331 フードマント
「聖戦士ポーア。その二人の弟子の存在については俺様も知っていた。どっかの貴族の二人って話だったが、魔王を倒してから姿を消したってのが実際聞いた話だ。だったらその二人が聖都レガリアにいない可能性の方が高い。まぁ二人に会ってたんだったら、そいつらがどこにいたかわかるんじゃねぇの? リーリア」
「ブライトたちはトウエッドより北の山を根城にしていたわね」
「という事は北東……」
確かに、神がこちら側に悠久の雫を出現させる可能性も否定できない。
しかし、全ては悪魔の存在が証明している。
悪魔はレガリアに集まっている。それは今の時代でこそだが、あの時代、守らなければいけなかったのはやはり聖都レガリア。
レガリアの誰かが悠久の雫を作ったとしても不思議じゃない。
「その理屈なら、確かにトゥースが指摘した『二人が悠久の雫を飲んだ可能性は低い』って話は信憑性があるな?」
すると、リーリアが簡易地図の北東。つまりブライトたちがいたであろう場所を指差して言った。
「……ブライトは、悠久の雫の研究をしていたわ」
「何だって?」
「ごめんなさい。アズリーがあの時代を離れた後、アズリーの事、話してしまったの……」
リーリアは申し訳なさそうにそう言った。
つまり、リーリアが話すまでブライトが追い込んだって事だ。流石にこれはリーリアを責められない。
「はんっ、そいつも馬鹿だな。悠久の雫は作ろうと思って作れるもんじゃねぇ。ほんの少しの偶然と神の気まぐれによって出来るもんさ」
リーリアは何も言わなかった。いや、言えなかったのだろう。
確かに悠久の雫はケーキ作りながら出来ていいものじゃない。ブライトはそれを知ったら頭からアホ毛とか一杯出すんだろうなー。だが、弟子の名誉のために、これだけは言っておかないとな。
「トゥース。俺が言うのも何だが、ブライトは才能溢れる男だった。それだけは言っておく」
「けっ、結果が捻れてちゃ意味がねーんだよ」
また独自の考えを……。
まぁ、トゥースはこういうヤツだし仕方ないか。
「さ、話は終わったんだ。さっさと行きな!」
トゥースは面倒事を追い出すかのように、手をプラプラと振った。
俺は全員に回復魔法を掛け、横たわるポチの口にポチビタンデッドを押し込んだ。
すると、リーリアが宙図を始めた。
お、これはもしかして、俺がリーリアに教えた――
「――のほいのほい……ハウス!」
大きな光に包まれながら現れたウェルダン。
「ぐぉおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!?」
が、いきなり奇声をあげた。
「どうしたウェルダン?」
「おいやばいぞリーリア! 身体がバッキバキでアチコチがガクガクだぜ!?」
ブルブルと息を吐き、身体をうねらせるウェルダンを、トゥースが睨む。
そしてトゥースは角を掴み、
「うぉおおおおおおおおおおりゃあああっ!」
ウェルダンを巨大な岩壁に投げつけた。
これには俺もリーリアも目を丸くしたが、トゥースは「ふんっ」とだけ吐き捨てた。
「え、何してんの?」
「あんなの天獣にとっちゃマッサージみてぇなもんだよ」
「そんな訳――――」
「――――ハハハハッ! ちょっとは痛みも引いたか! そこのオーガのような男! やるな!」
あったわ。
するとウェルダンは身体を前後にバタつかせ、身体に付いた土埃を少し払った後、ようやく俺を見た。
「おう、ポーアじゃないか?」
「や、やぁ久しぶりだな、ウェルダン」
「ウェ、ウェルダンさんです!?」
俺の背後でようやく回復し、ウェルダンの出現に気付いたポチ。俺のマントにしがみついて離れそうもない。
久しぶりに会って過去のトラウマでも思い出してしまったのかもな。
今度またポチを牛にでもしてみるか。
「マスター、また変な事考えてないでしょうね?」
リーリアがウェルダンに経緯を話している時、ポチがじとっとした目を向けて聞いてきた。
相変わらずこういうところは鋭いな、コイツ。
「ソ、ソンナコトナイヨ?」
「怪しいですぅ」
「い、いいからいいから! ほら、これから頑張ってもらわなくちゃいけないんだから、宜しく頼むぞ! ほい、オールアップ・カウント2&リモートコントロール!」
俺は誤魔化すようにポチとウェルダンに身体強化魔法を掛けた。
そして、銀の皆をトゥースに会わせるため、その場に一つ空間転移魔法陣を置いた。
ポチの目は終始俺を捉えて離さなかったが、その背に乗る事で、ようやく解放されたんだ。
「ハハハハ、五千年後か! そいつはいい!」
どうやらウェルダンへの説明が終わったようだ。
リーリアもウェルダンに跨り、俺とポチ、そしてリーリアはトゥースの方へ振り返り手を上げた。
トゥースは腕を組んだまま「けっ」と言ってよそを向いたが、あれはトゥースなりの見送りなのだと、俺は知っている。
「よっしゃ! 次は王都レガリアだ!」
「トばしますよ!」
「振り落とされんなよ、リーリア!」
「誰に向かって言っている」
「アォオオオオオオオオオオオオオンッ!!」
「ハァアアアアアッハッハッハッハッ!!」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「とか言って意気込んだはいいけど、結局ウェルダンさんはまたハウスの中ですね」
「仕方ないだろう。あんな巨大な牛が王都に近付いたら警戒されちまうしな」
王都レガリアに着いた俺たちは、リーリアを王都の外に待たせたまま商業区を歩いていた。
何故か? だってリーリアはエルフ。
あの長い耳で昼のレガリアを歩いたものなら騒ぎになってしまうというものだ。
「マスター、このフードマント可愛いですよ!」
ふむ。色はこげ茶だが、胸元から腹部にかけての刺繍に職人のセンスとこだわりが窺える。
ポチが可愛いというのも頷けるな。
「よし、それじゃあこれを買っていくか」
「マスター、二万ゴルドですって!」
「ぐっ!?」
くっ、労働には対価をだ! いい仕事をする職人は報われていいものだ!
そう言い聞かせ、俺はリーリアのためにフードマントを購入した。
おっと、夜動くんだった。アレは必須だろう。買っておくか。
リーリアのフードマントは、幸い色は深いし、夜動く分にも悪くないだろう。
そう思い、外で待っているリーリアにフードマントを渡した。
「これを……私にか?」
「えぇ、似合うと思いますし、街中でも動きやすいと思って」
俺がそう言うと、リーリアは少し顔を赤らめて無言のままそれを羽織った。
おぉ、やっぱり元がいいから、地味な色でもしっかりと映えるな。
「ど、どうだ?」
「とても良くお似合いです」
俺が笑ってそう言うと、リーリアは更に顔を赤くして後ろを向き、そしてフードを被ってしまった。
はて? 街中だけでいいのに……?
それにしてもポチのヤツ、こういう時は「これ、私が選んだんですからね!」とか言わないよな。
ポチの性格上、言うのかと思ったが……うーむ、わからん。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
外でウェルダンに食事を与えた後、再び街に入りレガリア城に一番近い場所に宿をとる。
流石に近いだけあって値段も高かったが、快適性もよく、ルームサービスもあった。
フードを被ったままでは、食事も碌にとれないリーリアには悪くない場所だったようだ。
部屋で食事をとった後、リーリアはすぐにベッドで寝てしまった。
俺とポチはメモをテーブルに残し、自室へと戻る。
そして、ポチも連日の疲れからか、ベッドに跳び込み、くてんと寝てしまった。
ベイラネーアから極東の荒野まで。そしてトゥースとの喧嘩。更に極東の荒野から王都レガリアまで。ポチには相当無理をしてもらったと思う。
ポチビタンデッドの限界こそ感じてしまうが、これも生きているが故だろうな。
ポチの頭を何度か撫でた後、俺は部屋の中に空間転移魔法陣を設置した。
さて、銀の皆を呼ばなくちゃな。
そう思いながら俺は解放軍のアジト。そこの俺の部屋へ空間転移をした。
「ふぅ」
ベティーに念話連絡をすると、トウエッドにいるブルーツとブレイザーがまだモンスター討伐から戻らないらしく、それまでの時間待つという事となった。
仕方ない。それまでの間、時間を潰すか。
アジトの食堂で飲み物をもらい、新たな戦闘法について色々考えようかと思っていた時、思いがけない声が俺の耳に入った。
「アズリーさんっ!」
背後から聞こえる耳慣れた嬉しそうな声。
俺は振り向く前に誰かわかってしまったのだ。
それだけ、彼女との距離が近いのだろうか?
「やぁリナ、戻ってたのか」
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