359 瞬間転移魔法の理論。そして――
そういえばそうだった。ポチがこの時代に戻って来た後すぐ、俺がストアルームに放り込んだんだった。そりゃそんな渋い顔もするか。
「マスター……危ない事考えてるんじゃないでしょうね?」
「そんな事はない。ストアルームもちゃんと使いこなせば立派な攻撃魔法になる。まぁ、ポチが言う危険ってのもわかるけどな」
俺の説明を聞くも、ポチはじとりとした目をやめる事はなかった。
「安全に発動出来るんですか?」
やはりまだ気にしている。それだけ心配性なのか、それとも俺を心配してくれているのか、そのどちらもなのか。主を信用しない使い魔ってのも珍しいんだけどな。
「瞬間転移魔法、レガテレポーテーション。瞬間転移魔法は、無数に放たれるストアルームから空間移動する方法だ。それを、地走魔送の魔術、そしてリモートコントロールの存在によって不必要とされていた空走魔送の魔術と連結させる事で、移動を可能にするんだ」
「リモートコントロールの方がかなり簡単ですよね? あえて魔術と結びつける理由は?」
「この二つの魔法は外部からの干渉を受けにくい事にある。たとえば、ポチの背後に向かって真っ直ぐストアルームと結びつけたリモートコントロールを発動すると、ポチの身体の手前で魔法が止まってしまう。これを回避するには、リモートコントロールでポチ自体を迂回しなければ背後に飛ばせないからだ。けど二つの魔術には、リモートコントロールにない特性がある。それが障害物の通過だ。地走魔送はそもそも大地を駆けて魔法や魔術を送る魔術、空走魔送は、簡単に言ってしまえば、それの空中版だ」
「っ! そういう事ですか! リモートコントロールで何かを迂回して魔法を飛ばすよりも突っ切ってしまった方が早いって事ですね!」
「そういう事っ」
俺はポチを指差して肯定する。
宙図速度を鑑みても、二つの移送魔術の方がリモートコントロールを操作するより総合的に早い事はわかった。
「なんか聞いてみれば出来そうな気がしてきましたね!」
「あぁ、実はもうほとんど魔法式は完成してるんだ」
「えっ!? それじゃあやってみましょうよ! 何か問題でもあるんです?」
ことんと首を傾げ、ポチが疑問を述べる。
「理論上は可能なんだけど、地走魔送と空走魔送の相性が悪すぎてな、どちらも公式を入れたら暴発しちゃうんだよ」
「……ん? 考えてみたら……その二つの魔術を入れないといけない理由があるんです?」
「戦闘中、瞬間転移魔法を使うような状況だぞ? 大地か空、どちらかを選択して使い分けられる自信がないんだよ。正に瞬間的な判断が必要だからな。だったら最初から二つ組み込んじゃって身体に慣らした方が早いだろう?」
俺の論理的な説明に面食らったのか、ポチは目を丸くさせた。ふふふふ、こんな理知的に話す俺が珍しいんだろうな。そんな目で見るな。照れるじゃないか、ポチ。
……おかしい。段々いつもの俺を見る目になってきた。おかしい。凄い呆れてる目だ。まるで愚者でも見ているかのような……。
「はぁ……」
おかしいぞ。溜め息まで吐き始めた。
「マスター、近距離用の魔法ですよ? 空走魔送一つでいいでしょう?」
「な、何でだよ!」
「宙じゃなくて地面の方に飛びたいなら、地面スレスレを選択すればいいだけじゃないですか。言い換えれば、地面スレスレも空中ですよ」
………………………………………………なるほど。あれは確かに愚者を見る目で間違いなかった。こいつは完全に――――俺が愚者だ。
「……ふっ! ふははははははっ! ポチ! ナイスアイディ~~~アだ! それ採用だ! 正に革新的なアドバイスだった!!」
俺は震える身体を御しながら立ち上がり、ポチを指差した。
しかし、ポチの目が変わる事がない。終始呆れている目だ。
おかしい。空前絶後の大発見だというのに。
「ヨカッタデスネー」
あなた、さっきまで俺を持ち上げてませんでした?
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ほいのほいのほいの……ほい! 瞬間転移魔法!」
「おぉ、マスターが真後ろに!?」
「宙図速度が…………」
項垂れる俺を見て、ポチがたははと声を漏らす。
「た、確かに、瞬間転移魔法とは言い難いですね」
移動自体は瞬間でも、それも宙図の時間が長ければ、無用の長物だ。くそ、新たな問題だな。
……いや、待てよ?
「そうだ!」
「そうです!」
「スウィフトマジック!」
「究極限界ですー!」
互いが違う答えを出す。どうも俺たちの相性の悪さが際立って見えるのではないか。そう思ってしまうのは何故だろう。
「マスターの杖はドリニウム・ロッドでしょう! それに、万一杖が盗まれたらどうするんです!?」
「まぁ、安易には使えないと思うけどな」
「……そんなにMPを使うんです?」
「今確認したら、一回につき七千七百を消費する。ゲートイーターやポチ・パッド・ブレスも真っ青だぜ。でもまぁ、究極限界ってのは尤もだ。瞬間的に究極限界状態になり、瞬間転移魔法をする。敵の死角に移動した時、不意を衝きつつ、どんな魔法や魔術でも放てるのは大きい」
「ではやってみますか!」
「いや、それは無理だ。駄目だと言った方がいいか」
俺がそう言うと、ポチはしばらく考えてから納得した顔になった。
「ですね」
そう。ここで究極限界を使えば、明日以降、紅魔の湿原にモンスターが出現しないだろう。つまりここで究極限界状態になれば、俺の魔力を怖がって、モンスターが近付いてくれなくなるのだ。
どっちにしろ、ここでレベリングを行ってる最中は、テストが出来ないだろう。
しかし、今日はポチのおかげでかなり進んだ。事実、発動自体は上手くいったんだ。これは魔王戦やガスパー戦でかなり役立つ魔法となる。
そんな事を話しながら、夜が明けていく。
結局、空間転移魔法陣に近付いたモンスターは数匹程度だったが、それだけに、ここが危険である事を再認識させられた。
極力抑えているとはいえ、俺とポチに向かってくるモンスターがいるからな。
翌朝、最初に転移してきたのはブレイザーだった。
「お、今日はブレイザーか。誰が残るんだ?」
「いや、今日から全員でやる。ナツ、アドルフ、レイナは皆、ランクS昇格審査に合格したからな」
「おぉ! そりゃめでたいな! でも、子供たちの世話は?」
「元フォールタウンの何人かが、手伝いに来てくれた。イツキの提案でな。勿論、賃金は払う」
「へぇ、流石だな。イツキちゃんは」
なるほど、フォールタウンで生き残った人たちなら信用出来る。面識がある子供もいるだろうし、何よりタフだ。トウエッドに住むというのは抵抗があるかもしれないが、ライアンも住んでるなら、来たいと言う人も多いかもしれない。
俺とポチは見合ってから笑った。
「どうだ、ここの連中は?」
ブレイザーは早速俺の見解を聞いてきた。
「身体能力は高いけど、基本的にモンスターの弱点や戦い方は一緒だ。俺も何匹か相手にしたけど、環境のせいか、皮も厚い感じがするな」
「そうか」
おそらくブルーツやライアンたちにも聞いているだろうが、再度確認するところをみると、警戒は怠っていないようだな。
次に飛んで来たのはアドルフだった。
「おぉ、アドルフ、おめでとう!」
「おはようございますアズリーさん! ありがとうございます! これで僕もランクSです! これもアズリーさんのおかげです!」
キラキラと目を輝かせながらアドルフが頭を下げる。
おっと、そういえばそうだ。アドルフに気になってた事を聞いておくか。
「なぁアドルフ」
「何ですか?」
「トウエッドのランクS昇格審査って……一体誰がやったんだ?」
そう、トウエッドに有能な人間がいるのなら、俺としては把握しておきたいのだ。
「あぁ、それなら。トウエッドには、優秀なチームがあるらしくて、そこの副リーダーさんがやってましたよ」
優秀なチーム?
「へぇ、何てチームなんだ?」
俺の質問に、アドルフはこめかみを指でとんとんと叩きながら、思い出すように言った。
「えーっと、確か《エッドの猪共》……だったかな?」
おかしい。
どこかで聞いた事があるようでないようなチーム名だ。
おかしい。
頭の中では何故かソラ豆が浮かんでいる。




