358 強敵
「まずはランクAのケルベロスの群れ、か」
俺は鑑定眼鏡を発動しながら先陣を切ったブルーツを見た。
ケルベロスの取得経験値は本来九千程。ブルーツの経験値がどう動くかを注視する。
本来のモンスターより高ければ、ここに来た甲斐があるというものだが――
「おぅら! んぉっ!? こんのぉ!」
一瞬ケルベロスがブルーツの攻撃を牙で挟んで受けたが、ブルーツは強引にそのまま口元から斬り裂いた。
やはり、強い。普通のランクAだと思ってかかれば、足下を掬われかねない。体表も皆確かに紅く、脈動に併せて体内の熱が動いているようにも見える。
さて、経験値の向上は――――っ!?
「どうです、マスター?」
「凄いな、今ブルーツの総経験値が一万八千近く動いた! 次、一万七千、一万九千! なるほど、ここのモンスターは、本来のモンスターと比べて、およそ二倍の経験値を保有しているみたいだな」
「おぉ、それはいいですね!」
そんな俺たちの会話を拾ったのか、ブルーツが声を荒げる。
「だけど! こりゃ、結構きちぃぞ!? ふっ! おりゃ!」
こんなんでオールアップの魔法とかかけたら怒られるんじゃないだろうか。まぁ、今日はとりあえず様子見だし、まだ使わなくていいだろう。
ケルベロスの群れを片付け終えた後、オーガたちの群れや、オークたちの群れ、そしてリザードたちの群れを相手にする。
「ったく、キリがねぇだろ!」
「あら何!? 疲れたの!?」
リードの弱音に、マナが発奮するような言葉を吐く。
「んな訳あるか! 胎動期になったらこんなもんじゃねぇんだろ!?」
「そうね」
リードはそう聞き、爽やかに事実のみを返すリーリアに、俺は怖さを覚える。まぁ、あの時期を経験した者にしかわからないモノは、確かにあるよな。
「アズリー殿、頃合ですかな!」
「はい! ほい、インビジブルイリュージョン・カウント10&リモートコントロール!」
「「インビジブルイリュージョン!」」
俺はイデアとミドルス以外の仲間にインビジブルイリュージョンを掛け、景色に溶け込ませる。
イデア、ミドルスは自身にその魔法を掛ける。
これで、全員の身体が消える。目で行う宙図はあまり使いたくないし、魔法士二人がいるのなら、このやり方が一番いいだろう。
姿を消した俺たちは、後退しながら集まったセーフポイントで態勢を整える。
「ポチ、見張りは任せた」
「お任せを」
「ほい、ストアルーム。ブルーツ、水だ」
「おう、さんきゅ!」
「ベティー、追加の匕首」
「ありがとっ」
「ライアンさん、陣形の事についてご相談が」
「是非、お聞かせください」
各自、インビジブルイリュージョンを解いた後、楽な姿勢で準備をする。しかし、その集中を切らす事はない。
俺の知らない間に様々な事を経験しているのが、本当によくわかる。
「一定してこちらの方角からモンスターが来るので、その範囲を狭めるだけで、かなりやりやすくなると思います」
「そうですな。ではイデアとミドルスにウォーターウォールを張らせましょう。水は多いようですし」
そうか、ここは湿原だ。辺りはぬかるみ、草木も水気を帯びている。そして何よりこの濃霧。これなら水魔法も存分に使えるか。流石ライアンだな。俺はファイアウォールを繰り出す事しか頭になかったが……いやはや勉強になる。
その後、俺が立てた作戦とライアンのアイディアにより、次の戦闘はより最適化され、瞬く間に一日目が終わった。
「いや~、狩った狩った! やっぱりつえー奴と戦うと張り合いがあるよな!」
「おうよ! あのレベルの相手はヒターチにも中々いなかったからな! ははははは!」
空間転移魔法を使い、屋敷に戻った俺たちは、食事を済ませた。で、ブルーツとリードは酒盛りをしている訳だ。紅魔の湿原で空間転移魔法陣の見張りをしているライアンとリーリアには、なんか申し訳ないような気もするな。
まぁ、この後、俺とポチが見張りを交代するんだけどな。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
紅魔の湿原に戻った俺は、ライアンとリーリアに交代する前に、経験値向上の裏技について話してみた。
「ほぉ、モンスターに能力向上魔法を?」
「えぇ、それによってモンスターは強くなりますが、得られる経験値は多くなり、より俺たちも強くなれるでしょう。勿論、危険は伴いますので、判断はこの場を指揮するライアンさんにお任せします」
「かしこまりました。では戻り次第周知しておきます。そして、明日、皆からの意見を聞きましょう」
そう言い残し、ライアンは一礼してから屋敷に転移して行った。
「……ん? リーリアは戻らないのか」
「いや、呆れているだけ。まさかそんな方法を考えていたなんてね」
「これくらいで驚いてちゃ駄目ですよ! マスターはもっと色々やっちゃうんですから!」
「ふっ、それは楽しみね」
「はいー!」
そんなやり取りをポチとした後、リーリアも屋敷に転移して行く。今夜の見張りは、俺とポチ。危険地帯故、空間転移魔法陣を放置出来ないのが問題だが、それでも皆が屋敷に戻る事が出来るのはかなり効率的だ。
イツキの話じゃ、ララがポチビタンデッドの量産体制に入ったと聞く。それが解放軍のアジトや俺たちに届けば、今よりも負担は軽減されるだろう。
「マスター、マスター」
「何だポチ?」
「ここで頑張ったら、ライアンさんたち、どれくらいレベル上げられますかね?」
「この強引なパワーレベリングの間にって事か? ん~、ブルーツたちは百八十くらいまで上がるんじゃないかな? 胎動期が始まればもっと上がるだろうし、レベルの低いアドルフとかナツも、百五十くらいまで上がれば、相当戦力になるよ。何にしても、今後、銀というチームは、魔王戦やガスパー戦に必要不可欠な存在だと思う」
「ですね!」
まさか銀とここまで俺が密接な関係になるとは思わなかった。しかし、銀とは退魔の色。悪魔と戦う上では確かに皮肉がきいてていいかもしれないな。
「どうしたんです、ニヤニヤしちゃって~?」
「いや、銀との付き合いも長いなーって思ってな」
「それもそうですね! けど、マスターと出会ってなかったら、銀の方々もここまでこられなかったかもしれませんよ!」
「珍しく褒めるじゃないかー? お前こそどうしたんだー?」
「長い夜ですし、今の内にマスターを持ち上げておこうかと!」
満面の笑みで全部吐き出すのが、ポチの良いところであり、悪いところだな。これを俺にだけ見せるのは何故だろう。本当、何故だろう。
皆の前ではもっとしっかりしているイメージなんだけどな。
「それで、マスター? 今後はどうするおつもりですか?」
「ん? 月末から魔法教室が開室するし、そこで俺も色んな知識を吸収するつもりだ。まだまだやりたい事があるし、強くもならないといけない」
「んもう、そろそろ教えてくださいよーっ。次は一体何を完成させたいんです?」
なるほど、持ち上げたのはそのためか。
まぁポチになら話してもいいだろう。普段は笑われるから余り話したくないんだが、こういう時のポチは笑わないしな。
「そりゃ当然アレだよ。瞬間転移魔法。魔法名レガテレポーテーション」
「そこまでマスターが拘るって事は、ある程度考察が済んでいるって事ですよね」
ほらな。笑わない。過去ではあんなに笑っていたのに。まったく、困ったヤツだ。
「どうしたんです?」
「いや、なんでもないよ。うん、ある程度考察は出来てる。それも、ここ最近でぐんと進んだよ」
「という事は、空中浮遊魔法の魔法が?」
「そう、関係してる。魔法の連結式を結界魔術で繋ぐなんて今まで考えられない事だったからな。それに、今の俺なら宙図速度も問題ないだろう」
「技術的にも、肉体的にもそれが可能な状態になったという訳ですね。具体的にはどうやって移動するんです?」
「理想は空間転移魔法の簡略化にあるけど、やっぱりそれは難しい。あれは根本的に設置型魔法陣の発動でしか起動しない。だから、着眼点を変えた」
「というと?」
「ストアルームだ」
そう話した瞬間、ポチの顔は一気に渋くなった。




