354 銀の帰還
「いやぁ~飛んだ飛んだっ! アズリー、もう一回!」
てへっとした表情のまま、俺を拝んでくるベティー。
そう、俺はあの場を脱出したのだ。辛うじて動く指先で、新魔法の空中浮遊魔法を発動して強引に皆を、俺の身体ごと持ち上げた。
すると、驚いた皆は、宙に浮く身体の方に興味が向いた。くすぐりから脱した俺は、そのまま庭まで出てから皆を振り落としたのだ。
ブレイザーとライアンは早々に離れたものの、ベティーやブルーツ……いや、それ以外のヤツらは、驚くもすぐに楽しくなってしまったようで、何とか俺の身体を掴み、「あっちあっち!」、「もっと高くー!」など、多種多様な注文までつけはじめたのだ。
正直、この銀というチーム、好奇心だけで言えばランクS以上だと思うのは俺だけだろうか?
終いには、ポチが「アレやってくださいよ、アレ!」とか訳のわからない事、言うもんだから、ブルーツもベティーも「何々!?」と全然放してくれなかった。ポチのあの言葉は完全に飲み会でやる強引なネタ振りである。そんなバリエーションがあったら、俺には愚者の称号なんて付いてないだろうに。
最終的には究極限界化して、色んな魔法を駆使して他のヤツらを振り落としたが、ベティーは相変わらずこんな様子だ。
というか、安くなったな、究極限界……。
「ええい、まずは飯が先だ、飯っ」
「まじ!? 楽しみにしてる、アズリー号!」
まったく、ベティーには敵わないな。
俺とポチは居間まで行き、春華が用意してくれた朝食を食した後、広間へ向かった。そう、食後にブレイザーに来るようにと言われたからだ。
広間へ行くと、リーリア、そして銀のメンバー全員が腰を下ろしていた。
「おぉ! イデア、ミドルス! 久しぶりだな!?」
そう、全員いたのだ。
「へっ、相変わらず間の抜けた面してやがるな」
「何言ってるのよ、さっきの魔力に当てられて、アンタ緊張してたじゃない」
「い、いやあれはだな……ぬぅ」
「まぁ何にしても久しぶりだね。魔王を倒してきたんだって?」
「あ、あぁ。そこのリーリアと一緒にな」
「私も頑張りましたよー!」
ポチのアピールの後、イデアが渋い顔を俺に向けた。
「それだけの事をやってのけて、頑張ってなかったら世界中の人間が怠惰って事になっちゃうわよ」
「はははは、ちげーねぇ」
イデアもミドルスも、何だかんだで柔らかくなったもんだ。
これだけ年を重ねれば、そうもなるか。
「まぁ、その、なんだ?」
「自分で言うって言ったじゃないか」
「いや、それでも目の前にするとよう……」
イデアもミドルスも何を言ってるのだろう?
それにしてもこの二人、こんなに仲良かっただろうか。悪い事じゃないけどな。
「よ……」
「よ?」
「よ、よくもどったな! おかえり!」
気恥ずかしそうに言ったミドルスに、イデアが爆笑する。
「あっはっはっはっ! アンタにしちゃよく言ったよ、くくくくく……」
お腹を押さえるイデア。ミドルスなんて両手で顔を覆っている。確かに、ミドルスは「おかえり」なんて言う柄じゃないが、応えない俺も柄ではないだろう。
「あぁ、ただいま。はははは」
「っておいてめぇ! 今笑っただろう!」
「ははははは、笑う訳ないじゃないか? はははは」
「っ~~!」
「まぁまぁ、ようやく銀が全員集合したんだし、そんないきり立つなってー」
イデアになだめられ、ミドルスがムスッとするも押し黙る。そんな雰囲気の中、俺は数日ぶりに会う銀のメンバーにも、ミドルスと同じ事を言った。
「おかえり、皆」
「おう、おめぇもちゃっかり成長したじゃねーか?」
「ホント、さっきの空中浮遊魔法? あれには驚いたね~」
ブルーツとベティーの性格は、今後変わる事がないように思える。ブレイザーとライアン、そしてレイナは頷いて微笑み、ナツは挙手して「ナツ、ナツとシャイニー頑張ったよー!」とアピールする。
「そうそう聞いてよアズリー。リードったら戦闘の最中、肝心なところで転んじゃったのよー」
「おいマナ! それ今言うか!?」
「長に怒られちゃってましたよね」
「ア、アドルフまでっ!?」
「はははは。命があってよかったな、リード」
俺に言われたのが止めになったのか、リードは溜め息を吐いてしまった。
すると、その間を良しと見たであろうブレイザーが一つ咳払いをした。どうやらミーティングが始まるようだ。
「これより、銀の全体ミーティングを始める。春華、何か問題はあったか?」
「つつがなく。アズリーさんのおかげで貯蓄がうんと増えんした」
春華は目を伏せてブレイザーに報告した。
「ほぉ?」
「八件のランクS討伐。五件のランクA討伐。三件のランクB討伐。都合十六件のモンスター討伐をこなし、二十三万ゴルドを得られんした」
おぉ、そんなに稼いでたか。そんなにやった記憶はないが、お金に換算すると稼げてしまうものだな。
ブルーツが口を尖らせ「ひゅ~」と言った後、春華の顔は暗くなってしまう。はて、一体どうしたのだろう。
「ただ経費が嵩み、イツキさんに送る事の出来た金額は二十万ゴルドです」
「おいおい、三万ゴルドはどこに消えたんだよ?」
リードがそう言うと、春華は申し訳なさそうに俺を見た。
え、俺? そう思った矢先、春華はそこから視線を動かし、ポチを見たのだ。そして更に視線を落とす。そう、見たのはポチの腹部。瞬間、皆その理由に気付いたのだ。
「はっはっはっは! なるほど、ポチの胃袋って事か!」
ブルーツが手を叩きながら笑う。
そしてポチが恐る恐ると俺を見るのだ。
「て……てへっ?」
てへっじゃねぇよ。てへっじゃ。
まったく、春華は出来るだけ切り詰めてくれたんだろうが、それでもそれだけいくって事は、やっぱり大変だったんだろうな。
「わ、悪いなブレイザー。それは俺が後で出すから」
「いや、構わない。それでも余りある仕事をしてくれた。仕事には対価を。ポチにとってはそれが食べ物なだけだ」
「正に。気遣う必要などありませんぞ、アズリー殿」
ブレイザーとライアンはそう言い、俺の懐を助けてくれた。
うーん、確かにポチが頑張った分くらいは帳尻が合うが、本当にいいのだろうか。
「マスターマスター、よかったですねっ」
ばちんとウィンクを向けるポチに、俺は「はは……」と苦笑していると、議題は次のものへ移った。
「アズリー殿からは何かありますか?」
「え? あぁ、そうですね。まずストアルームに閉じ込めていたジェイコブとキャサリンなんですが、アジトに連れて行きました。アイリーンさんとウォレンさんが上手い事やってくれてると思います」
「ほぉ、あの二人を……」
ライアンが顎を撫でながら呟く。
「あー、そういや忘れてたなっ。ははは」
ブルーツのヤツ、やっぱり忘れてたみたいだな。
「はぁ……呆れたもんだね。それ、戦士大学の奴らが聞いたらただじゃ済まないよ?」
イデアがじとっとした目を向け言ってきた。確かに戦士大学の人間から見たらあの二人は象徴とも言える存在。イデアの言う事も尤もだ。
「はははは。それと、ティファと春華と一緒に稼いだお金とは別に、ちょこちょこ討伐してたんだけど、そっちのお金はどうしようか?」
「ティファがこちらに……いえ、それ以上に動いていたとは、頭の下がる思いですな、リーダー?」
「そうだな、こういう所は俺も呆れる」
「ははははは! ブレイザーが呆れるってのは相当だな、アズリー?」
おかしい事なのだろうか。
いや、まぁ、他にも報告する事はある。ここで口を挟めばミーティングも長くなってしまうだろう。
「コ、コホン。銀とは直接関係ないかもしれないけど、ティファの使い魔のタラヲの件。昨日別れる前に、特殊な魔術をティファに教えたんだ」
「「特殊な魔術?」」
「使い魔の主が使い魔に向かって発動する事で、使い魔の覚醒を促す《瞬間覚醒》という魔術。これは本来、戦闘中、未熟な主が使い魔を扱い切れない時に使用する強制力を持った魔術なんだけど、少し改良を加えて、瞬間的にタラヲの呪いを打ち消す事に成功した」
使い魔の洗脳契約とは違い、あくまで使い魔の戦闘力を平常化させる特殊な魔術。これがタラヲに有効だとは思わなかったが、試してみて正解だったな。
「へぇー。って事は、タラヲはティファのその魔術があれば元の姿に戻る事が出来るって事か」
「そういう事だブルーツ。時間にして十数分。インターバルは一日ってところだな。でも、あの二人の距離はどんどん縮まってるから、それも徐々に変わっていくと思う」
その報告を受け、ライアンとレイナが頭を下げる。
「お気遣い感謝します、アズリー殿」
「ティファの親に代わりお礼申し上げます、アズリーさん」
タラヲの狼王ガルムとしての戦力は強力だ。
たとえ一日十数分だとしても、ティファを守る術となってくれるだろう。なんだかんだであの二人はいいコンビだと思うしな。
「気にしないでください。俺が好きでやった事です」
瞬間覚醒の魔術を教えた時、ティファはムスっとした表情だったが、どことなく柔らかい雰囲気をしていた。きっと、ティファ自身は気付いていないのだろう。
「それじゃあ次の報告だ」




