呼んでおくんなさいなっ」


 メルキィ……不思議な空気を纏うこの女の子は、俺の中にある何かを変える力を持っているようだった。

 吸い込まれそうな程の碧眼の魔力に、俺は一つ、唾をごくりと飲み込んだ。

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