◆033 ランクSS
身体から吹き出る血液、歪な形の腕、辺りに響き渡る雷撃のような轟音。
ブレイザー達は未だあの黒槍に悩まされていた。
「ハイキュアー・アジャスト!」
アイリーンとウォレンの分隊により、既にオーガキングの周りのインペリアルオーガは壊滅状態となっていた。
しかし尚も攻撃は止まない。地面に転がる黒槍を拾っては投げ続けている。
「ぐぅううっ、くそ! あの爺さん何が三回防げだよ! もう十回も防いでんぞ!」
「ぬぅ……士気を下げない為の方便だ、仕方あるまい!」
「いっつぅ……もうっ! 兄貴の声が傷に響くわよ!」
「なんだとぉっ!?」
「なによっ!」
「来るぞ!」
再び声を掛けるダラス。
轟音と共に弾かれる大きな槍が宙を舞う。それとほぼ同じタイミングでビリーの回復魔法が施される。
「い……ってぇぞボケェ……」
「いつまで……続く……?」
「だ、だらしない男共ね……」
「くっ、逞しい女もいたもんだな……しかし、そろそろ限界……だな。ビリーもそろそろMPが無くなるはずだ……」
ブルーツがぼんやり霞む目でビリーを見る。確かにその表情は焦りを迎えている。
「やべえな……」
その言葉に反応したかのように、遠くでポチの極ブレスの光が見えた。
「間に合った!」
アイリーンが叫んだ。
どよめき始めていた分隊の面々の顔が上がる。
「ランクA以外は全員後退!」
アイリーンの指示で全ての隊員が後退を始める。
ウォレンがそれを率いて、戦場にはアイリーン、ビリー、ブレイザー、ブルーツ、ベティー、ダラスが残る。
駆けつけて来るガストンを迎えたアイリーンは、悪態をつく訳でもなくすぐに行動を移した。
「目を瞑りなさい! ブラストフラッシュ!」
魔法陣をオーガキングに飛ばし、掛け声と共に閃光が走る。
一瞬の目くらまし。目を押さえながら王が悲鳴をあげる。
「前進じゃ! 懐に潜り込め!」
「「頑張ってくだ――」」
そう言い掛けたアズリーとポチ。しかしガストンはその首根っこを掴んで引っ張って行く。
「ちょ、俺ランクBぃいいいいっ!!」
「私は関係ないですぅうううううっ!!」
「ふはははははは! ここまで腑抜けた冒険者も珍しい!」
ガストンの魔法士とも思えない腕力が二人の行動を制限する。
閃光と同時に走り出した八人と一匹は、自身の持てる最速で駆けた。
眩い光に包まれていたオーガキングが、大地を壊しながら暴れ回る。その叫び声は大気を揺らし走り向かう者の心臓を掴む。
強烈な拳が地を砕き、その破片が前衛達を襲う。
ベティーは鋭敏にかわし、他の三人は急所だけ避けて突っ切っていく。
「おっしゃあ、一番乗りだぜっ!」
一番最初にオーガキングの懐まで辿りついたのはブルーツだった。彼は攻撃の起点である足に自身最強の攻撃であるスマッシュスラッシュを放った。
本来スマッシュスラッシュは、剣の面で行う薙ぎ払いで、その面と敵が衝突した刹那の瞬間に強引斬り込みを入れる荒技だ。
しかし、その荒技が、ここまで巨大なオーガキングに通じるとはブルーツも思っていない。だからこそ彼は初撃である払いの軌道を、腰を使って変えたのだ。
結果、十分な刃先で足を狙う事に成功した。
斜めに斬り込みの入れた剣先が次に向かうのは、足の外側だった。
「ぉぉぉぉおおおおおるぁああああっ!」
荒々しくくの字に刈り取られた王のふくらはぎ。直後、激痛が走った敵の咆哮が轟く。
「ゴォオオオオッ!?」
「好機! 続けベティーっ!」
「当然っ!」
ブレイザーが叫びながら跳び上がりエアリアルダンサーを放つ。中空で幾度も振られる剣は、ブルーツが付けた傷口をさらに深くする。
悲鳴に似た叫び声も束の間、ベティーが細身の剣から繰り出す妙技、セブンスランジを放った。目に見えない速度で放たれる連続の突きが、ブレイザーの反対側からオーガキングの足を襲う。傷口こそ目立たないが、その攻撃は内部の破壊を確実に行っていた。
「凄まじいチームワークだ。行くぞ!」
ブレイザーの後方からダラスが跳び上がる。数本の丸太を束ねたような大きな足は既に無残な状態となっていたが、この四人の狙いはダメージではなく、支えを無くす事にあった。
ダラスは正面の仲間たちが落ちた後、横一線に空を数回払った。
瞬間、傷口は断面になり、オーガキングのふくらはぎから下は、地面に向かって落ちて行った。
「うぉお、ありゃガンマストラッシュかっ!? 初めて見たぜ!」
「西方の秘技とされる一点集中型の剣技……伊達ではないという事だな」
ブルーツが驚き、後方で魔術陣を宙図しているガストンが呟く。
「ゴォオオオオオオオオオオッ!!」
もはや痛みを通り越す程の苦痛により、先程まであった余裕の表情が崩れる。
「そうよ、その顔が見たかったのよっ! 次、利き腕狙うわよ! シャープウィンド・アスタリスク!」
幾重にも重なる鋭い風の魔法が、王の右腕に降り注ぐ。
「シャープウィンド・クロス!」
ビリーもそれに続き、大きな腕に段々と切り込みが入っていく。
その時、見当外れの方向に腕をぶんぶんと回していたオーガキングがニタリと不気味に笑った。
「なっ、もう見えるの!? ちょっと、もう油断を誘えないわよっ?」
「ふん、出来れば死ぬまで目を瞑っていてくれればと思ったのだがな……八角結界!」
ガストンの声と同じく、女王の時と同様に上空から魔術陣が現れる。瞬時に光の杭が八方の地面に刺さり王の動きを止めた……はずだった。
「ゴ、ゴォオオオオオッ!」
「なっ!? ちょっとガストン、止めれてないわよっ!」
「ぬかせ婆っ、想定の範囲内だっ! ……出番だぞ小僧!」
ガストンが前方を向きながら後方に意識を飛ばす。
彼が放った魔術陣と似た魔術陣を、今まさに放とうとしているのは、凄く嫌そうな顔をしているアズリーその人だった。
「ほいのほいのほい……六角結界……」
「私は関係ないですぅ……」
同じように嫌そうな顔をするポチは、巨大化しながらマスターであるアズリーを乗せて走っている。
八方と六方、計十四方の地面に刺さる光の杭が、今度こそオーガキングを止めた。
「ちょ、今の魔術っ!?」
「これは驚きましたね……」
魔法士であるアイリーンとビリーが驚く。
ガストンと戦魔帝ヴァースしか扱えないはずの魔術をアズリーが使ったからである。
「ふははは、六角か。その若さで大したものだ! ほれ、もう少し見せい!」
「……ほいのほいのほい。剣閃集降……」
もはやあまり言葉を発したくないアズリーは、半ばやけくそとなって魔術を放った。
オーガキングの右腕上空に現れたのは無数の斬撃。先程のアイリーンの魔法が霞んでしまう量の剣刃だった。
「ぬぅ、またも知らぬ魔術を! 面白い、面白いぞ小僧! ふはははははは!」
「私は関係ないですぅううっ!」
ガストンが大きく笑い、ポチが大きく嘆いた。
「……寸分たがわぬ場所に斬撃が……何なのよあの子!」
「底が浅いとは言え、六法士であるアイリーンを憤らせる一年生……か。確かに面白いな」
ビリーがアイリーンに届かない声で呟いた。その口元は密かに緩んでいる。
「へっ、やるじゃねえかアズリー! しかしこの結界も大して持ちそうにねぇ! 野郎共、行くぜぇ!」
「「おおぉっ!」」
「ちょっと、ひと括りにしないで、よっ!」
ベティーが兄に文句を言いながら剣を振る。
四人の戦士は足への攻撃に集中し、機動力の無力化を図っている。
小回りの利く腕への攻撃は、一瞬でチームを壊す事を彼等は知っているからだ。結界があるとはいえ、いつその効果がなくなるとは限らない。執拗に急所を狙わないのも、前衛としての知識の一つなのだ。
「ゴ、ゴオオオオオ……オオ……」
「弱ってきたな……しかし結界もそろそろ限界か……」
再び放った八角結界を支えるガストンが呟いた。その下にあるアズリーの六角結界にもひびが入り始めている。
「ガストン、私の魔法力ももう尽きます!」
「くっ、攻めきれぬか! 小僧! さっきからさぼって何をしている!?」
「んー……これじゃないこれじゃない……あ、あった!」
苛立ち混じりのガストンの声が耳に届いていない様子のアズリーは、ポチの上でストアルームの魔法を使い、黒い空間の中から何やら探しているようだった。
それを見たガストンは驚愕する。
空間制御しながらその空間に手を入れるアズリーの姿に。
(ばかなっ? 空間発生の発動、空間の維持、反発の制御、自分に対する防御……一体どれだけ膨大な情報の魔法陣だ!? それをこの短時間の宙図で成したのか……この小僧、もはや面白いだけでは済まぬな……)
「マスター、何出したんです?」
「んー? スピナクルザウルスの酸とポチの胃液を化合して出来た超酸だ」
「ちょ、何してくれちゃってんですか馬鹿マスター!」
アズリーは自信を持って提示したが、ポチの表情は驚きと嫌悪感で溢れていた。




