044 親善試合2
「ほいのほいのほい! ファイアランス!」
「ファイア!」
スウィフトマジックのファイアで炎の槍を相殺する。
リナの魔法陣から発動魔法の判別。鑑定眼鏡様様というところだが、いかんせんやはり魔法の後だしはかなり難しいな。
あくまで相この魔法を出さなくてはいけない瞬間的判断が必要だ。
リナに胸を貸す。ポチとそう決めた昨晩、俺は全力でリナの全てを受け切るつもりだ。
「ふぅ……ふぅ。ほい! ファイア! スピードアップ!」
「くっ、はぁっ!」
周囲の歓声。確かに凄い。いくらスウィフトマジックを使っているとはいえ、発動したファイアに速度上昇魔法をかけるなんて今の一年生では困難な技だ。うまく杖で振り払えたが、失敗すればかなりのダメージを受けてしまう。っと!
「ほいのほい! フウァールウィンド!」
「テンションアップ!」
リナの足下に描かれた魔法陣が一気に俺の元まで移動し、つむじ風を発生させる。身体能力の向上魔法を施し難を逃れたが、受け切れていない以上、これは俺の負けという事か。
リナの嬉しそうな顔が眩しい。汗を流し、息を乱してようやく届いた指先を振り払う事なんて出来ない。
「いいぞリナ! ようやく卒業だな!」
「はい! ありがとうございますっ!」
俺とリナとポチにしかわからない、小さな魔法学校の卒業証。
眼に浮かべる涙を零さないように震えるリナ……いかんいかん、つい目頭が熱く――
「うぅ、いいですねぇっ。ようやく卒業ですよぉおおおっ!」
「ってお前が先に泣くんかい!」
「こんな先生で本当に申し訳ありませんでしたよぉおおおおっ!」
遠吠えのように泣き叫ぶポチに会場の喧騒が目立つ。しかしここでリナの表情が変わる。眼を見開いた時に散った輝き。後の眼に宿るのは先程までの熱の比ではない。
瞬間遠吠え発生装置も気付いたようで、すぐにそのスイッチを切ったみたいだ。そして一足飛びで俺の元まで来た。
「マスター、ここからですね~」
「いいか、作戦を覚えてるな?」
「えぇ、マスターがバラード。そして私がリナさんを見守るんですよねっ!」
「いや、違う! 大体あってるが最後が違う!」
「あははは、わかってますよぅ! やるからには全力で、ですよね!」
「おうよ!」
その時、リナの魔法陣が完成した。
「ハウス!」
溢れる光の中から巨大な黒い影。
四翼の竜バラッドドラゴンの召喚。サイズは一、二メートル大きくなっているな。さて、この一ヶ月でどれだけ成長したかな……なっ!?
魔法陣から現れたのは確かにバラード。しかしその指先にあるのは……剣っ?
いや、あれはリナがオルネル戦の時に持っていた杖だ。
ちぃ、鑑定眼鏡発動!
――――――――――――――――――――
バラード
LV:30
HP:2209
MP:761
EXP:66701
特殊:ブレス・空間干渉・攻撃魔法《下》・補助魔法《下》・回復魔法《下》
称号:四翼の竜・上級使い魔・ランクA・魔法士
――――――――――――――――――――
くそ、やはり魔法が使えるようになってやがる!
「ポチ、リナを押さえろ!」
「お任せを!」
「スピードアップ! パワーアップ! き、きゃあっっ!」
リナは最後の一瞬を使ってバラードに補助魔法を掛けた。だが、四肢をポチに押さえつけられているからこれ以上は動けない。ここからの俺の相手はそう、バラード。
リナに勝つだけならそれは簡単だ。しかしそれは制しただけであって勝利とは言えない。……俺はリナの全力、全ての力を受け切るんだ。
「アジュリーしゃま、本日は宜しくお願いしましゅ」
「あぁ、全力で来い!」
「テンションアップ! タイトルアップ!」
くそ、考えたな。スウィフトマジックでの重複効果を避ける為に全て違う能力上昇魔法にしたのか。当然と言えば当然だ。
しかも俺が使えるのは中級系魔法のみ。なるほど……これはキツそうだ。
「行きましゅ!」
「来るな!」
と言っても来るのがバラードだ。バラードの巨体が四体入ればいいくらいのこのスペースで、速度上昇魔法が掛かったバラードが突進なんてしたら……っ。
「くっ!」
間一髪でバラードの足下をくぐり回避するが、突進したバラードの脳天が防衝障壁魔法を貫いた。甲高い音と耳鳴りを残す嫌な音。親善試合でこの障壁が破られる事など滅多にないだろう。なにせここは魔法大学。ランクAのモンスターが放つ衝撃なんて想定していないからな。
ここですぐにアイリーンとビリーが動いた。より強固な障壁魔法を形成しているのだろう。なら俺も好きにやれる。
「ほほい、ミドルチェイン・ダブル!」
「うっきゃー、効きましぇんよぉー! しぇい!」
ボーイソプラノを思わせる可愛い声で中級系人体拘束魔法を弾く。見事に払ってくれるものだ。人体拘束といってもモンスターにも有効だ。これをこうも簡単にあしらわれると戦術の視野が狭くなってしまう。
「うきゃぁああああああっ!」
ドラゴン特有の灼熱の炎がバラードの口から吐き出される。これを回避をすると、もう一つの障壁、防魔障壁が先程と同じ音を放って崩壊した。
アイリーン達は防衝障壁でいっぱいいっぱいだろう。
観客席が不安だったが、俺達を挟んでアイリーンの対面にはいつの間にかガストンがその場を陣取っていた。どうやらアイリーンと一緒で防魔障壁を発動してくれるようだ。おのれ、存分にやれってか?
「ほほい、ミドルチェイン・ダブル! ほほほい、ミドルチェイン・ダブル!」
「効きませんよアジュリーしゃま!」
「ほほい、ミドルチェイン・ダブル!」
「まだやりましゅかっ!」
幾度も放つ魔法に、バラードは強靭な肉体で弾いていく。その反射攻撃に魔力が少なからずこもるとしても、それを一気に削る事は難しい。
――それなら、バラードのその幼さを利用するっ!
「バラード、魔法には発動後消滅するまでの時間があるのを知ってるかっ? ミドルチェイン・ダブル!」
「勿論知ってま、しゅっ!」
「ほほい、ミドルチェイン・ダブル!」
「しつこいでしゅよ!」
――ならば、お前が弾いた俺の魔法はどうなってると思ってるっ!
「今だ、リモートコントロール!」
左手で行っていた宙図が発動する。
「にゃっ!?」
散らばるミドルチェインの束が一度にバラードに襲いかかる。
中級系とはいえ無数の鎖はその巨躯を縛り付けるだけの力を残していた。ぎっちりと鎖に挟まれた四肢は先端の微かな動きだけを残して固定された。
よかった、空間干渉を使われる前に捕縛する事が出来た。あれを使われると厄介だったからな。バラードに経験がついていたら、こうはいかなかっただろう。
「この、このっ、このーっ!」
「無駄だよバラード、これで……チェックメイトだ」
俺はバラードの口近くに杖の先端を持っていった。
「ま、参りましたっ!」
リナの敗北宣言。
「ふぅ……」
「うぉおおおおっ! やるじゃねぇかアズリー!!」
いつの間にか静寂に包まれていた魔育館にブルーツの大きな声が響く。
恥ずかしそうにブルーツを制止するベティーの控えめな声が聞こえると、ブレイザーが黙って小さな拍手をする。
続いてダンカン、ダラス、そして冒険者ギルドの仲間たち。瞬間的な伝染が会場を覆うのはそこまで時間を要さなかった。
「「うわぁあああああっ!! すげーっ!!」」
大きな拍手と歓声…………才能のない俺の勝利を称え、興奮し、祝してくれた。それは、俺の知らない景色だった。
ドクンと熱い鼓動が俺の中で聴こえた。血流に流れる生きている証は俺の魔力を後押しするように励ました。それは、俺の知らない音だった。
「おめでとうございます、アズリーさんっ」
「リナ……頑張ったな」
「そんな、アズリーさんが本気なら一瞬でしたっ! でも、先生の前で……ぜ、全力を……うっ……うぅ」
「あー、リナ、泣くな泣くなっ」
「で、でもぉ……う、うぅ……」
「もー、マスターは本当に女心がわかってませんねー。ここはリナさんが正解です。そっと肩を抱いて泣かせてやるべきです!」
「アジュリーしゃまー! 早く、この鎖を早くーっ!」
「あちらは私に任せて、マスターはマスターの仕事をしましょう!」
「あ、あぁ……」
ポチの珍しくもまともな一言。まったく、主を使う使い魔がいるとはね。しかし、今回ばかりはポチに感謝だな。
俺は、謝りながら涙を拭うリナの頭にぽんと手を置いた。そして、癪だが、物凄く癪だが使い魔の指示通りに肩をそっと抱き寄せた。
瞬間、大きな歓声は割れ、オーガキングも真っ青な程、魔育館中の空気を震わせ、魔法大学中の大地を揺らした。なるほど、人の力は小さいなれど、時には大きな力を凌駕する、ね。どこかで聞いたような言葉だが、いざ体感するとこれほどしっくりくる言葉はなかなか見つからないだろう。
「ほれ、リナ。皆に挨拶だ」
「はいっ」
小さく弱々しい肩が奮い起こる。芯の強い眼光で遠くを見据え、そして一度俺を見る。
ちょっと泣き虫でとても可愛い我が生徒の晴れ姿。遠くでギルドの仲間達が俺に対するバッシングをしている事など気にもならない程の力を有している。俺は自然に零れた笑みをリナに伝染させた後、二人一緒に未だ治まらない喝采に礼で応えた。
別作で申し訳ございません。
転生したら孤児になった!魔物に育てられた魔物使い(剣士) 第二巻 2015年7月15日、本日より発売です。




