◆エピローグ05:女同士の語り合い
「ミドルス! お前、最近イデアと良い感じじゃねぇか! そこんとこどうなってんでぇっ?」
「酒臭っ!? ちょっとブルーツさん、呑みすぎっすよ……」
「あぁん? 呑まなかったら教えてくれるって事でいいのか? おし! アズリー! リカバー頼まぁ!」
「ほい、リカバー」
「ぶるるるるるぁ! さぁミドルス君、お兄さんに話してごらん?」
「深夜のテンションは残ってるじゃないですか……」
体内からアルコールが解毒され、爽やかスマイルを向けたブルーツだったが、付き合いが長いせいか、ミドルスに全て見透かされていた。
「んだよ、いいじゃねぇか減るもんじゃなし」
「言わないとは言ってないですよ」
「お! て事は、やっぱ良い感じなのかっ!」
「そ、それは…………まぁ?」
少しだけ嬉しそうにはぐらかすミドルスのぎこちない笑い。
「おぉ! やっぱそっかー! イデアのヤツ、『後が閊えてる』とか言ってたもんなー! はははは!」
後輩の成長と、その進展を嬉しそうに聞くブルーツが、ミドルスの背中をバシンバシンと叩く。当のミドルスも、恥ずかしそうにしながらも、嬉しそうにブルーツの当たりを受けている。
すると、貸し切りの居酒屋の扉が開かれた。
現れたのは、焔の大魔法士と、古代の聖帝。
「レオン! ガストンさん!」
アズリーが二人を出迎えると、レオンが会釈をし、ガストンが皆に口を開く。
「すまんな。少し遅れたか?」
「構いませんよ。薫さんたちと大事な話があったんでしょう?」
「む、まぁな」
ガストンはライアンとレイナの結婚式に参加した後、レオンと共に薫たちの下へ向かったのだ。そして、その話し合いの後、この飲み会に駆け付けたのだ。
「あ、でも席がカウンターしかないか」
アズリーが周囲を見渡すと、カウンターの席しか空いていなかったのだ。
カウンターにいたのは、ブライトとバルン。
「構わぬ。ブライトとバルン、そしてレオンと共に話すのも悪くなかろう」
ガストンがそう言うと、アズリーが微笑みながら頷いた。
「それにしても何の話をしてたんです?」
「神聖国の法や秩序、文化についてです」
アズリーの話にレオンが答える。
「あー、それでレオンか」
「トウエッドにも情報は残っていますが、やはり風化しているものが多く、私に聞くのが早いと」
「僕の持ってる情報は古いですから」
そう言ってアズリーの後ろからやって来たのはブライト。
「陛下、こちらに」
「ありがとう」
ブライトの案内により、レオンが奥に進む。
ガストンが後ろから付いていこうとした時、アズリーが気付く。
「あれ? そういえばコノハさんはいないんです?」
「コノハなら魔法兵団と戦士兵団の集まりがあるとか言ってたな」
「へぇ~、それはそれで面白そうですね」
「だからエッグもオルネルもおらぬのだろう。その内来るかもしれないがな」
「そうなるといよいよ立錐の余地もないですね」
「確かに、あぁ、そういえばこちらでは鮨詰めになる……というそうだな」
「鮨詰めか~。あの形を知ってるからこそ、なんとなくわかります」
「国の違い、文化の違い、人の違い、それは些細なもの。しかし、その微細な違いこそ面白い」
「はははは、年寄り臭いですね」
「はっ! 小僧が言うか?」
「何でも今日は無礼講らしいですよ?」
「ならば酌をしろ、小僧」
「………………はて?」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
女性陣の飲み会――それは冒険者ギルドで行われていた。
女性のためならば、とダンカンがギルドの飲食スペースを貸し切りにし、皆に開放したのだ。
「あぁああああああああああああ~~~~~!! 楽しいぃいいいいいいっ!! ほい、リカバー! さっ! 呑むわよ!!」
既にベティーは五回のリカバーを行使し、その高揚感を楽しんでいる。
それに呆れるのは魔法士である同じチームのイデア。
「自分で魔法覚えたからって無茶し過ぎよ。少しは加減してくださいねー?」
「いいのいいの! 宙図出来なくなった時は、本気で止めてちょーだいっ!」
意外に自分の限界を知っているようなベティーの発言にイデアが感心するも、それは幻想だったと現実を見る。
「どこの誰がベティーさん止めるんです?」
「だいじょーぶだいじょーぶ! ほら、そこにポチがいるし、リーリアだってアイリーン様だっているんだから! あ、ダンカンでもいいんじゃないっ? アハハハハハッ!!」
「……この人相手に無礼講は無理ね」
誰に対しても反応が変わらないであろうベティーへの感想を、イデアは零すのだった。
そんな二人を遠目で見ながら、乾いた笑いを見せるのはアイリーン。
アイリーンの前に座るのは、二人の少女。
「はいアイリーンちゃーん!」
アイリーンの眼下にあるテーブルに置かれるナツのケーキ。
「ほらアイリーン、『ららふぁ~む』で採れた枝豆だぞ。泣いて喜べ」
ケーキには絶対に合わないであろう山盛りの枝豆。
「………………ありがとう」
そして、アイリーンの手には煎茶。
全てが紙一重で合わない様子に、アイリーンは沈黙を貫くしかなかった。
(何故私はこのテーブルに配されたのかしら……? せめて、せめてナツがトウエッドのお菓子を出せばまだ救いはあったのに!)
ケーキにも枝豆にも手を伸ばせないアイリーンのぎこちない笑い。
それを見て苦笑していたのは、カウンターに座るリナとリーリアだった。
「皆を監視するって言ってアルコール抜いたら、あの席になっちゃいますよね……ははは」
「ふっ、責任感が強いのも考え物ね」
「そういえば、リーリアさんも行くんですか? アレ」
「ん? もしかして魔王陛下の立国ってやつ?」
リーリアが聞くと、リナがコクコクと首を縦に振る。
すると、リーリアは嬉しそうにリナに言った。
「行くわ、当然ね。だって面白そうじゃない」
「はい! ですよねっ!」
「まぁ、どうしても行けない人もいるでしょうけどね」
言いながらリーリアはアイリーンに視線を戻す。
「ガストン様も、アイリーン様も、レガリアには、戦魔国には必要な方ですから」
「だからアイリーンからアズリーに条件が出たそうよ」
「へ?」
小首を傾げながらリナが言う。
「向こうに着いたらアイリーンの家とそこを空間転移魔法陣で繋げって」
「うぇっ!? レガリアやベイラネーアのような要所じゃなくてですか?」
「『私の家はベイラネーアにあるんだし問題ないわ』だそうよ」
「あ、あはははは……」
「それをアズリーに呑ませ……ウォレンに約束させた。まったく、本当に抜け目がない……」
「確かに、アズリーさんは忘れそうだけど、ウォレン先輩なら確実ですね」
「――ふふふふ、愛。愛だねぇ」
言いながらリナの隣に腰掛けたのは、一人の女。
「か、薫様っ!?」
リナがバッと立ち上がり驚きを露わにする。
「失礼な、あたしゃ潤子だよ。んでもってそっちが薫」
潤子はリーリアの隣に座った薫を指差す。
「し、失礼しました!」
深く頭を下げるリナに、潤子が目を丸くする。
「ぷっ、あはははは! そんなかしこまらなくてもいいさ。たまの宴会、楽しもうじゃないか!」
「は、はいっ」
リナが安堵の表情を見せると、ダンカンが二人の飲み物を持って来る。
四人がカツンと乾杯をした後、リーリアが聞く。
「薫、潤子、政務はもういいの?」
「じゃなきゃここに来られないよ」
薫がそう答えると、リーリアが静かに微笑む。
「ふっ、それもそうね」
やがて、カウンターを埋め尽くす程の料理やつまみが運ばれて来る頃、潤子が言った。
「ちょっと失礼」
それが離席する意味だと、三人はすぐ理解する。
レストルームへと消えた潤子を確認した薫が目を光らせる。
「リーリア、それとっておくれ」
「これ?」
リーリアが取って見せたのは……ハバネロソース。
「辛いのお好きなんですか?」
リナが聞くと、薫は首を横に振って答えた。
「まさか、私ら姉妹は二人揃って辛いモノが大嫌いさ」
「じゃあ何で――――っ!?」
言った瞬間、薫が潤子の飲み物の中にハバネロソースを大量にぶち込んだのだった。
「お、おい……」
流石のリーリアもこれが異常事態だと気付き止めようとするも、薫が止まる事はなかった。
「いいかい? 潤子にはバラすんじゃないよ……!」
物凄い目付きで言った薫に、リーリアが首を傾げ疑問を見せる。
直後、リーリアは気付く。
「ま、まさか……復讐か?」
「そ、潤子のヤツ、少なくとも十数年は私を騙してたんだからね。これくらいが丁度いいでしょう」
それは、アズリーが潤子に依頼した仮病が原因だった。
「やつれた化粧して食っちゃ寝してたんだよ、あの潤子は? あぁ、あの介護の日々を思い出すだけで腸が煮えくり返る……! レガリアから取り寄せた大好きなライチを私は二個、潤子は三個。全ては辛そうな潤子のため……それなのに、それなのに……! と、いう訳で、潤子は物理的に腸が煮えればいいと思ってね♪」
爽やかな笑顔で物騒な事を言う薫に、リーリアとリナは何も返せなかった。
レストルームから戻った潤子が口から火を吐き、薫が大声で笑っている頃、春華とフユ、レイナとマナが座る席では、違う話で盛り上がっていた。
「今夜が新婚初夜でありんすね、レイナさん?」
「ぶぅ!?」
レイナが口に入れた蜂蜜酒をぶちまける。
「コホ、コホッ! ちょ、春華ぁ?」
レイナは焦ってテーブルを拭き、フユは顔を真っ赤にさせている。
そしてそれはマナとて同じだった。
「何だぇ? 夫婦なのであれば当然でありんしょう?」
「いや、そうですけど! そうなのですけど!」
「それにここは女子会。殿方がいる訳でもあるまいに?」
「だからといって、ここで話すのもおかしいかと……その――って、え?」
困惑するレイナだったが、マナとフユの顔は真剣そのものだった。
「どうなの、レイナっ!」
「どうなんですか、レイナさんっ!」
戸惑うレイナに首を傾げた春華が気付く。
「つまり、全ての始まりは今夜なんでありんすか?」
言われた瞬間、レイナの顔が炎のように紅くなる。
すると春華は短い溜め息を吐く。
「そういえばそんな暇ありんせんでしたね。安心しておくんなまし。数時間後にはライアンさんの腕の中、八時間後には陽が昇っていんす」
世界の真理を説く春華を前に、レイナは両手で顔を覆っていた。
「ライアンさんの部屋の天井のシミを数えてれば終わりんす」
お茶を飲みながら淡々と言う春華の話の内容に、遂にフユが限界を見せる。
「だぁあああ!? フユが鼻血出して倒れたぁっ!?」
耳まで真っ赤にさせたフユが床に口づけしながらモゴモゴ唸る。
「まだ……まだ私は聞けます……! 聞けるんですぅ……!」
フユがそう言ったつもりでも、皆の耳には届いていなかった。
マナはフユを起こし、椅子に戻すと、アイリーンがそこへやって来る。
「まったく、しょうがないわね。ほいのほい、聖生結界」
フユの足下に敷かれた魔術陣が、フユの治癒を早める。
ホッとしたマナがアイリーンを見上げながら言う。いや、言おうとしたのだ。
「アイリーン様、ありがと――――ん?」
見ればアイリーンも顔を真っ赤にし、その場から動こうとしないのだ。
ナツたちの席に戻る気配はなく、片目を瞑りながら、春華の話の続きを聞こうとしているのだ。
そんなアイリーンの反応に、マナは気付く。
(最初から聞き耳立ててたな)




