◆エピローグ06:片隅の男と女
深夜の男子会、女子会は終わる気配なく、今も尚続いていた。
そんな中、元王都守護魔法兵団、守護勇士兵団もまた、別の居酒屋に集まっていた。
そこにはコノハ、ヴィオラ、ジャンヌ、オルネル、エッグの姿が見られた。
「え、ドラガン様がいらっしゃるのですか、エッグ殿?」
ジャンヌは隣に座る枝豆を咥えたエッグに聞いた。
「はい、もうすぐ来ると思いますよ。戦士大学の業務が終わり次第来るとか言ってたし」
「は~、ガストン様は来られないのわかってましたけど、ドラガン様が来るのは、驚きですね」
「世話焼きですからね、師匠は。きっと皆に何か美味いモノ買ってきますよ」
「それは楽しみです」
言いながら笑うジャンヌを隣から見る男、オルネル。
その顔は、どこか困惑している。
「違和感しかないですね。ジャンヌ先輩とエッグがそういう風に話すの」
「あらそう?」
「エッグが六勇士になったからってのは勿論わかりますけど、違和感です。俺は不器用なので話し方は変えられないですけど」
オルネルとエッグは他大学ではあるが同年代。
そして、冒険者ギルドで肩を並べ戦い合った仲。だからこそ、互いに隔たりのない話し方である。
しかし、ジャンヌはオルネルとエッグより二学年上。同年代のエッグにジャンヌがこう話しては、違和感が生まれてしまうのも無理はない。
「オルネルさんはあれっすよ。もうちょっと俺の事ソンケーしてくれてもいいんすよ?」
「それも違和感だ……」
「ちょ、それどういう意味っすかっ!?」
ぶははと笑いつつ、少し怒りつつ、エッグは席から立ち上がりながら言った。
苦笑する二人だったが、立ち上がった事により視界が開いたエッグが気付く。
「……あれ、何すか?」
エッグの視線の先にいる魔法兵団の集いを、二人が見る事はない。
何故なら、ジャンヌとオルネルは魔法兵団の一員である。現在、魔法兵団で起きている事なんて、わかり切っていた事なのだから。
そして、見ずに言うのだ。その事実を。
「ガストン様が生きてて嬉しいな。涙の会……ってとこでしょうか?」
「はははは、まっ、そんなとこだよね」
オルネルの言葉に、ジャンヌは苦笑して同意するしかなかった。
困った顔を浮かべながら、エッグは視界の先にいるヴィオラを見る。
「うぅ……ガストン様が……ガストン様がぁ…………くぅうううう……っ!!」
びしょ濡れの手拭いを目元に運ぶヴィオラを、テーブルの上にいるコノハが宥める。
「おいおい、手拭いから涙が垂れてるぞ。どれだけ出す気だよ?」
「大丈夫でずっ! 替えはあるので……っ!!」
「いや、そういう問題じゃないんだけどね……ははは」
コノハが何度もヴィオラを宥めるも、意味を成していない。
そしてそれは、他の魔法兵団の精鋭たちにも言えた事だった。
父のように慕っていたガストンの生存は、それだけ彼等の心に歓喜を生んだ。
遠目にそれを見るエッグは、呆れつつも、理解を示すようにくすりと笑った。
「一部戦士兵団も交ざってるのは、それだけガストン様の存在が大きかったって事すかね」
エッグが座りながらそう言うと、ジャンヌとオルネルは静かに笑う事でそれに応えた。
すると、居酒屋の扉が開けられた。三人の視界に映ったのは、二人の大男。
「ガハハハハハハハハッ!! 来てやったぞ、皆の衆っ!!」
「チャーリー様。正直、五月蠅いです」
千剣万化チャーリーの横でそう言ったのは、繊細な虎ドラガン。
「最早敬愛すらないのう、ドラガン殿?」
「大丈夫です。親愛の証ですよ」
「ほぅ、それは面白い。がははははははっ!」
そんな二人の登場を見るなり、エッグが立ち上がる。
「げっ、師匠ったらあの爺連れて来るなんて言ってなかったのにっ!?」
「ま、わざと言わなかったんだろうな」
オルネルの指摘は間違っていなかった。
「「チャーリー様っ!!」」
そう、戦士兵団の大半はチャーリーの手によって育てられた。
現在、事実上戦士兵団を束ねているのはエッグである。
従って、戦士兵団のエッグに対する愚痴は、全てチャーリーに届く。そのチャーリーがドラガンに相談し、ドラガンがエッグを説教する。
そんな負のサイクルから、エッグはチャーリーに対して苦手意識を持っているのだ。そんなチャーリーを、ドラガンが連れて来た。
それが何を意味するのか、それはエッグの歪んだ顔が全てを物語っていたのだ。
「ど、どろんっ!」
言いながら、エッグはレストルームに消えて行く。
「あ、ちょっ! エッグッ!?」
止めようと、オルネルもそれに付いて行く。
レストルーム上部にある換気用の小窓を開けたエッグは、器用にそこを潜り、飲み会を抜け出すのだった。
「くそ! 追うしかないかっ!」
オルネルもその小窓を潜り、深夜のエッドに消えて行く。
「そうだ! 男子会やってるとか聞いたな! とりあえずあそこに退避だ、退避!」
エッグが向かう場所は、オルネルがエッグに追いつく先は、アズリーたちがやっている男子会の会場。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「おじゃましまっすっ!」
その快活な声に、皆が振り向く。
エッグの訪れた男子会は、元六勇士であるエッグでさえも存在が霞んでしまう程の、濃きメンバーたちで賑わっていた。
「おぉエッグ! 来たのか!」
アズリーがエッグを出迎えると、エッグがはにかんだ笑いを浮かべながら答える。
「いや、男子会と聞けば俺が来ない訳にはいかないっすからねっ!」
「そりゃ嬉しいな。好きなとこ座れよ。隣家の人たちが椅子を貸してくれたからさ」
「はいっすー」
とは言いつつも、エッグが向かえる場所は限られている。
(ガストン様の隣……ないない。かといってブルーツさんのとこは面倒。とくれば、あそこかな)
エッグが向かった席は、ブライトとバルンが座る席の隣。
「隣失礼しまーす」
「あ、来た来た」
エッグが言いながら座ると同時、バルンが待ってたような言葉を口にしたのだ。
「……は?」
首を傾げるエッグ。
すると、バルンの言葉を説明するように、ブライトが答えた。
「今しがた、ヴィオラさんから念話連絡があったんですよ。ドラガン様の伝言」
「んがっ!?」
全てを見透かしていたドラガンに驚くエッグ。
「別にお説教をしろとは言われてないから安心してよ」
バルンは嬉しそうにエッグを宥める。
「いや、そんなニヤケ面で言われて信用出来る訳ないでしょうっ!」
「ホントホント、これから面白い話があるからそれ聞くだけだよ」
「お、面白い……話?」
エッグがそう言った直後、エッグの隣にはもう一人の男が座る。
「ウォレンさん!?」
ブライト、エッグ、ウォレン、バルンの順で座り、エッグは緊張を顔に浮かべる。
バルンはとても楽しそうだが、エッグは両黒帝に挟まれて気が気じゃない様子だ。
「な、何が始まるんですか……っ!?」
「別に? ウォレンさんとブライトさんが話すだけだよ。タイトルはそう『対悪魔戦の戦略的知見』」
バルンが話の説明をしたところで、エッグは気付く。
「……それ、飲み会で話す内容じゃなくないです?」
「大丈夫だよー、勉強になるから」
「完全に座学じゃないですかっ! もっと楽しい話しましょうよっ!! じゃなきゃ俺――――っ!」
去ろうとするエッグの両肩を、黒帝たちの腕が止める。
「知りませんでしたか、エッグ君?」
「黒帝からは」
「「逃げられない」」
爆笑するバルンは、手を叩きながらエッグの不幸を祝福したのだった。
その頃、エッグに追いついたオルネルが居酒屋に入って来る。
「お、オルネルも来たか」
エッグ同様、アズリーがオルネルを迎える。
「いや、来る予定はなかったんだけどな。エッグは?」
「大丈夫、ちゃんとドラガンさんから連絡入って、ウォレンさんとブライトが――ほれ」
親指で背後で俯くエッグを指差すアズリー。
「なるほど、あれは災難だな」
苦笑しながらオルネルが周囲を見渡す。
見慣れた人間たち。見慣れた仲間たちではある。
しかし、オルネルの目はガストンとレオンが座るカウンターでピタリと止まる。
オルネルの目が止まった場所。そこはレオンの席ではない。少なくともオルネルとレオンは顔見知りと言える。当然、魔法兵団の指揮官を務めていたガストンな訳がない。
オルネルの目が止まって先。ガストンとレオン、その隣のカウンターの片隅に、もう一人いるのだ。
オルネルが知らない男の背中が……あったのだ。見えたのだ。
「なぁアズリー、あれって誰だ?」
「へ?」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
そしてそれは女子会でも起こっていた。
ドラガンに言われ、エッグが女子会に来ていないか確認しに来たジャンヌの瞳に映った一人の女。
フェリスとミネルバ、その隣のカウンターの片隅に、もう一人いるのだ。
ジャンヌが知らない女の背中が……そう、見えたのだ。
迎えたリーリアにジャンヌが聞く。
「あの、リーリア様……あの方はどなたです?」
「ん?」
振り向くリーリアがその女を見る。
女――と言うよりは、化粧した男。
その横顔は、リーリアにはそう見えたのだ。
「それは素晴らしい考えですね、ジョル子さん」
「いや、どう考えてもその化粧はないわよ」
感嘆するミネルバの声と、呆れを吐き出すフェリスの声。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ほぉ、それでは魔力の方向性以外にも別の可能性が?」
「私の魔技はまだまだこの方には及びませんからね、はははは」
新たなる魔技の可能性に関心を示すガストンと、その者を称賛するレオン。
アズリーが、わざわざ皆に言い訳をし、ブーケ・トスの時間、外に出ようとする彼を止めていた苦労が水泡に帰す瞬間。
その横顔を見たアズリーは、リーリアは、頭を抱え溜め息交じりに零したのだった。
「「何でいるんだ、ジョルノ……」」
「「え? 仲間外れは嫌だからさ、僕っ! アハハハハハハッ」」
同じ時間に別々の場所に存在するジョルノとジョル子。
――正に、神の所行である。




