355 魔法士たちの夜
「空中浮遊魔法、レビテーションの完成。それはさっき皆も見てくれたと思う。けど、これを扱える魔法士はそうはいないと思ってる」
「へぇ、やっぱりそうなんだ。あの宙図、とんでもなく素早くて、目がこんがらがりそうだったよ」
流石、ベティーは魔法や魔術を覚えているだけあって、そこらへんはわかるか。まぁ、一番見やすい位置に跨っていたしな。
「具体的にゃ、どんくらい難しいんだ?」
胡坐をかいたブルーツが、膝に肘を置き、頬に拳を当てながら聞いてくる。
「うーん、下級魔法のフウァールウィンドと、上級魔法のグラビティスタンプの連結を四つの結界魔術で縛ってるから……」
「いや、いい。イデアとミドルスの顔見ただけで大体わかったわ。はははは、そりゃすげぇや」
そんなブルーツの制止を聞き、俺は二人を見た。
すると、イデアは渋い面をこちらに向け、ミドルスは「ぐぐぐぐ」と唸りながら俺の説明を咀嚼しているようだった。
やっぱり魔法士ともなると、この魔法の難しさがわかるか。一つの魔法の中に、瞬間的に二つの魔法と四つの魔術。これを加える必要があるという難しさ。
「使えてアイリーンさんとウォレンさんってところか。訓練すればリナ、ティファ、ララ、もしかしたらオルネル、イデア、ミドルスも使えるかもしれない」
あの魔法の難しさがわかるならば、いや、わかるからこそ、イデアとミドルスには使えるかもしれない。勿論、普段の努力以上に訓練は必要だろうが。
「わかった。指導対象者の判断についてはアズリーに任せる」
「あぁ」
「他にはあるか?」
「あぁ、そうだった。この国の巫女と会う事が出来た。神山の入山許可ももらったぞ。リーリアが言ってた場所は紅魔の湿原ってところらしい。お金にはならないかもしれないけど、レベルを上げたりするのには丁度いいかもしれない」
「おぉ、ついにか!」
リードが意気込んで立ち上がり、マナがリードを座らせる。
ブレイザーは俺の言葉に頷き、ライアンを見た。
「では明朝、早速そこへ向かいましょう。メンバーはそうですな。リーダーとレイナ、ナツ、アドルフ以外でよろしいでしょうか?」
「あぁ、問題ない」
「あれ? 何でそのメンバーは行けないんだ?」
俺の疑問にライアンがくすりと笑う。それに、レイナならともかく、アドルフやナツだったら「絶対に行きたい!」と言って然るべきではないだろうか。
しかしその二人、いや、レイナさんもか。三人はやはりくすりと笑うだけ。
そんな状況を不可解に考えていると、ライアンは俺に向かって三枚の書状を見せたのだ。
「それは?」
「ランクSの昇格審査。その書状です」
「あー! そういう事か! ついに三人もランクSの審査を受けるのか!」
「「はい!」」
三人は嬉しそうな顔を俺に向け、そして意気込んだ。先程のリードに負けないような熱気に、思わず俺も顔が綻んでしまった。
「三人共受かるといいな!」
「トウエッドの審査基準なので判別はしにくいですが、三人の実力はどこに出しても恥ずかしくないものだと思っています。アズリー殿のご助言もあり、皆吹っ切れた様子。この数日、それを銀の全員が理解しました」
そうか。俺の助言が少しでも役に立ったのなら何よりだな。
「まったく、たまげたぜ。アドルフがあんな癖のある剣を振るとはな」
「けど身体に馴染むみたいだし、悪くなかったよね」
「ありがとうございます!」
リードとマナに頭を下げるアドルフ。やっぱり型にはまった剣はよくなかったんだな。良い方向に転がってよかった。
「レイナの剣もより繊細さが加わり、流れるような動きになりました。アズリー殿のおかげです」
「はい。自分の身体じゃないような感覚でした」
レイナのライアンに寄せた剣も変わったのか。
まぁあれは一種の病気みたいなものだし、元々レイナには素質があったって事だよな。なんたって、一番ライアンの剣を見ているのだから。
「ナツもシャイニーも思い切りがよくなった。互いのカバーも出来るようになっていたし、攻撃を受ける被害も減った。感謝する」
「へへへ~」
ナツも照れる事があるんだな。ブレイザーが褒めたからだろうか。なんにしてもいい関係だな、ホント。
「そういえば、銀への依頼はどうだったんだ? 強いモンスターはいたのか、やっぱり?」
俺が質問すると、長く口を結んでいたリーリアが口を開いた。
「ランクSSモンスターのマザーが一匹いた。それ以外にもランクSのモンスターが複数匹。中々面白い場所だったわ。ランクD~Fのモンスターを見かける事の方が珍しかったくらいだもの」
「という事は……やっぱりモンスターの活性化が始まっている?」
「可能性は高いわね。過去似たような兆候があったし、それからモンスターも凶暴化したから」
あの時代を最初から生きたリーリアが言うのであれば信憑性が高い。しかしどういう事だ? まだ魔王の胎動期にすら入ってないっていうのに、強いモンスターが本当に多くなってきている。
何か見落としているのか? それとも俺の知らないところで何か起きているのか?
「それでは各自準備を行い、明日に備えてくれ」
「「応っ!」」
結局、答えが出る訳もなく、銀のミーティングは終わった。
本来、こんなにミーティングの頻度は高くないらしいが、今回はチームが分散したし、綿密になってしまうのは仕方ないだろう。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「んあ? 俺と?」
「えぇ、ちょっと付き合って頂戴」
夕食後、俺は二人の魔法士によって呼び止められた。
その二人の魔法士とは、魔法大学時代、俺をいじめていたメイングループの二人。そう、イデアとミドルスだった。
「何、面貸せってそんな話じゃないわ」
「単純に興味本位でよ。一度お前の力を間近で見ておきたいだけさ」
「私たちにだって長年魔法と向き合って来た自負はあるの。だからアンタの力を見て、まだ修め足りないモノがあるのなら、喜んで魔法教室ってのに入ろうじゃないか」
「そのためには、まず、室長様の知識の底を知りたくてな」
なるほどな。
自分の目で見れば納得できる。二人はそう言ってるのだ。いや、もしかしたらそう自分に言い聞かせているのかもしれない。
「わかった。街の外に行こうか」
「イイ場所があるんだ。あれに乗っておくれ」
イデアが横目に見たのは空間転移魔法陣。
なるほど、「あんなところに何故?」とも思ったが、イデアの描いたものだったか。
俺はイデアとミドルスに誘われるままに、空間転移魔法陣に乗った。
出た場所は広い荒野。はて、既に光源魔法が展開されている。という事は先客でもいるのだろうか?
「あ、アズリー君来たー!」
「あり? ナツ、それにシャイニーも?」
「あははは、来ちゃったー」
ころころと笑うナツ。
ふむ、確かに銀にいる魔法士といえばナツも……か。
ならば、見せておいた方がいいかもしれないな。
「あちゃ~、なんだい来ちゃったのかい、ナツ?」
額を押さえながらイデアが困った顔を浮かべる。
「うぉっと。はははは、まぁ、魔法士だったらあの空間転移魔法陣を見れば入ってみたくはなるか」
はて、俺はそんな事は思わなかったぞ? そうか、既に俺は賢者だった。いや、大賢者だと言っても過言じゃないかもしれない。そうか、それなら仕方ないか。
「別にナツがいても……いいんだろ?」
「まぁね、別に戦おうって訳じゃないし」
「ナツにも見せておきたいしな」
見せておきたい……って、それは一体どういう意味だろう。
あれ、そういえばこの二人はバルンの紹介で北の方へ行ったんだったな。腕のいい魔法士に師事を受けるとブレイザーが言っていた。最初の再会の時からいなかったから十日近く。
はて、何をしていたのだろう。




