◆459 奇兵
2019/8/8 本日2話目の投稿です。ご注意ください。
※「◆458 奇禍」の投稿後、「あの引きはあんまりだ」的な圧力を友人から掛けられたため、本日は二話投稿と致します。
立ち上がる魔王ルシファーの胴体。何故か吹き飛ばしたはずの頭部が再生している。
既にアズリーに戦意はない。喪失していた。
魔王ルシファーの復活に、全てを失っていたのだ。
戦意も、希望も、生きる意味も。
ルシファーを見るアズリーの目には、最早絶望しかなかった。
震える瞳、流れる涙、壊れる心。
ルシファーはまだアズリーを見ない。己が首を片手で抱え、コキコキと音を鳴らしながら空を仰ぐ。そしてそのまま言った。
「この世にはどうしても抗えない理がある。一つは魔力。そしてもう一つは生命力だ」
アズリーには、ルシファーが何を言っているのか理解出来なかった。
「感じた事はないか、アズリー? その鑑定眼鏡で」
ルシファーの不可解な話は続く。
「HPとMP。そう表記されるのは鑑定魔法のせいか? 違う。これが世界の理だ。ならばここで疑問が生まれる。魔法や魔術、いや、魔力を使う時と言おうか。MPは確かに減っていく。しかし解せない。何故HPは存在する? 首を飛ばされれば、その者の生命力はそこで尽きる。膨大なHPがありつつも、それはそこで終わってしまうのだ。ならばHPで表記される数値の意味は? 余はそこに疑問を持った。そして考えたのだ。HPもMPのように効率的に利用出来るのではないか? 利用出来るのならば、たとえ首を飛ばされようと、生きる事が可能なのではないか? とな」
アズリーは知る。
魔王ルシファーが生きながらえた理由を。失ったはずのルシファーの首が元通りになっていた理由を。
「均等なる生命力――それがこの魔技の名前だ。これにより、余のHPを零にするには、相応のダメージが必要となる。そして、生命力を魔力に変換する生魔の変換。魔力が尽きたと同時にこれを発動させる事で、余は魔力枯渇による気絶を防いだ……!」
ここで、ルシファーはようやくアズリーを見る。
その笑みは正に悪魔そのもので、その目は歓喜に満ち満ちていた。
「クッ……ハハハハハッ!!!! 惜しかったなアズリー!! あと一歩だったというのに!! 既に余の身体からあの魔法は消え去った!! 形勢は逆転!! いや、最初から貴様に傾いてなどいなかったという事だ!! ハハハハハハハッ!!!!」
響き渡る魔王の笑い声。
アズリーの手には、温かいポチの血が流れ続けている。
直後、アズリーが選んだ言葉は、ルシファーを更に喜ばせた。
「……た……む……」
「ハハハハ! 声に力がないぞ、アズリー!!」
「……たの……む」
ルシファーの高笑いがピタリと止まる。
「……ほぉ?」
「たの、む……ポチを……! ポチを助けてくれっ!!」
アズリーから言い放たれた、驚愕の言葉。
それは魔王ルシファーへの懇願。全てをかなぐり捨てた、アズリー唯一の願い。
ルシファーは目を丸くさせ、戻し、また笑った。
「ハハハハハッ! 最高だ! 何とも愉快だっ!! 何だそれは!? 人類の希望が魔王に土下座かっ!! ハハハハハハハッ!!」
「……な、何でもする! ポチを……!」
頭を下げ、大地に額を付け、魔王ルシファーに願うアズリー。
笑い続けるルシファーの脚にしがみつき、「頼む」、「頼む」と願い続けるアズリー。
ルシファーの笑いが収まり、脚からアズリーを引き剥がすルシファー。
アズリーの首を掴み、空に掲げるルシファーが叫ぶ。
「そうだ、その顔が見たかった!!」
ルシファーがアズリーの願いを聞く事はない。
それでもアズリーは、涙を流し、震え、か細い声で言い続けるのだ。「頼む」と。
すると、ルシファーは、アズリーをポチの隣に投げ捨てた。
「いいざまだな――ん?」
直後、ルシファーの背を狙う強い魔力。
ルシファーは取るに足らない魔法と判断し、余裕を持ってそれを受けた。
ルシファーを狙った巨大なインフェルノランスは、直撃と共に、爆発と大きな土煙を巻き上げさせた。
ルシファーは腕を払って土煙を掻き消す。
目の端に見えたのは、小さき少女――常成無敗のアイリーン。
アズリーとポチがルシファーの視界から消えていた。
だが、ルシファーは気付いていた。今の爆発と同時に二人を回収した者がいると。
ルシファーは、その影が向かった先に目を向ける。そこにいたのは、美しいエルフ――元聖戦士の戦士リーリア。
リーリアが下ろしたアズリーとポチを守るように囲う者が四人――フユ、ティファ、ララ、ナツ。
その前に立ちはだかる男が三人――黒帝ウォレン、天秤の異バルン、オルネル。
三人の男たちの上空でルシファーを見下ろす竜と女――バラード、リナ。
そして、ルシファーの前に現れる巨大なエルフ――知肉のトゥース。
「ほぉ、十二士か。戦場を放り投げアズリーを助けに来た……か」
フユたちがポチとアズリーの回復に入るも、ルシファーが止める事はない。
それは、この十二人を前にしても、圧倒的優位にあると、ルシファーが自覚していたからだ。
事実、十二人とルシファーの間にはそれだけの壁があった。
「なるほど、先の魔法を放った事により、十二士を守る必要はなくなった。つまり、最初から数に入っていなかったからこそ、ここに来られた……という訳だ。しかし、黒帝ウォレン、常成無敗のアイリーン、そして師トゥースよ? 貴様等がここに来るのは愚策としか言いようがないのでは?」
「五月蠅ぇ。こっちは最初からアズリーに賭けてんだよ」
「とてもあの知肉のトゥースの言葉とは思えんな」
「そんな柔な鍛え方してないわよ、ウチの連中は」
「なるほど、厳しい言葉だなアイリーン」
「アズリー君を失う訳にはいきません。たとえこの身が滅びようとも……!」
「声が震えているぞ? ウォレン」
魔王ルシファーの圧力。
この場にいる全ての者は、その圧力に顔を険しくさせている。
だが、それでも引く訳にはいかなかった。
たとえ勝ち目がなくとも、アズリーが生きている限り希望はあると、全員が信じていたから。
「ほぉ、余に挑むか? その実力で……? クククク、滑稽だな。が、折角やって来たのだ。余も迎えてやらねばならんな」
胸元に手を置き、品良く招き入れるようにルシファーが言った。
「ようこそ、魔王の懐へ」
「けっ、やっぱりそういう事かよ」
「どういう事っ?」
アイリーンがトゥースに聞く。
「魔王の懐ってのは迷宮でも、ダンジョンでもねぇ。この世で最も困難な場所って意味ってこった!」
トゥースの説明に、魔王ルシファーがくすりと笑う。
「左様。魔王の懐とは、言葉通り余の懐……眼前を示す。まぁ、魔王の懐に潜り込める者など、この世でアズリーだけだと思っていたが、どうやらそのアズリーに触発されて、挑戦者が現れたようだ。だが――」
瞬間、ルシファーの身体から無数のモンスターが飛び出した。
それは、巨大な一つ目をもった、人間大の二足歩行のモンスター。
腕はなく、一つの目だけがぎょろりと動く、気味の悪いモンスターだった。
「アイ・ドールッ!?」
黒帝ウォレンがそのモンスターを特定する。
「――魔王の懐の防衛網……潜れるものなら潜ってみろ」
それは、明らかにルシファーの時間稼ぎだった。
何故なら、アズリーと同じく、魔王ルシファーもまた魔力が少ないのだから。
「魔力が少ねぇ今がチャンスだ。やるぞ……!」
トゥースの言葉により、皆が決意を固め、コクリと首を縦に振る。
胸元から取り出す退魔の輝き。それは、アズリーが決戦前日に急ぎで作った十二のアーティファクト。
【ふぅ……これで全部か……】
アズリーの部屋にやって来たのは、黒帝ウォレン。
【それが、例のものですか?】
【あ、えぇ。そうです】
【ではそれは私が預かりましょう】
【中身をまだ言ってなかったと思いますが……?】
【おや? わからないとでも?】
ウォレンがアズリーから受け取った箱には、十二のアーティファクトが入っていた。
それは、ルシファー・ブレイクを放つため、絶対に死ぬ事が許されない十二人の保険。
しかし、保険は使用されなかった。何故なら、皆が決めていたからだ。その保険を、アズリーのためだけに使うと。
そのアーティファクトとは即ち、銀のキーペンダント。
十二人全員が胸元からキーペンダントを引きちぎり、天に掲げ叫ぶ。
「「リンク・マジックッ!!!!」」
十二士が纏う――愚者の魔力。
①プロローグで、アズリーが「魔王の懐」の事を「最大の迷宮と言われる《魔王の懐》を攻略してみたいな!」と言う場面がありますが、あくまで伝承や噂、書物でアズリーが知り得た情報です。『最大の迷宮である』といった描写は避けてきたつもりです。※あらすじには書いてあるけどね!
一応、これまで「懐から財布を取り出した」とか、「懐に潜り込んだ」とかそういった描写はしてきたので、ヒントはあったかなとは思ったのですが、極力少な目に、小出しにしてたので、わかりにくかったかもしれません。
②また、HPとMPの表示をオープニングからしてきたのは、今回の魔王の魔技「均等なる生命力」を出すためです。HPが高いのに首をとられたら負け、頭が無くなったら負けという人間的な部分と、魔技をどうにか紐付けられないか? と、連載当初から考えておりました。
で、お披露目が最終章\(^o^)/
ホント、申し訳ありません!!!!
とまぁ、説明はここまで!
さぁ、皆で叫ぼうぜ!
リンク・マジック!!!!




