357 紅のモンスター
「背中を預け合え! まずは正面のモンスターからだ!」
神山に入山してから間も無くして、俺たちは早速モンスターの群れとかちあったのだ。今回の旅はブレイザーが屋敷に残るというもの。意外な事に、ブレイザーは育児に向いているそうだ。子供たちの人気ランキングでは二位。
因みに一位はナツだそうだ。年が近かったり、他の人間と違って色食街を経験している。そういった共通点があるからなのだろう。そんな関係もあるのだろう、だから春華も三位にランクインしているそうだ。
しかし、人気ランキングなんて作るとは……考えたイツキも人が悪い。
ランク制度の冒険者の中で生きる人間たちだぞ? そんなもの導入したら頑張るに決まってるじゃないか。本当にどういう頭してるんだろう、イツキって。
「アズリー殿、お願いします!」
「ほい、オールアップ・カウント10&リモートコントロール!」
この旅での俺とポチ、リーリアの役割はやはり後方での援護。
経験値向上の魔法は山中では厳しい。紅魔の湿原に行けば可能だろうけどな。道が狭いんだし仕方ない。
イデアとミドルスが戻った銀の安定力はやはり計り知れない。
先頭で戦うブルーツとベティーは一騎当千だし、小回りの利く春華が魔法士を助ける。リードとマナが後方を押さえ、イデアが定期的に攻撃魔法を繰り出す。そしてミドルスが前衛型の魔法士の本領を発揮している。
何よりも恐ろしいのが…………――――
「カァアアアアアアアアアッ!!」
只今、ランクSモンスター、アサルトケルベロスの顎を三つともかち割った、子供からの人気ランキング最下位のライアンさんである。理由は顔が怖いから。なんて強くてなんて可哀想なライアンだ。
「いいチームね」
仕事がないであろうリーリアが呟く。
「だろ? 俺のお気に入りのチームなんだ」
「あら、既に私もお気に入りよ?」
どうやらリーリアも銀というチームが気に入ったようだ。
まぁ、気に入っていなければヒターチまで付いて行かないよな。
「はははは」
「ふふふ」
こんなに輝いて笑うリーリアは新鮮だ。いや、最近本当に多いのだけど、未だ慣れないと言った方が正解か。
そんな事を考えていると、隣にいたポチが俺をちらっと見た後、銀の方を向きキリっとした顔付きで言った。
「いいチームね」
「二番煎じにも程があるだろう。それに、リーリアに全く似てないぞ」
「えー、結構頑張りましたよ!?」
「頑張っても似てないものは似てないんだ」
「それじゃあ…………くーれふか?」
すると、ポチは口の両端を前脚で伸ばし、三日月型の口を作ったのだ。
「いや、似てるけど……」
そう、それはリーリアが戦闘によって狂喜に染まった時の物真似。俺が言葉を濁すと、ポチもすぐにそれをやめた。リ―リアが振り返ってこちらを見ようとしたからだ。
どうやらポチもちょっと危険を感じたのかもしれない。
そうだ、リーリアと再会してからあの顔を一度しか見ていない。その一度とは、リーリアが悪魔化したビリーと戦った時。現代でも、これまで何度も一緒に戦ったというのに。
丸くなった……といってしまえば簡単かもしれないが、リーリアの心に何らかの変化があったのだろう。もしかしたら、それがジョルノの死なのかもしれない。
再びリーリアが銀の皆が戦う方を見る。
俺とポチは見合う。「流石に聞けないよな?」、「ですね……」というアイコンタクトをとるも、やはり気になるところだ。
「ふぅ、アズリー殿。片付きましたぞ。先に進みましょう!」
ライアンの号令と共に、再び歩を進める俺たち。
今頃、レイナとナツ、そしてアドルフはランクSのための昇格審査を前に緊張しているのかもしれない。
しかし、昨日話しててわかったが、ナツの技術も相当高みに達している。トレースに魔法を教わり、イデアやミドルスに鍛えられた? いや、キーマンは恐らくフユ。あの二人でガストンから教わった知識を共有したのだろう。
つくづくあの爺さんに頭が上がらないな。
そしてレイナとアドルフ。あの二人も歴戦の戦士たちを最前列で見ていたのだ。ランクS昇格審査……受からないはずがない。
…………ん? 確かトウエッドの昇格審査だと、ライアンが言ってたよな?
戦魔国の昇格審査は六勇士や六法士がするのだろうけど……はて? トウエッドでは誰が審査するんだ?
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
―― 六月二十日 ――
「見えたわ、あれが紅魔の湿原よ」
神山の先の山をいくつも越え、数日の後、俺たちは紅魔の湿原を見下ろせる高台にまでやって来た。
「かぁ~、すげぇな。あそこら一帯、霧で視界不良もいいとこだぜ」
「あぁ、戦闘自体も大変だろうな」
ブルーツとリードが紅魔の湿原を覗き込むように見る。
「それに結構寒いわね、やっぱり」
「さ、寒いどころじゃないわよ。うぅううう……」
マナは大丈夫そうだが、ベティーは肘を抱えながら震えている。まぁ、あの服装では仕方ないか。
「ヘソなんか出してるからだよ。よく腹壊さないよな、お前」
「う、五月蠅い馬鹿兄貴! 可愛い妹に上着の一つくらい貸したらどうなのっ?」
「どう思うよ、あの暴論?」
ブルーツが俺に耳打ちするように言ってくる。これに返答しては俺まで被害を被ってしまう。ここは一つ、魔法士としての役割を果たすとしよう。
確か光源魔法を利用した熱原について研究した事があったな。
「えーっと……ほいのほい、フレアトーチ!」
「……わ、わぁ、あったかーい♪ ありがとうアズリー!」
少女のように飛び回りフレアトーチに喜ぶベティー。
これくらい簡単な魔法公式なら……っと、
「ほい、ほい。イデア、ミドルス。覚えられるか?」
俺は、イデアとミドルスに発光型魔法式を飛ばす。これは、古来より、魔法士の間で行われた遊びのようなものだ。魔力で式だけを描いたものなのですぐに消えてしまうが、簡単なメモのやり取りにも役立つ。
「なるほどね」
「問題ねー」
「「フレアトーチ」」
やっぱりこの二人も優秀だよなー。黒の派閥に入って、リナにその代表親善試合は奪われたものの、リナとほぼ互角のオルネルと、ほとんど変わらない実力を持っていると思う。元々の素質もあるだろうけど、銀っていうチームに出会えた事でそれが良い方向に転がったのかもしれない。
「暖に寄せられてモンスターが集まってくるかもしれません。皆、注意を」
ライアンの指摘に皆頷き、俺たちは紅魔の湿原に向かった。
途中、人が入れるような岩陰があったので、そこに空間転移魔法陣を設置した。これで、いつでも帰る事が出来るし、狩りが順調にいけば、ブレイザーたちも来られるだろう。
しばらく歩くと、足下に生えていた雑草が水気を帯びてきた。どうやら入ったようだ。
「ここが紅魔の湿原……ですか」
ポチが脚に付着した水滴を見ながら呟く。
おっと、という事は――
「ほい春華、マジックシールド!」
「ぇ?」
「皆はブーツだけど、春華は草鞋だろう。それで少しは濡れなくて済むよ」
「……ありがとうございんす」
今の間は何だったのだろうか。すぐに顔を背けられてしまった。もしかしてお節介だっただろうか?
とりあえずポチもやってほしそうだったからかけておこう。
さて、多数のモンスターの気配こそあるが、襲い掛かっては来ない。しかし、それは「まだ襲い掛かって来ない」だけであって、その機会をじっくり待っているのだろう。
俺は先頭を歩くライアンとリーリアと顔を合わせ頷く。
「乗らない手はありませんな」
「存分にやりなさい」
援護をする俺とポチの顔にも力が入る。
それは周りの銀のメンバーも一緒だった。
「……来る!」
足下の草、大地を揺らし、近付いて来る無数の足音。
紅魔の湿原がどんなところなのかはまだわからない。しかし、ここでの戦闘は、必ずガスパーたちとの戦闘に役立つはず。
そう思い、俺は昂る心を声にし叫んだ。
「戦闘準備!」




